第16話 推しの配信探索者が渋谷ダンジョンの深層モンスターの解説をするようです 後半
「お、モンスターが来たようです」
鉄のトレジャーボックスから打刀を手に入れた真神は試し斬りの相手を求めてダンジョンを探索すると、獲物を見つける。
「グルルル………」
ドローンカメラが捉えたのは人間のように二足歩行する三匹のハイエナ。
ただのハイエナと違うのは手は人の手に近く武器や盾を握っており、体には革や金属の鎧を身に付けていた。
「ノールか」
真神がモンスターの名称を口にすると同時に動画のテロップには現れたモンスターがノールと言う名称のモンスターで、三匹前後の群れで襲いかかる残忍な獣人型モンスターと紹介される。
真神は打刀を下段左脇構えに持ち、ノール達の攻撃を待ち構える。
ノール達は真神を見つけるとダラダラと涎を滴しながら吠え声を上げてその手に持った手斧やショーとソードで襲いかかってくる。
「ガアアッ!」
「よっと!」
真神は襲ってきた一匹目のノールを逆袈裟に切り上げ、肩台と言う刀の柄を肩に載せる上段構えに型を組み替え、二匹目のノールが振り下ろした手斧を半歩斜め後方にずれて回避する。
「させねぇよ!」
「ギャン!?」
真神はノールが振り下ろした手斧を足で踏み押さえて、打刀を袈裟斬り振り下ろす。
「ぐっ、グルルル………」
「どうした? かかってこいよ」
三匹目は仲間が一瞬でやられたのをみて怯み攻撃を控える。
真神はまた下段左脇構えをとり、一歩前に踏み出すとノールにむけて頭を付き出して、ここを狙えと自分の指でさして挑発する。
「ガアアッ!!」
「あまいっ!」
挑発に乗ったノールは真神の頭を叩き潰そうとショートソードを振り下ろすが、真神は半歩後ろに下がるだけで回避し、カウンターのように刀で股下から脳天まで真っ二つ斬りあげる。
時間にしてたった一分でノール三匹を屠った真神の戦闘術に私は思わず拍手を送る。
『一瞬でやられて勘違いしてるかもしれないが、ノールは十分強いからな。出力の弱いグリモアだとオートガード貫通するぐらいの一撃をだせる膂力もってるからな』
コメント欄では、ノールの強さの注意喚起が書き込まれていく。
「ノールは魔石ぐらいしか売れませんので外れよりですね」
真神は採取用の剥ぎ取りナイフを取り出すと、心臓部分を切り開いて魔石を回収する。
『今みたいなモンスターの死骸とか放置したらやばくない?』
『どういう原理かわからないが、ダンジョン内に一定時間死体とか放置するとダンジョンに飲み込まれていく。過去に定点カメラ設置して死体が飲み込まれていく動画があったぞ』
『有機物無機物関係ないからな。大分昔に当時の政府と自衛隊がダンジョンに前線基地作ろうとして建築中の建物が飲み込まれる事件があったらしい』
視聴者の一人がモンスターの死骸を放置することに疑問を書き込むと、別の視聴者が返信を書き込んでいく。
「広い場所に出ましたね」
真神はノールの魔石を回収した後、ダンジョンの探索を再開してドームのような広い場所にたどり着く。
「あ、やばい!」
真神が頭上を見上げると焦ったような声を漏らす。
ドローンカメラがドーム状の部屋の天井にカメラをむけると、暗闇の中に無数の光る目と思われるものが真神を見下ろしていた。
「キエエエーー!!」
ドームの屋上に無数にいたのは血のように赤い髪のまがまがしい顔の老婆の上半身に爬虫類の下半身と鉤爪の生えた手足、コウモリのような翼を生やしたモンスター。
黒板を爪で引っ掻いたような不快な鳴き声をあげて飛び回っている。
動画のテロップにはハーピーと名前が表示され、その鳴き声は超音波攻撃になると解説されていた。
「アアーッ!」
「うるせーっ!」
