第26話 やっぱり最推ししか勝たん 中編
動画の画面がダンジョンゲートから果てまで延々と広がる赤い砂漠に変わった。
『本当に炎みたいな砂漠だな』
『暑そう』
コメント覧では砂漠に関するコメントが書き込まれていく。
「くそっ! 最悪だ!!」
「足が砂に埋もれる! これじゃ満足に戦えないぞ!!」
「しかも糞暑い!!」
ダンジョンゲートに突入した探索者の面々が砂漠に足を取られて悪態をつく。
「皆さん、私の話を聞いてください!!」
真神以外の探索者の一人が手を叩いて呼び掛けてくる。
「まずは自己紹介させてください。私は探索者カンパニー『スサノオ』所属の御仁田と申します」
声をかけてきた探索者が自己紹介を始め、真神達を含む他の探索者が足を止めて耳を傾ける。
『スサノオ!?』
『スサノオと言えば真神が新宿ダンジョンの28階クリアしたレコード持ちの探索者カンパニーじゃないか』
御仁田と言う人物が事後紹介すると、コメント欄がざわめく。
「この炎の砂漠ダンジョンは新宿ダンジョン20階並みに危険で個人での活動には限界があります」
御仁田は身振り手振りを組み込みながら話を続ける。
「ここでソロで活動して命を落とすのは皆さんも望んでいないと思います。ですので、私から一つ提案があります」
「提案だと?」
御仁田は爽やかな笑顔を浮かべて探索者達に提案すると、真神を含む探索者達が怪訝な表情を浮かべる。
「今回、私達のチームに加入して指示に従ってくれたら一人一千万の報酬をお約束します」
「いっ、一千万だとっ!?」
『一千万!?』
『凄い大金』
御仁田が報酬を提案すると探索者達やコメント欄がざわめく。
「ただし、ファイヤーリザードのドロップ品を全てこちらが受けとる契約を交わして貰います」
「んなっ!?」
「ふざけるなっ!」
「ファイヤーリザードのドロップ品は品質によっては一億前後はするぞ! たった一千万で誰が放棄するかよっ!」
スサノオカンパニーの御仁田の提案を聞いた探索者達は激昂したように怒鳴り、詰め寄ろうとする。
真神は少し離れた場所から御仁田や探索者達の争いを傍観していた。
「無理にとは言いません。ですが皆さん、我々スサノオのサポートなしで倒せますか?」
御仁田の一言に探索者達がうっと言葉につまる。
「今契約に同意してくれたら一千万、ですが後で仲間にいれてくれ、助けてくれと言われても我々は関与しません。我々は今回の討伐のために装備やポーションなど充実させました」
御仁田はそう言いながら、御仁田の仲間と思われる探索者達がこれでもかと装備を見せつけてくる。
『おいおい、スサノオカンパニーのメンバー全員の装備、ハイエンドモデルじゃないか』
『他にもなんか色々準備してるな』
コメント欄ではスサノオカンパニーのメンバーが持ち込んだ装備に関するコメントが書き込まれていく。
「………契約に同意します」
「わっ、私も同意します!!」
「協力したら水や食料も貰えますか?」
探索者の一人が契約に同意すると、残りの探索者も次々と契約に同意して御仁田の周囲に集まっていく。
(真神さんはどうするんだろう)
次々と同意していく探索者の姿を見て、真神さんはどうするのかと姿を探す。
真神さんは御仁田の提案を無視するように砂漠の山を登って周囲の風景を確認していた。
「真神さんは我々スサノオカンパニーに協力しないと言うことですか?」
「ああ、俺は一人がいい」
御仁田はスサノオカンパニーと言う単語を強調するように話しかけてける。
真神は御仁田を一瞥して離れていく。
「では皆さん準備を手伝ってください」
真神を見送った御仁田は他の探索者に声をかけて何か準備を始める。
真神は御仁田達と離れて砂漠を探索する。
「今回の目的であるファイヤーリザードは炎を纏った全長5mのトカゲです。因みに尻尾の数で強さが変わります」
真神は御仁田からある程度離れるとドローンカメラに向かって話し始めます。
「このダンジョンのファイヤーリザードの尻尾がいくつかわからないので、偵察に有利な場所を探します」
