第21話 推しの配信探索者が草刈り依頼を配信するようです 後編
「どうやらこの沈没船、別階層扱いの可能性が出てきましたね」
ダンジョン海底の沈没船に侵入した真神は何度かスケルトンの襲撃を迎撃しながらドローンカメラに向かって発言する。
「船内を探索しているんですが、どう見ても外観より船内が広すぎます。動画では編集しているかもしれませんが、二時間近く探索していま………すっと!」
真神は解説しながら物陰に隠れて奇襲してきたスケルトンを殴り返して返り討ちにする。
「貨物エリアみたいな場所に出ましたね」
『どう見ても船より広いな』
『物理法則さん仕事してください』
真神が沈没船の船内を探索していると、広い場所に出る。
これまでの場所と同じく朽ち果てた木箱などが散乱しているが、部屋のど真ん中には一軒家サイズの恐竜のような頭蓋骨が安置されている。
「………これ絶対アンデッドとして動き出すな」
『俺は恐竜型スケルトンが現れるに通りすがりのおっさんの魂を賭ける!』
『おっさん関係なくね? てか、とばっちり!』
『せめて自分の魂かお金賭けろよ』
『金銭はサイトNGだぞ』
恐竜の頭蓋骨を見た視聴者達が恐竜スケルトンが出ると予測してコメント欄が盛り上がる。
「取り敢えず、物投げてみます」
真神は近くにあった木箱の残骸を恐竜の頭蓋骨に向けて投げつける。
「うおっ!?」
木箱の残骸が恐竜の頭蓋骨に命中すると、地響きが発生し真神はバランスを取ろうとする中、ガタガタと頭蓋骨が震え始める。
「キシャアアアーッ!!」
恐竜の頭蓋骨が動き出したと思うと、顎が動いて雄叫びをあげ、頭蓋骨の中から巨大なヤドカリのモンスターが現れ爪をカチカチと鳴らしながら威嚇し始める。
「知らないモンスターだな」
『スケルトンじゃなかった』
『通りすがりのおっさんの魂が回収される』
『真神さんでも知らないモンスターいるんだ』
真神は巨大なヤドカリをみて呟くと、ドローンのマイクが真神の呟きを拾う。
「キシャーーッ!」
「おっと!」
巨大なヤドカリは見た目とは裏腹に素早い横歩きで真神に近づくと、その巨大なハサミで攻撃してくる。
真神は跳躍してハサミを回避すると巨大ヤドカリの背後に回ろうとする。
「んなっ!?」
巨大ヤドカリは後ろにも目があるのか、振り向くことなくバックステップで背中に背負った恐竜の頭蓋骨で真神を押し潰そうとする。
真神はスライディングで回避するが、巨大ヤドカリは追い打ちするように横歩きで何度もハサミを地面に突き刺し真神を攻撃してくる。
「くそっ! 意外と素早い!!」
真神はパルクールで木箱を飛び越えたり、隙間を走り抜けて巨大ヤドカリの攻撃を回避するが、どんどん壁際に追い詰められていく。
「んなろっ!」
『はぁっ!?』
『あり得ねえー!?』
『え? 何で?』
真神は減速することなく壁際に向かって走ったかと思うと、ワイヤーアクションのように壁を垂直に走り上っていき、視聴者達が驚きのコメントを書き込みをしていく。
「今度は俺の番だ!」
ある程度の高さまで駆け上がると、真神は壁を蹴って巨大ヤドカリの頭上に攻撃をくわえようとする。
巨大ヤドカリは体の構造からか、頭上の真神に対応できずに一撃を食らい、その衝撃で転倒する。
「よっしゃ! どんなもんだ!!」
真神はプレデターの鈍器で肩を叩きながらガッツポーズを取る。
転倒した巨大ヤドカリは起き上がると、背中の頭蓋骨を真神に向けると頭蓋骨の顎がパカッと開き、炎が吐き出される。
「ぬおおおおっ!?」
『炎はいたっ!?』
『これは予測できない!!』
『逃げてー!』
真神は炎から逃げるように横に走るが、巨大ヤドカリは追いかけるように頭蓋骨の向きを真神に向け炎をはき続ける。
頭蓋骨から吐き出される炎は周囲の瓦礫に引火していいき、周囲は火の海になっていく。
「お? ガス切れか?」
真神が頭蓋骨から吐き出される炎から逃げ回っていると、ボッ、ボボッ、ボスっと炎が途切れ途切れになっていき、吐き出さなくなる。
「おらっ!」
真神は反撃のチャンスと巨大ヤドカリに向かうと多脚の一つを鈍器で殴り潰していく
巨大ヤドカリも負けじと半円を描くように体を回転させてハサミでバックブローしてくるが、真神は持ち前の怪力を駆使して鈍器で打ち返す。
「ぐあっ!」
巨大ヤドカリは残った足を屈伸さてジャンプするように真神に向かって体当たりする。
真正面からまともに巨大ヤドカリの体当たりを受けた真神は吹き飛び、壁に激突する。
「いって~………オートガードで軽減してこれかよ」
立ち上がった真神は腹部を押さえながら顔を歪めてぼやく。
