第17話 推しの配信探索者がトラップダンジョンに挑戦するようです 前半
「画面の向こうの皆さんおはこんばんにちわ、初めての方は初めまして、配信探索者の真神英夢です」
いつものボサボサの前髪にジャージと便所スリッパ姿の真神が配信開始の挨拶をする。
「今回の動画ですが、本当は新宿か渋谷のダンジョン到達階層更新しようと思ったのですが、探索者ギルドから混乱が収まってないからしばらく控えてくれと言われたので予定変更です」
真神が今回の動画本来の目的を話すと、『お前のせいで休みがなくなった』『しばらく休んでくれ。お前は探索者ギルド東京支部の秘密(にしておきたい)兵器なんだよ!』『頼むから次はレイドチーム組んでくれ、現場を知らないスポンサーが真神はソロで行けたんだからとかお前らも単独でいけるだろとか言い出してる』『真神さんは海外への移住に興味ないですか?』『これを機会に探索者カンパニーに所属しませんか』と様々なコメントが書き込まれていく。
「今回は千葉県にあるトラップダンジョンに来ました」
『うわ、そこか』
『今、探索者ギルトのホームページ見たけどガチでトラップだらけのダンジョンじゃん』
真神がいま自分が何処にいるか報告すると、コメント欄ではトラップダンジョンについてのコメントが流れていく。
「このダンジョンの特徴は、モンスターがいないかわりに様々なトラップがあちらこちらにしかけられています。その代わりトレジャーボックスを見つけやすいダンジョンです」
『確かにトレジャーボックス見つけやすいけど、トラップの数と危険性を考えるとなあ………』
『ダンジョンに突入する度に罠の種類やダンジョンの構造が変わる仕様なのがムカつく』
真神がダンジョンについて説明すると、挑戦したことがある探索者アカウントがコメントを書き込む。
「今回はこのトラップダンジョンに挑戦してみたいと思います。それでは出発!」
真神はそう言ってダンジョンに突入する。
トラップダンジョンは石造りの建物の通路のようになっており、松明が掲げられて道を照らしていた。
「トラップの発見方法ですが、基本はグリモアの罠探知アプリで調べます。ただ、このアプリには欠点がありまして、消耗が激しく常時起動するとあっという間にバッテリー切れを起こします」
『そうなんだよな、だから怪しそうな所を見つけたらアプリで調べるぐらいだけど』
『アプリの精度によっては近づけないと見つからないとか、一定時間アプリを罠がありそうな場所に固定して向けてとかないといけないとかある』
真神がトラップの発見方法を解説すると、アプリあるあるを書き込み始める探索者アカウント。
「そこで皆さんに朗報です! グリモアのアプリ開発で有名な【ナインテイル社】が新作の罠探知アプリを開発しました。精度も高く、なによりも常時起動してもバッテリー消費量が従来の罠探知アプリの半分以下!」
『マジかっ!』
真神の解説をきいた視聴者達がコメント欄で騒ぐ。
「近いうちに発売されるので、よろしければかってあげてください。今回モニタリングも予て試作版貰いました」
『買う買う!』
『アプリ容量と値段にもよるなあ』
『それな!>容量』
「それでは早速探知開始です」
真神はグリモアを取り出してアプリを起動する。
アプリからレーザーソナーが照射されて、通路に罠がないか探知を始める。
「グリモアの液晶画面にこのように風景が表示されて何処に罠があるかわかるようになっています」
真神はドローンカメラにグリモアの画面を見せて解説する。
「お、早速トラップ発見ですね」
グリモアから照射されるレーザーソナーが通路の一角を照らしつづけ、そこに罠があることを知らせ、グリモアの液晶画面にもここにトラップがありますと表示される。
『見た目はただの通路に見えるな』
『そこがこのトラップダンジョンのいやらしい所なんだよ』
「この通路の真ん中部分幻覚で落とし穴になっていますね」
『初手から幻覚かあ』
『うわあ、俺絶対引っ掛かる』
真神はアブリが探知したトラップエリアを調べると、通路の真ん中の道は幻覚で落とし穴になっており、無警戒に進んでいれば落下していただろう。
「通路の両サイドは………こっちもトラップですね」
通路の両端は道になっており、そこを通れば先に進めるかと思ったが、念のために真神がアプリで調べるとトラップが仕込まれてることがわかる。
「壁沿いに歩くと、センサーか何かに反応して途中でプッシュウォールと言う壁が突き出て落とし穴に押しだすトラップのようになっていますね」
『えげつな!』
『二段構えかよっ!』
『どうやって渡れと?』
真神はアプリが探知した壁を調べると、唐突に壁の一部か突起して人を突き落とす形になる。
「だいたいこの手の罠は壁や床に偽装した停止スイッチとか………ありました」
