第6話 開戦の先に
戦いの中で生きていた。
戦いでしか、生きられなかった。
殺し、殺し、殺し、殺す。
どれだけ朱くなろうと、どれだけ失われようと。
関係なかった。
悠久とも言える時の中、ただ、果てを目指し、命を絶つ。
緋色の刃が、世界を斬る。
燃える世界。悲鳴が、怒号が、狂気が、世界を彩る。
いつしか、神をも殺した。
ただ、殺し尽くした。
殺戮を、やめなかった。
何度、鋼の音を聴いたのか。
何度、鐘の音を聞いたのか。
果てを目指した。その先を見た。
嬉しかったのだろうか。
自分ですら、それは分からなかった。
戦いの中で、ソレは目覚める。
長の睡眠から、主を探す。
意思を持たぬソレは、全てを斬る。
強き意思を持つ者を、戦う者を。
夜が開け、天が煌めく。
悠は、半壊したベッドで目覚める。
「……クソが」
目に映るは満点の空。雲一つすらない。
ボロボロと、天井が崩れてくる。
「あ?」
悠の隻腕が黒く染まっていた。
ただ、染まっているのではない。黒い何かが腕全体で蠢いていた。自分ではない何かが、蠢き、巻き付いている。
身体を起こし、半壊したリビングで朝食を取る。
崩れ落ちた家の中で唯一「海神叢雲」があった部屋は傷一つついてなかった。
数日前のことを思い出す。
和室の中心で「海神叢雲」が刺さっていた。まるで待っているかのように。どうやら解凍は終わっていたらしい。
悠は思いっきり「海神叢雲」を引き抜く。透き通っている鋼の刃が主人を映す。
剣はただ、戦いの時を待つ。
白銀が、決意を映す。
「よお」
古臭いエンジンの音を響かせ、マルクが車に乗ってきた。
「ようやくお前の弟についての情報が手に入った」
それは悠にとっては最高のニュースだった。
「乗れ、話はそれからだ」
『海神叢雲』を背中に掛け、悠はマルクの車に乗った。
二人は無言で、先へ進む。
静寂ではないラジオの音色。
自分のベットに比べ、シーツがあまりにも気持ちよかった。
悠は気絶するように深い眠りについた。
白銀の瞳が脈を打つ。
ソレはただ、終わりを待つ。
名を『ヴォーティガーン』。
幾つもの世を終焉へと導くもの。
死を持って破滅を防ぐもの。
『黒』の魔力使い。
星の終わりをソレは待つ。
薄暗い廃墟に影3つ。
マルクは黄色の地図を広げる。
映されるは海。
「さて、時間もないし簡潔に話すとしようか。まず、悠、お前の弟は生きている。場所は太平洋ハワイ諸島、ザンギ島だ」
「ザンギ島って確か……」
「ああ、ご存知の通り、刑務所だ。そこの署長がオルゲイだ。罪状は国家転覆罪。問答無用で死刑だ。もって10日ほどだろうな。お前の弟を取り戻したけりゃアレと戦わなければならない。」
悠の眉間に皺が集まる。
「さ、これまでの話を踏まえてお前の考えを聞こうか、悠」
二つの影に見つめられ、自分の気持ちに向き合う。
答えを出すのに時間は要らなかった。
もとより、答えなど決まっている。
マルクも、ソラも分かっていた。
だから、短く力強く、決意を確認する。
「俺は戦う」
それだけでよかった。
たとえ結末がなくても。たとえ悪として正義に打たれたとしても。自分のやりたいことを成し遂げる。
「良し。それなら、コレも無駄にならんな」
「?」
マルクが独り言を呟く。
「お前、バイクの運転はできるか?」
「は?」
────どうして、こうなった。
10時間はたった。
悠はずっと水上にいた。
マルクが渡したもの、それは海上バイクと呼ばれるものだった。
飛行機は迎撃されるし、船はシンプルに見つかる。
だからバイクらしい。
狂っていた。頭がおかしくないそうだ。
魔力で作られた腕はともかく、いい加減全身が痛い。疲れが半端じゃない。
「なあ、あとどれぐらいだ?もう、腕が死にそうなんだが」
「お前腕無いだろ。ざっとあと5時間ほどだな」
「死ね」
一日中走り続けても平気なエンジン。
エンジンをずっと支え続ける無限のガソリン。
もう、悠は考えるのをやめた。
考えるだけ無駄だった。
「はぁ……もう、二度と乗らねぇ」
ようやく見えてきた、巨大な島。
弟が幽閉されている、最悪の島。
端の方にバイクを止め、刑務所に向けて走り出す。
「……まじか」
そり立つ崖。家よりも大きい崖を登り始める。
「ひっろ……」
街一つに匹敵する草原。
周りを塀に囲まれた囚人たちの娯楽場。
その中央で、男が立っていた。
全身が黒く、首に十字架を背負っている。
『……』
互いに敵を認識する。
「ヨウコソ、ザンギ島へ。神の元にアナタを裁きマス」
白銀が血を欲する。黒が終焉を望む。
悠は『海神叢雲』を構え、神父は拳を構え、悠との間合いを図る。
距離にして10メートル。
「デハ」
「来い!」
復讐が、始まった。
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