「キシャーーッ!!」
「だーっ! 遠距離攻撃禁止っ!!」
巨大ヤドカリは距離を取ると、ハサミで地面を掘って、土塊や瓦礫を真神に飛ばしていく。
真神は巨大ヤドカリに抗議しながら土塊や瓦礫を右へ左へ走って避ける。
「でかいだけあってタフだなっ!」
再度巨大ヤドカリが瓦礫を飛ばしてくると、真神は回避せず、オートガード機能で防御しながら、大きめの瓦礫に飛び乗り巨大ヤドカリに近づく。
「おるぅらっ!!」
真神は巻き舌気味に掛け声を上げて、瓦礫に飛び乗り、時折飛んでくる瓦礫を鈍器で打ち返して反撃しながら巨大ヤドカリとの距離を詰めていき、肉薄の距離まで詰めると巨大ヤドカリの頭部に着地する。
「よお、こいつはお返しだ!」
真神は巨大ヤドカリの眼球を支える眼柄と呼ばれる部分を両手で抱えて引ブチッとき抜く。
「ギシャアアアアアーッ!!」
引き抜かれた傷口から体液を吹き出しながら巨大ヤドカリは暴れる。
「ぬおおおっ! ジェットコースターより激しいなっ!!」
真神は残ったもう片方の眼柄に振り落とされないようにしがみつく。
「暴れるんじゃ………ねえっ!!」
「ギギギーッッ!?」
もう片方の眼柄を強引に引きちぎり、残骸を投げ捨てる。
視覚を失った巨大ヤドカリはフラフラしながらめちゃくちゃにハサミを振り回して、頭上にいる真神を何とか攻撃しようと暴れるが、スタミナが切れてきたのか、それとも命が尽きようとしているのか動きが鈍くなっていく。
「チャンス!
真神は巨大ヤドカリの動きが鈍くなった瞬間、空手の瓦割りのような構えを取る。
「
巨大ヤドカリの脳天に真神が拳を打ち込むと、巨大ヤドカリは動きを止めて、ゆっくりと倒れる。
「うへー………疲れた」
倒れる巨大ヤドカリから飛び降りた真神はその場に膝をついて肩で息を繰り返す。
「………えー………あいつダンジョンボスじゃないのか?」
真神は沈没船の船内を見回して、特に変化がないことから巨大ヤドカリがこのダンジョンのボスではないことにがっかりする。
『あの強さでボスじゃないのか?』
『雑魚とか言わないでくれよ』
『真神さんもチーム組んだ方がよくない?』
コメント欄でも、巨大ヤドカリを倒してもダンジョンに変化がないことにショックや動揺の書き込みがされていく。
「さて………他の敵がくる前に解体しないと………」
真神はある程度息を整えると、巨大ヤドカリの死骸を解体し始める。
「お、銀のトレジャーボックス!!」
巨大ヤドカリの腹部を解体していると、体内から銀で出来た宝箱が出てくる。
『モンスターの体内から出てくるんだ』
『大型モンスターだと、ごく稀にある』
『あんなの体内にあってよく普通に動けるな』
『体液まみれなのがちょっと嫌だ』
「うげっ! バッテリーの容量がヤバイ!?」
真神は罠関知のアプリを起動しようとして、グリモアに視線を向けると悲鳴をあげる。
『ヤドカリとの戦いで消耗したか?』
『でも真神さんのグリモアは容量が売りじゃなかった?』
真神がグリモアをいじっている間、コメント欄ではバッテリー消耗の原因についてあれこれ書き込まれていく。
「どうやら水中呼吸や水中移動のスキルシャードが原因のようです。バッテリーが心許ないのでトレジャーボックスの中身を確認したらきかんします」
真神はバッテリー消耗の原因を報告すると、銀のトレジャーボックスを開封する。
「これは………ゴールデンキャビアですね!」
銀のトレジャーボックスの中には金色に輝くビー玉サイズのキャビアが詰まっていた。
『うわっ! ダンジョン珍味!!』
『今ギルドのネット通販で値段みたけどたった10gで最低取引価格30万っ!?』
『たっか!?』
「一つ味見してみましょう」
真神はゴールデンキャビアを一つ摘まむと口に入れる。
「………グミみたいなくにゅっとした食感と噛むたびにキャビアの濃厚な旨味と絶妙な塩分が口の中に染みこんで広がって………ワインかビールほしい!」
『よだれ出てきた』
『ビール取ってきた』
『飯テロ罪とか成立しねえかな』
真神がゴールデンキャビアの食レポをする。
私も他の視聴者のようにお腹が空いて、思わず出前を注文する。
「これをアテに酒飲みたいんで帰還します。お疲れさまでした!!」
何時もなら視聴者にチャンネル登録とか求めるのに、それすらもどかしいのか撮影を切り忘れたままダンジョンから帰還する。
最終的に撮影した映像をギルドに提出するまで真神は切り忘れに気づかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます