第19話 推しの配信探索者が初心者にお勧めのダンジョンを紹介するようです
「画面の向こうの皆さんおはこんばんにちわ! 初めましての方は初めまして、配信探索者の真神英夢です」
(レガシーアイテムの防具つけてるけど、ほんと似合わないなあ)
いつもの挨拶で始まった推しの配信。
いつものダサいジャージ姿に白金のトレジャーボックスから手に入れた黄金のガントレットとブーツの着用姿がミスマッチすぎる。
コメント欄でもタザイやまたアケミさんにコーディネートして貰ってなどファッションについてコメントが書き込まれていく。
「今回は探索者を目指している視聴者さんから『初心者にお勧め出来るダンジョンはありますか』と言う質問を貰ったので、俺基準で紹介したいと思います」
『真神さん基準って、大丈夫か?』
『いきなり新宿や渋谷とかいかせないよな?』
『まともな配信もするけど、たまに………こう、ねぇ………』
『真面目に紹介するか、真神さんの脳内では初心者はこれぐらい出来て当たり前とか非常識なダンジョン紹介しそう』
真神が今回の配信コンセプトを解説すると、コメント欄では心配するコメントが次々と書き込まれていく。
「俺が紹介しなくても探索者ギルドで聞けば教えてくれますし、探索者を養成する専門学校なら学校自体が初心者向けのダンジョンを確保していたりします。あくまで候補の一つと考えてください。俺が紹介するのはここ品川駅近くにあるダンジョンです!」
そう言って真神は自分が今何処にいるか紹介する。
『よかった、まともだ!』
『ん? そこのダンジョン初心者向けだっけ?(中堅)』
『あそこのダンジョンか、なるほどね』
『そんなとこにダンジョンあったの?』
『ギルドのダンジョン情報調べたら、そこは最近出来た新しいダンジョンだね』
真神がチョイスした初心者ダンジョンを紹介すると、コメント欄では同意するような好意的な意見が書き込まれていく。
「このダンジョンは品川駅近くなのでアクセスしやすく、駅前とあって色々と施設があります。ダンジョンに合わせて探索者向けの店舗も増えていってるので今後更に便利になっていくでしょう。それでは早速ダンジョンに入ってみましょう」
真神はダンジョン周辺の施設を軽く紹介するとダンジョンゲートに突入する。
「このダンジョンは地下十階までの多層型のダンジョンになっています。一階は草原フィールド型のダンジョンとなっており、スライムしか出ません」
真神はダンジョン内を歩きながら、構造や生息するモンスターを紹介する。
後ろの方では顔にモザイクのかかった探索者と思われるチームが真神が考案したスパイクシールドでスライムを狩っている。
「まずここでスライム狩りをして戦闘の度胸や生物を殺す覚悟を鍛えます。スライム狩りで資金を集めて装備を整えて次の階層に挑戦しましょう」
『初心者はやっぱりスライムからだな』
『こちらから攻撃しなければ無害だから、手当たり次第殴ったりしなければ、戦闘のペース配分考えられる』
真神は第一階層がどう初心者にお勧めなのか解説する。
「次の階層へ向かいましょう」
真神はスライムが生息する草原フィールドを突き進み、地下への階段を下りていく。
階段をおりていくと、周囲の風景がガラリと変わり、今度は洞窟風のエリアにたどり着く。
「ダンジョンの階段付近は半径100メートルぐらいだったかな? 理由は不明ですが何故かモンスターが近寄らない安全圏となっています。休憩や寝泊まりする時はなるべく階段付近で休んでください」
真神は何か思い出したように手を叩くと、安全エリアについて説明する。
「このエリアではフェムトラットと言うネズミとフェムトクローと言うカラスのモンスターが出没します。スライムと違ってアクティブで俺たち探索者を見かけると、好戦的に仕掛けてきます」
真神の解説に合わせて動画の画面にはフェムトラットとフェムトクローの画像が貼り付けられる。
両方とも小型サイズのモンスターで、ネズミやカラスに角が生えた姿だった。
「ここでモンスターから悪意をもって攻撃されると言うことに慣れてください。意外と相手が問答無用に襲ってくることの恐怖で心折れてスライムオンリーになる探索者もいます」