真神はそう言いながら高い場所から御仁田達を見下ろす。
御仁田達は何か大型の機械をあっちこっちに設置して陣地を構築していく。
「っ!!」
真神は急にプレデターの鈍器を抜いて周囲を警戒する。
すると、砂漠の砂が盛り上がったかと思うと、砂の中から炎を纏ったトカゲが飛び出してくる。
「おっと!」
真神はもぐら叩きのように飛び出したファイヤーリザードの頭を叩き潰す。
「ギャン!」
殴られたファイヤーリザードは悲鳴を上げるがまだ戦意を失っておらずこちらを睨む。
「ガアアアッ!」
「うわっと!?」
ファイヤーリザードは雄叫びを上げて炎を吐き出し、真神は咄嗟に回避して距離を取る。
「尻尾は一本か………目的のファイヤーリザードではないな」
真神はファイヤーリザードの燃え盛る尻尾の数を確認して落胆するが、気を取り直して構え直すと攻撃する。
ファイヤーリザードの炎を右に左にと避けて距離を詰めると渾身の一撃をファイヤーリザードの頭部に打ち込み止めをさす。
「さて、向こうは………」
真神はファイヤーリザードを倒すと、御仁田達の様子を伺うと、御仁田達もファイヤーリザードと交戦していた。
「結界か?」
御仁田達は先ほど設置していた機械を起動させており、結界でファイヤーリザードの炎のブレスを防ぎながら応戦する。
「向こうも尻尾は一つか……」
御仁田達を襲っているファイヤーリザードも尻尾が一本しかなく、真神が求めるモンスターではないようだった。
「………手伝うまでもないな」
真神は御仁田達に背を向けて、尻尾が多いファイヤーリザードを探そうとする。
「うわーっ!!」
その瞬間、御仁田達が居た場所に巨大な火柱が吹き上がり、御仁田達探索者の悲鳴が響く。
火柱が収まると、結界装置は破壊されおり、その周囲には傷ついた探索者達が倒れていた。
火柱が吹き出た場所には大きな穴が空いており、流砂が発生して砂が穴に流れ込んで行く。
「やべっ! 放置したら穴に飲まれる」
真神は急いで砂の山を降りて倒れている探索者達の元へと向かう。
「おい、大丈夫か!」
「あ、ああ………」
真神がポーションを振りかけながら御仁田に声をかけると、御仁田は頭を振りながら意識を覚醒させて返事をする。
「他のメンバーは?」
「結界装置とグリモアで息はあるが、このままじゃ穴に飲まれる!」
真神は他の探索者達にポーションを振りかけて助け起こして、少しでも大穴から離れようとする。
「ウオオオオオオンンンッ!!」
大穴から雄叫びが聞こえたかと思うと、火柱が一本、また一本と吹き出す。
合計九本の火柱が現れたかと思うと、巨大なファイヤーリザードが大穴から姿を表した。
「きゅっ………九本の尻尾持ちだと………」
全長20mを越える燃え盛る炎の柱のような九本の尾を持つ巨大ファイヤーリザードは大穴から這い出ると、真神達を見て口を開く。
巨大ファイヤーリザードは炎を口の中で溜め込むと火球に変えて吐き出す。
御仁田達探索者は諦めたように逃げる仕草もなくただ迫り来る火球を見つめていたが……
「ていっ!」
巨大ファイヤーリザードから吐き出された火球は間に入った真神によって彼方へと弾き飛ばされる。
『でたっ! 真神さんのていっ!』
『ベビードラゴン以来のていっ!だ!!』
コメント欄では火球を弾き飛ばした真神のていっ!に大盛り上がりの視聴者達。
初見の御仁田達は「は?」と言う顔で呆然と真神を見つめていた。
(真神さんのガントレット、変形してる?)
よくみれば火球を弾き飛ばした方の腕に装着していた黄金のガントレットがシールドに変形していた。
「御仁田さんでしたっけ? 怪我人連れてダンジョンから脱出してください」
「まっ………真神さんはどうする気ですか?」
真神が御仁田に負傷者を連れて脱出するように伝えると、御仁田は戸惑うように真神に質問する。
「
真神はプレデターの鈍器を巨大ファイヤーリザードに向けてそう宣言した。
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