第7話 「始めよう、闘いを」
3度、刃が触れる。
鈍い金属音に、響く骨の音。
「はぁ!」
「!」
『海神叢雲』を振るう悠。
それをいとも容易くかわし、カウンター気味に拳を繰り出す神父。
「しまッ!」
ガードは間に合わない。直撃を危惧し、受け身の構えをとる悠。
「!」
胸から出た黒い腕が神父の拳を掴んだ。
刹那、神父が腕を見つめる。
たった一瞬の隙を見逃さない。
悠が剣を振りかざす。
「はあ!」
神父が腕で剣を弾く。
悠の顔面をぶん殴る。
数十メートル悠が飛ばされ、壁に激突し、めり込んだ。
「がは……ッ」
瓦礫が肩に刺さる。痛みが止まない。
右腕で自身の頬を殴る。
一度冷静になり、状況を確認する。
(たった一瞬、いやほぼ同時に、俺の一撃を弾き、殴った)
状況を復唱し、敵との距離を把握する。
500メートル。
悠にとって距離はそこまで問題では無い。
問題は、
「!」
神父が全速力で悠の方へ走り出す。
瞬きの瞬間で、悠との距離を消し飛ばす神父。
悠が認識する寸前、神父がアッパーを打つ。
ガードの構えを取ろうと、両腕を交差させる。だが、
(間に合わない!)
拳が悠の顎を砕く。
あまりの威力に悠の身体が宙に浮いた。
「あった!」
それは、神父によってどこか遠くに弾かれた『海神叢雲』。
だが、あまりにも遠すぎる。
落下していく中で悠は可能性を探る。
『魔力を込めろ!最低限の武器なら作れる筈だ!』
無線により繋がっていたマルクの声。
咄嗟に右腕に力を込める。
少しずつ棒が作り出される。
黒が呻き、命を喰らう。
蠢く黒い剣。
ただ、中身が無い。
これではやはり、意味がない。
神父が見えてくる。彼は右腕を引き、次なる一撃へ備えている。
「はあ!」
落下の勢いを味方につける。
地面までの距離はあとわずか。
無論、あの拳に触れれば死ぬ。
何も達成できずに死ぬ。
────そんなのは、ごめんだ。
悠であり、悠でないもの音。
「ナニッ!」
たった一瞬ではあるが、隙を作ることが出来た。
悠は黒の剣で切り付けるのではなく、投げつけた。神父の目の前で剣は爆発した。これによって、ようやく神父の注意を逸らすことが出来た。
目的は無論、
「海神叢雲」
銀が黒く染まる。蠢く黒い呪い。
「キサマ、その魔力まさか……」
距離は数百メートル。数えたところで、悠は深呼吸をした。
多分、決着がつくまでまともに呼吸はできないのだろう。
ここは戦場だ。自分の在り方を誤魔化す必要はない。
思う存分、使うことができる。
大地が黒く染まる。
底なしの沼のように、ブラックホールのように、出口は無い。限界もない。
『………』
5秒。互いの動きが止まる。自信が持てる最大の武器を構え、敵の動向を待つ。
カーンと、昼を告げる鐘がなる。
決着の鐘がなった。
「!」
刃が腕の肉を切る。
拳が頬を切り裂く。
「ああああぁぁぁぁ!!」
持てる力を全て使い、地盤ごと、神父を蹴り上げる。
宙で巨大な地盤を挟み、『海神叢雲』に力を込める。
外せば死ぬ。
「はああああぁぁぁぁぁあああ!!」
全身全霊を振り絞り、『海神叢雲』を思いっきり振り上げた。
空気を切り裂き、地盤を真っ二つに切り裂いた。
崩壊する岩を横目に、己の敵を確認する悠。
「いない!?」
高速で落下する岩の中、人型が一つ。
「!?」
神父だった。
外したわけではない。ただ、仕留めきれなかっただけだ。実際に、身体の半分が消し飛んでいた。
閃光の拳が、悠の胸を貫く。
神父の身体が赤く染まる。
口から、傷口から致命傷以上の出血。
即死は免れなかった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、流石にこれは……堪えますね……」
結果だけ言えば神父の勝ちだ。
といっても、ほとんど相打ちのようなものだが。
フラフラとした足取りで男は職場に戻ろうとした。
神への祈りを告げようとした。
───────────────────
「なぜ」
何故だ。
「何故俺が」
目の前に映るのはバラバラに喰われた神父の死体。
「生きている」
貫かれた胸元を見ると、黒く染まっていた。
「先を……急がないと……」
悠がゆっくりと立ち上がった。
「いや?その必要は無いさ。わざわざこっちから出向いてやってんだ。簡単には殺さんぞ?」
黒いジャケットを着た男。
右手には兄を殺したハンドガン。
見間違えるわけが無い。
人違いじゃ無い。
忘れるわけ無い。
「オルゲイ……」
「ふーん。知ってたんだ。いやま、そうか。自己紹介の手間が省けたよ。
良いぜ、神父を倒したんだ。本気でやってやるよ」
オルゲイが悠の目の前に立つ。
すると、刑務所が浮き始めた。
見間違えではない。確実に物理的に。
「始めよう、闘いを」
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