天井を飛び回っていたハーピーの何体かが真神に向かって叫ぶと、音の槍となって次々と真神に向かって飛んでくる。
真神は耳を塞ぎながら右へ左へと飛び回って超音波を回避すると、真神が先ほどまでいた地面が次々と破裂して抉れていく。
「ここで! ハーピーの簡単な倒し方を! 説明したいと思います!!」
真神は超音波を回避しながら大声でハーピーの倒し方を説明し始める。
「まず用意するのはこれ!」
真神はジャージのポケットから細長いグレネードを取り出すとピンを抜いて上空に投げてその場にうずくまる。
ハーピー達は真神が投げたグレネードを避けるように飛行する。
ある程度の高さに到達すると、グレネードから轟音と閃光が放たれて、ハーピー達が気を失って次々と墜落していく。
「あ~………耳がキンキンする………えー、ハーピーは強い光りと外的な音に弱いので、フラッシュバンなどを使うと簡単に無力化できます」
真神はカメラに向かって解説しながら息のあるハーピー達に止めを刺して翼を切り取ってく。
『この情報もっと早く知りたかった』
『これも噂のテンマと言う人から教わったのかな?』
『うーん、チームで動くとフラッシュバン投げるタイミングとか話し合わないと駄目だな』
コメント欄では勉強になったのか、探索者達があれこれ話し合うようにコメントを書き込んでいく。
「ハーピーは魔石だけじゃなく、翼も売れます。ザイルなど登坂道具があれば巣を調べるのもいいでしょう。ハーピーはカラスみたいに光り物を集める習性がありますので、運が良ければ宝石などが手に入ります」
ハーピーの魔石と翼の回収を終えた真神はドームを抜けてダンジョンを進んでいく。
「お、ボス部屋ですね」
真神が進む方向にボス部屋を象徴する巨大な扉が現れる。
「それでは挑戦してみたいと思います」
ほんの少し緊張した面持ちで真神は扉を開ける。
『こっちも緊張してきた』
『新宿ダンジョンと違って渋谷ダンジョンはボスは未確認なんだよな』
私も息を飲んで真神の動画を見続ける。
ボス部屋はとても広い礼拝堂のようになっており、奥の方にはこのダンジョンの神と思われる石像が奉られていた。
石像の前には巨大な生物が像に祈りを捧げていたが、真神が侵入してきたことに気づくと、脇に置いてあったランスを手に立ち上がる。
「トカゲのケンタウロスか?」
真神がボスの姿をみて呟く。
カメラが捉えたボスの姿は上半身が立派な鶏冠の生えたトカゲ人間で、下半身は胴長四つ足のトカゲの胴体、尻尾には両サイドから鋭いトゲが生えており、蛇のようにうねる。
「ウオオオオオーッ!!」
トカゲケンタウロスは信奉する神に開戦を知らせるように雄叫びをあげると、真神に向かってランスチャージしてくる。
(カメラ越しでも怖い)
4メートル近い巨体が地響きを立てて突進する姿は私は映像だとわかっていても恐怖を感じる。
真神は右に飛んでランスチャージを回避しながら、打刀でカウンターの一撃をトカゲケンタウロスに撃ち込む。
真神の一撃はトカゲケンタウロスの鱗に弾かれてギャリンと金属音を響かせて火花が散る。
「ウオオオオオーッ!!」
ランスチャージを躱されたトカゲケンタウロスは大きく弧を描いて真神の方に向きを変えると、ランスを地面に突き刺すと、ランスを突き刺した地面からソニックブームが発生し、石畳の床を吹き飛ばしながら、ソニックブームが真神に向かう。
「うおっ! あぶねえっ!!」
真神は跳躍してソニックブームを回避した瞬間、トカゲケンタウロスか左手に装備していたバックラーから刃物が十字に生えて、手裏剣のように飛んでいく。
「くっ!」
真神は打刀で咄嗟に防ごうとするが、バックラーのほうが威力が強いのか、弾かれて地面に叩きつけられる。