『確かに最初はビビった』
『わかるわー。スライム倒して調子のってた鼻へし折られた』
コメント欄では探索者と思われるアカウントが自分の過去の体験と照らし合わせるようなコメントがちらほらと書き込まれていく。
「フェムトクローやフェムトラットの攻撃はグリモアがなくてもしっかり市販品の防具で身を固めていればよほどの事がない限り怪我することはありません。ここでスライムとは違う生物を殺す覚悟を鍛えてください。では次の階層へ向かいます」
真神は口酸っぱく命を奪う覚悟を持てと繰り返し訴えながら次の階層へと向かう。
次の階層も洞窟で階段を降りるシーンを見ていなければ同じ階層と誤認しそうな印象を私は抱く。
「このエリアではゴブリンが徘徊しています。ここも初心者が心折れるエリアなんですよね。スライムや動物型モンスターは倒せても、ゴブリンなど人型のモンスターには攻撃を躊躇いがちになる探索者がいます」
『うん、俺初めてゴブリン倒した時吐いた』
『一緒に探索者やろうぜって言ってた仲間がゴブリンに襲われて心折れた』
『仲間の一人が鬱になって、河岸を変えた』
次々と探索者アカウントの人達が自分の経験談を書き込んでいく。
私は探索者ってシビアな世界なんだって認識を改めた。
「他にも、ゴブリンは徒党を組み、スリングや弓矢など遠距離攻撃や場合にやっては待ち伏せや挟み撃ちなど戦術を使ってきます。このように」
真神はドローンカメラに顔を向けたまま、視認外から飛んできた投石をノールックでキャッチする。
ドローンカメラが石が飛んできた方向にカメラを向けると、そこには身長100センチ前後の緑の肌、尖った耳に鉤鼻の醜悪な外見の小鬼ことゴブリンが三匹いた。
三匹とも皮の腰巻きをしているだけの原始的な衣服で、二匹はこん棒、一匹はスリングをもっており、二投目の準備をしてスリングをグルグルと回転させている。
「返すぞ」
「キッ!?」
真神は先ほど受け止めた石をスリングの準備をしているゴブリンに向かって投げ返す。
ベビードラゴンの逆鱗を撃ち抜く威力がある真神の投石にゴブリンは反応できず、頭部に命中した瞬間ボチュンと鈍い水音と共に頭が破裂する。
「ギイッ!!」
「ギャギャー!!」
残り二匹のゴブリンは仲間の仇だと叫んでるような鳴き声でこん棒で真神を攻撃しようとする。
「シッ!」
真神は独特の足捌きでゴブリンの間をすり抜けるように攻撃を回避する。
(え? なんで?)
私には真神さんがゴブリンの攻撃をすり抜けて回避しただけにしかみえないのに、何故かゴブリン達の首が180度後ろに回っており、ぐらりと倒れる。
『え? なんで?』
『通り抜けたらゴブリンの首が曲がってるとかホラー』
『こえー、通り抜けると同時にゴブリンの首を片手だけで同時にコキャッと捻りやがった』
『恐ろしいほどの早業、俺じゃなきゃ見逃してたね』
『改めて真神の強さはグリモア抜きでおかしいと認識』
『ソロでボス倒せて深層到達エリア更新するだけはある』
コメント欄では真神の攻撃がみえた人とみえなかった人の書き込みで盛り上がる。
「取り敢えずゴブリンを苦戦することなく倒せるようになったら初心者は卒業じゃないかなと俺は思う。その頃にはある程度装備も整ってるし、チームを組んでるだろうしね」
『ゴブリンの倒しかたは非常識だけど、言ってることは正しい』
『ゴブリンの倒し方以外はまともな配信だった』
『私は探索者の専門学生なんだけど、この動画をみて、講師が口酸っぱく殺す覚悟を訴える意味がわかりました』
真神が動画の締めに入り始めると色んなコメントが書き込まれていく。
「ダンジョンはまだまだ続きますが、初心者向けのエリアはここら辺までと俺は思っているので、ここで配信を終えたいと思います。この動画が面白かった、よかったと思えて貰えたならチャンネル登録と高評価よろしくお願いします! それではまたね!」
真神は何時もの挨拶をして動画が終了する。
私は改めて探索者の世界を知れた気がした。
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