第11話 失ったもの



「俺は、藤波 悠」


己を名を復唱する。


「俺は、ヴォーティガーンの契約者」


己の在り方を復唱する。


ファスターと名乗った男に告げられた真実。

両腕で頭を抱え、何をすべきかを考える。

いや、やるべきこと自体は決まっていた。


──藤波 悠にせものを殺す。


彼はいろいろと道具をくれた。

武器に、スマホに、知識を。


悠の中で

今にもそれは、血を求める。

今にもそれは、始まりを求める。


我慢ができない。

悠は無意識のうちに研究所を飛び出していた。







退屈が、安息が、平和が、悠を優しく包み込む。

ここ数日、争いは起きていない。

あの時とは段違いに気楽に生きていた。

いまだに、左腕を失ったことは、誰にもばれていない。


かーん、かーん、と一日の終わりを告げるチャイムが鳴った。

正直言えば、退屈だった。

みんなが、下校の準備を始める。

部活に行くもの、一直線に帰宅するもの、友達と寄り道をするもの。

そんななかで、悠は一人で通学路を逆走する。

退屈な一日が終わる、そう思いながら。


「!」


悠の道をふさぐように人影一つ。

それは、段々悠との距離を近づけてくる。

ようやく、顔が見える距離まで近づいた。


「誰だ……お前は……」


目に映るは自分自身。

違いがあるとすれば、隻腕ではなかった。

何も答えず、男はポケットに突っ込んでいた手を出す。

それドッペルゲンガーはにやりと笑って、背中にかけた剣を握る。

『海神村雲』に類似したそれを悠に突きつける。


「……は?」


その異様な光景はソラも足を止めるほどだった。

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