第5話 推しの配信探索者が疑惑のダンジョンを調査するようです


「皆さんおはこんばんにちわ、そして初めましての方は初めまして! 探索者の真神英夢です」


 コボルト退治の動画からまた数日後、探索者の真神英夢の新しい配信動画がアップロードされた。


「えー、配信本編の前に私事ですが、武器を新調しました! プレデターの素材で作った鈍器てす!」


 相変わらず声はいいけどダサい格好の真神が挨拶して動画が始まると、拍手や歓声、ジャジャーンと言う効果音と共に真神はドローンカメラに新調したと言う武器を映す。


(趣味悪っ!!)


 ドローンカメラに映し出された真神の武器は私にはセンスか悪く見えた。

 だって金属棒の先端にあのプレデターの生首がくっついてるだけなんだもん。


 コメント欄もキモいだの趣味悪いだの、グロ動画とか否定的なコメントが次々と書き込まれていく。


「素手でも十分戦えるんですけど、たまには見映えも考えないといけませんからねえ」


 真神はそんなこと言いながら、新しい玩具をかって貰った子供のように目をキラキラさせて鈍器を素振りする。


 真神が素振りする度に先端のプレデターの顎がパカパカと動いて、まるで『コロシテ………コロ………シテ………』と訴えかけてるような錯覚に陥る。


 うん、真神は服装といい武器といい、世間一般とセンスがかけはなれていることがわかった。


「ツゴウイイニウム性の武器も悪くないけど、やっぱり自分が討伐したモンスター素材で作った武器はいいですねえ」


 プレデターの頭部をナデナデしながらそんな真神の発言にたいしてコメント欄では、蛮族だのサイコパスだの書きこまれていく。


「あ、ツゴウイイニウムがわからない人のためにご説明すると、ツゴウイイニウムとはダンジョンで産出される鉱石と既存の金属を混ぜた合金です。今では鋼材の代わりに色々使われています。あと一般的な探索者の武器や防具にも使われているんですよ。その上にツゴウイイニウムと別の金属を混ぜたゴツ合金というのがあるんだけど、これが高いんですよね」


 真神は鈍器で肩を叩きながらツゴウイイニウムとゴツ合金について説明する。


「あ、今回の動画目的ですが、探索者ギルドからの依頼で未帰還者が多発するダンジョンの調査を受けたので、記録調査内容を配信します。未帰還者と言うのはダンジョンに突入して約168時間………つまり一週間過ぎても帰ってこない状況の探索者のことです」


 真神が深刻そうな顔で未帰還者の説明をして背後を指をさすと、ドローンカメラは真神が指差す方向にカメラを向ける。


 そこは何処かの登山路で、道の先にはダンジョンの入口であるゲートと呼ばれる次元の穴とキープアウトの黄色いテープ、そしてその周囲を作業着姿の人達が何か機械を持ってうろうろしていた。


「彼らは探索者ギルドから派遣された調査スタッフで、現在機材を使ってダンジョンの脅威度を再測定しています。脅威度は探索者ギルドでも公表していますがAAA~Fの8段階です」


 カメラはまた真神の方向に戻り、ゲート付近にいた人達が何をしていたか、ダンジョンの脅威度の段階を説明してくれる。


「ダンジョンの脅威度はどうやって測定するかは詳しくはダンジョン学を調べてください。俺達の認識としてはアーカム大学のブルーローズ教授が基準値みたいなのを制定して、ブルーローズ教授が作った測定機でそれを今調べ直してます」


 真神の発言と同時に画面の下の方にブルーローズ教授の論文が和訳されたサイトリンクが貼られる。


 試しにサイトを覗いたが、私にはダンジョン学の基礎知識が無いので意味が全然わからなかった。


「測定結果出ました! やはり前回と同じく脅威度Eのクローズタイプダンジョンです」


 真神が解説している間にダンジョンの再測定が終わったのか、ギルド職員が駆け寄って真神に報告する。


「クローズタイプと言うのは、探索者が突入して、ダンジョン内を一定時間滞在すると入り口がロックされるダンジョンです。ロックされると入退できなくなり、ダンジョン内の探索者がボスを倒してクリアするか、探索者全員が全滅するまでロックは解除されません。現在は突入可能状態です」