その瞬間を狙っていたようにトカゲケンタウロスが跳躍して、バックラーを受け取りながらトカゲの足で真神を踏みつけようとする。
「だあーーっ!」
真神はその場から横にゴロゴロ転がりながらトカゲケンタウロスのボディプレスから逃げて起き上がる。
「うひいいいっ!!」
真神が起き上がると同時にトカゲケンタウロスが真神に接敵しており、ランスで何度も突いてきて、真神は必死に避けたり、刀で受け流したりする。
『やべぇ、ボスの動きが速い!』
『負けるな真神!』
真神はランスのリーチを殺そうとトカゲケンタウロスに肉薄を試みるが、トカゲケンタウロスは後ろ足で二足立ちすると、カウンターで前足で真神を蹴って吹き飛ばし、更に真神に向かって十字に刃が出たバックラーを投げつける。
「げっ! バッテリーの残量が!!」
トカゲケンタウロスの蹴りとバックラーの攻撃をグリモアのオートガードで防いで無傷でいられるが、代償としてかなりのバッテリー量を消耗したようだ。
トカゲケンタウロスは前足で地面を数度蹴るとまたランスチャージを行う。
「んなろっ!!」
真神は大きく息を吸うと、打刀でランスチャージを弾く。
トカゲケンタウロスはランスチャージを弾かれて体勢を崩す。
「ここっ!!」
真神は半回転しながら打刀に遠心力をのせて逆袈裟に斬りあげる。
金属同士がぶつかり擦れあう音と共に、トカゲケンタウロスの腹部に傷をつける。
だが、トカゲケンタウロスもやられたままではなく、弾かれたランスを地面に突き刺すと、それを軸に回転してトゲの生えた尻尾を真神にぶつける。
「ぐあっ!?」
インパクトの瞬間、グリモアのオートガードが発生するが、トカゲケンタウロスのテールアタックの威力が強いのかバリアを破壊して真神にダメージを与えて吹き飛ばし、壁に激突したかと思うと、壁にひびか広がる。
「うう………今のはきいた………」
頭から血を流し、刀を杖がわりにしてなんとか立ち上がる真神は震える手でポケットからポーションを取り出すと口で蓋を開けて頭から薬液を浴びる。すると血が止まり傷が塞がっていく。
「ちょっくら本気だすか」
ボーションで濡れた髪をオールバックにするようにかきあげると前髪で隠れていた素顔が露になる。
(やばいっ! カッコいい!!)
アケミ姉妹とのコラボ以来の素顔にコメント欄がざわつく。
真神は更にポーションを取り出して服用していくと、ジャージの上からでもわかるほど筋力か膨張していく。
トカゲケンタウロスは真神が準備を終えるのを待つように、ランスを構えて前足で地面を蹴りながらチャージ体勢をとる。
「待っててくれたのか? 悪いな、準備オッケーだ」
「ウオオオオオーッ!!」
真神は後ろ上段と言う打刀の峰を背中にくっつけるような上段の構えをとると、トカゲケンタウロスかランスチャージしてくる。
「
真神は紙一重でランスチャージを回避すると上段から刀を振り下ろす。
真神の一刀は鱗に阻まれることなくトカゲケンタウロスを一刀両断していき、地面に刃先がぶつかると地面にクレーターを作り、バキンと刀身が折れる。
「いっ………てぇ~~………」
ランスチャージを完全に避けきれていなかったようでジャージの腹部が赤く染まる。
「これ以上の探索はむりっぽいので、ここで配信を終えます」
真神はまたポケットからポーションを取り出して傷口に薬液をふりかけながら締めの挨拶をする。
「チャンネル登録と高評価よろしくお願いいたします。それではご視聴ありがとうございました」
この動画がアップロードされた翌日、政府会見で渋谷ダンジョンの最高到達階層が更新されたと発表された。
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