真神がアブリで周辺を精査すると、石壁の石の一つがスイッチになっており、スイッチを押すとプッシュウォールの罠が停止する。
「理由はわかりませんが、この手のトラップには何処かに停止装置が組み込まれていますので、よく探してください。では、先へ進みます」
『スイッチとかなければ罠にはまるしかないのに』
『ダンジョン内のモンスターが引っ掛からないためじゃね? 別のダンジョンの話だけど、モンスターがトラップにやられてたことがあった』
『だってダンジョンだしで納得しとけ、ダンジョンに常識や物理法則求めるとハゲるぞ』
コメント欄では盛り上がってる中、トラップを解除した真神はダンジョンを進んでいく。
「お、ラッキー! トレジャーボックスだ」
トラップの通路を通り抜けると小部屋にたどり着く。
小部屋の真ん中には石で出来たトレジャーボックスが鎮座していた。
『このダンジョン、トラップを解除か回避すると次の部屋でトレジャーボックスが出たりでなかったり』
『苦労してトラップ乗り越えて小部屋に来たらなにもなかった時の徒労感はハンパない』
コメント欄ではこのダンジョンに挑んだと思われる探索者のコメントがちらほらと書き込まれていく。
「罠は………ないようですね、開けてみましょう」
真神はグリモアでトレジャーボックスに罠がないか確かめると、開封する。
「魔石がいくつか………まあ、石ランクならこんなもんでしょう」
石のトレジャーボックスの中身は魔石だった。
真神は魔石を回収すると次のルートへと向かう。
「またまっすぐな通路ですね」
次のエリアも石造りの壁と石畳が遠くまで伸びる一本道。
「また罠の反応ですね………床が回転床みたいになっていて、知らずに進んだら落とし穴に落ちるようになっています」
真神はトラップ探知アプリが反応したエリアを調査すると、床の一部か縦に回転して足を踏み入れた人を落とし穴に落とす仕掛けになっていた。
「しかも穴の中にはスパイクがセットされてますね。グリモアのオートガードがあってもやばいかもしれません」
真神がその場にしゃがみこんで落とし穴の中を覗くと、落とし穴の底には無数のスパイクがセットされていた。
「解除スイッ───っ!?」
真神はトラップの解除スイッチを探そうとしていたが、急にその場から後方に跳躍する。
同時に真神がさきほどまで居た場所に巨大な岩が落ちてきて轟音と共に落と穴を塞いでしまう。
「うわぁ………落とし穴に落ちたり、落とし穴の中を覗き込んだり、落ち人を助けようとした人を巻き込む二段構えのトラップだったようです」
『えげつねーっ!』
『これグリモアのオートガードあっても助からねえぞ!』
『殺意高い』
真神は再度アプリで罠がないか確認すると通路を進んでいき、木製の扉の前にたどり着く。
「この扉にも罠が仕掛けられているようです」
アプリのおかげでトラップに気づいた真神は解除機構を探し始める。
「どわっ!?」
トラップを解除しようとして触ってはいけない部分をさわってしまったのか、カチリと何か仕掛けが作動した音がしたかと思うと、木製の扉を巨大なギロチンが突き破って飛び出てくる。
「うへぇっ!?」
真神は咄嗟に壁際に飛び退いてギロチンを回避したら、今度は壁から回転する刃物が飛び出し、瞬時にしゃがまなければ首が切り落とされていたかもしれない。
「連鎖式トラップとか止めてくれよ………取り敢えず先に進みます」
ギロチンと壁から回転刃のトラップコンボを回避した真神は緊張をほぐすように深呼吸して部屋にはいる。
「あからさまな坂道ですね………」
部屋の中は坂道になっており、坂道の真ん中には人が一人は入れそうな溝があった。
『絶対坂道の上から岩とか転がってくる』
『溝に隠れて回避する系?』
『下手にレイドチームで挑んだら溝に入れない人出そう』
視聴者達が予測したように、坂道の上からゴトンと何か重たいものが転がり落ちてくる音が響いてくる。
真神とドローンカメラが坂道の上を覗くと、坂道の通路ギリギリまで塞ぐ車輪が転がり落ちて来ていた。
「ですよねーっ!!」
『ほらやっばり!』
『これは読めた』
『予測できても動けるかは別』
真神は咄嗟に溝に飛び込み、車輪を回避する。
「やっぱり二段構えか!」
一個目の車輪を溝に飛び込んで回避したかと思うと、一個目の車輪に隠れるように後方から溝を転がる車輪が真神に迫っていた。
「よいしょっと!!」
真神は腕の力だけで跳躍するように体を持ち上げて二個目の車輪を飛び越えて回避する。
『ほんとここたち悪い』
『予測できても回避できるかは別と言うのがな』
『グリモアがない時代にこのダンジョンがあったら最悪だった』
真神は車輪の罠を飛び越えて坂道を上っていく。
トラップダンジョンはまだまだつづくようだ。
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