 その一言で、これまでダンジョンに突入した探索者達の末路がわかった。

 コメント欄ではお悔やみのコメントが次々と書き込まれていく。


 グリモアと言うガジェットのお陰で探索者の死亡事故は大幅に減ったとはいえ、死亡者は0ではない。私は改めてダンジョンには危険が伴うと再確認した。


「本来脅威度Eはグリモアさえあれば怪我することはあっても死ぬことはない危険度です。ダンジョン内がどうなっているか調べたいと思います」


 真神はギルド職員達に見送られてダンジョンに突入する。

 ダンジョンに突入する際カメラの映像が一瞬途切れるが、すぐに再起動して画面に映し出されたのは月に照らされて地平線の果てまで広がる墓場だった。


「うわ~………こりゃアンデッド系のダンジョンだなあ………」


 真神はダンジョン内の風景を見てうんざりしたような表情になった瞬間、ボコッと地面から腕が生えて真神の足首を掴む。


「ゾンビかぁ……そのまま埋まってろよ」


 地面から這い出してきたのはホラー映画で見たことがある外見のゾンビだった。

 真神はため息をつくと、鈍器でゾンビの頭を叩き潰す。


 ゾンビの頭を叩き潰すシーンはグロいのか、『自主規制』の看板を持ったSD真神の画像を被せて隠す。


「うわぁ………しかもダンジョンクリア条件、ウェーブ系かよ」


 一匹目のゾンビをかわきりに次々と墓の下からゾンビが這い出して、ドローンカメラに映る範囲ほほ全てがゾンビに埋め尽くされる。


「こりゃ、確かに全滅するな」


 一斉に襲いかかってくるゾンビ達を相手に真神は鈍器でゾンビの頭を次々と粉砕していく。


「えー、ゾンビ単体はそこまで強くないですですが………」


 真神は近づいてくるゾンビ達の頭を粉砕したり、昔私もプレイしたことがある無双ゲームのように大量のゾンビを吹き飛ばして、ゾンビについて解説を始める。


「ただ、こいつらは痛覚がないので普通に斬ったり殴ったりしてもあまり意味がありません」


 無双と言うか、作業と言うか、とにかく次々と襲いかかってくるゾンビを倒しながら、真神は配信を続ける。


「またアンデッドなので斬っても血もでないので失血死とか狙っても意味がありません。こうやって頭部を粉砕するか、首を飛ばさない限り延々と襲いかかって来ます」


 真神の周囲には頭部を失ったゾンビ達の死骸で山が出来上がっていく。


「でもって、ダンジョンと言うのはクリアするには一定の条件が必要です。あーもー! 今配信中なんだよっ!!」


 真神がダンジョンクリアについて解説している最中に、背後から襲いかかってきたゾンビが真神の肩に噛み付こうとするが、グリモアのオートガードに阻まれ、逆に殴り飛ばされる。


「えーっと、どこまで話したかな? あ、クリア条件ですが、大抵はそのダンジョンのフロアボスを倒したらクリアか次の階層に行けます」

「ガアアァッ!!」

「やかましいっ! 配信中なんだから空気読めっ!」


 地面から這い出してきたゾンビの顔を踏み潰しながら真神は解説を続ける。


「ウェーブ系は一言で言うと、今みたいに無数のモンスターが襲ってくるので全部倒します」


 ここで【この後延々とゾンビを倒し続けるだけなので、ウェーブ終了まで時間を飛ばします】と言うテロップが入り、暗転したかと思うと肩で息を繰り返す真神と、漫画でしか見たことのない山積みされたゾンビの死骸が映し出される。


「はぁ………ひぃ………つ、疲れたぁ~」


 真神は墓石の一つに持たれてその場に座り込む。


「ゾンビって魔石以外売れる部位がないから、あまり戦っても旨味ないんだよなあ」


 真神はバックパックからミネラルウォーターを取り出すと喉を潤した後頭から水を被る。


 コメント欄ではお疲れと言う労いの言葉や、目算でゾンビの数を数えて一人で倒すとかあり得ないと言うコメントがかかれていく。


「だ、誰か………」

「っ!?」


 真神が休んでいると、何処からか女性の声が聞こえてくる。


(まさか生存者!?)


 コメント欄では生存者だとか、声が聞こえたと騒ぎ始める。


「誰か其処にいるんですか?」

「何処ですか! 俺は探索者の真神です!!」


 真神も生存者の声が聞こえたのか、立ち上がると大声で叫びながら声の主を探す。


「たっ、探索者!? 良かった! 私は此処です!!」


 真神が声の主の元へと向かうと、小さな霊廟の中にあるむき出しの棺桶から声と内側から叩く音が聞こえてきた。


「貴方一人ですか? 他の人は?」

「わっ、私だけです! 仲間はみんな死んで、私だけここに逃げ込んだんです!!」


 真神は棺桶に向かって声掛けしながら、周囲をキョロキョロと何かを探し始める。


「たっ、助けてください! これ、内側から開かなくて! ………あの、聞いてます?」


 真神は目的の物を見つけたのか霊廟から離れる。

 ドローンカメラは棺桶を映し、生存者は必死に真神に呼び掛けている。


「助ける前に質問です。貴方とチームメンバー全員の名前をいってください」

「急に何ですかっ! 開けてくれたら話しますから、はやくっ!!」


 真神は墓場の何処からか引き抜いてきた、真神より少し大きめサイズの十字架を肩に担いで戻ってくると生存者とチームメンバーの名前を聞いてくる。


 生存者はそれどころじゃないのか、イライラしてるのかドンドンと激しく棺桶を叩いて、真神に怒鳴る。


「やれやれ、詰めが甘いぞ」

(ちょっ!? エエエエエェェッ!!)


 生存者の返答を聞いた真神は鼻で笑ったかと思うと、フルスイングで十字架を生存者が閉じ込められている棺桶に叩きつける。


「ウギャアアアッ! なっ、なぜわかったあああ!!」


 粉砕された棺桶の中には生存者ではなく、水死体のような膨れ上がった白い肌の怪物が潜んでいた。


「何故も何も、クローズダンジョンに生存者が生き残っていたら、ロックされてダンジョンに入れねぇんだよ!!」

「ペブッ!?」


 真神は棺桶から現れた水死体の怪物をプレデターの鈍器で叩き潰そうとすると偶然か、プレデターの顎がパカッと開いたかと思うと、水死体の怪物の頭を噛み千切る形となった。


「こいつはミスヒアードと言うモンスターで、殺した相手の声を真似て獲物を呼び寄せます。多分これまでの未帰還者はゾンビの大群に呑まれたか、こいつに騙されて殺されたのでしょう。とにかく、これでダンジョンクリアのようですね」


 真神が倒した水死体の怪物の正体を説明していると、周囲の風景が溶けていき、墓場の風景からダンジョンに入る前の登山路に塗り変わっていく。


「配信は以上です。チャンネル登録と高評価よろしくお願いいたします!」


 最後は真神がカメラに向かって手を振り、外で待機していたギルド職員が駆け寄るシーンで配信は終了した。




 


 



 

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