第7.5話 light out
少し前。
彼に指示された通り、ここに囚人として潜入することができた。
彼の目的である弟の居場所を突き止める。
それが、私の仕事だった。
ここは大きく二つの棟に分けられている。
一つが囚人棟、もう一つが監守棟だ。
私が確認した限り、囚人棟に目標は居ない。
ここには、魔力を認識した者が入れられる。
一般のものは収監されない、特別な刑務所。
ここにいるもの全員が魔力を使うことができる。
「……!」
地面が大きく揺れ、巨大な魔力の爆発を感じる。
この現象の元凶を知っていた。
窓がないため、外は見えないが、戦いの破片が隕石として監獄全体を襲う。
これが、彼の合図だった。
私は監獄の扉を破壊し、奥へと走り出す。
目的は監守棟の最奥、重要囚人収容室。
鬼門は2つ。
重要囚人収容室は監守所長室を通らなければならない。
仮に、気づかれずに目標と合流したとしても、帰りに出くわす可能性が高い。
今、刑務所全体が混乱していた。
脱獄するには絶好のチャンスだ。
赤いサイレンが何度もなった。
炎が浮かび、烈火として爆発する。
津波がみなを飲み込む。
銃弾が飛び散り合う。
阿鼻叫喚の地獄絵図。
死んで、死んで、死んで、死んだ。
魔力を使う。
私に対する認識阻害。
急いで囚人棟を抜け出し、監守棟へと入った。
階段を登り、看守長室に着いた。
厳重な扉をこじ開け、部屋に入った。
「やあ、遅かったじゃないか。名もわからぬ人」
(気づかれた!?)
中にいたのは黒いジャケットを着た男。
ここの看守長。オルゲイだ。
こちらを向くことすらしない。ただ、椅子に座っていた。
「いや、堅苦しいのはやめよう。俺の性に合わん。まあいい、座れよ」
無言で魔力の流れを切り替える。
囚人からコピーした炎の魔力。
オルゲイが、振り向き、机の上に棒状の金属を置く。
「俺を殺そうってか。はは、良いね悪くない。けど、俺がいなきゃ、奥の扉は開かない」
「なに?」
「俺は別に殺し合いたいわけじゃない。ただ、客人と話がしたい。それだけだ」
机の上に置かれたお茶。湯気が出ていていた。
「そう警戒すんなよ。ほら、そこのお茶飲め。日本人だろ?和の心を忘れるな」
魔力の流れを更に切り替え、不純物が入っていないか確認する。
「どうやら、本当に私と話したいだけなんだ」
「だからそうだと言っているだろうが。……ようやく、警戒を解いてくれ……いや、まあ、仕方ないか」
私が大人しく椅子に座ると、オルゲイが口を開く。
「今更ではあるが、俺たち初対面じゃないよな」
「……」
「久しぶりだな"死神"、何年ぶりだろうなぁ。まあいいや」
そう言って彼は鍵を渡した。
立ち上がり、重要囚人収容室の扉を開けた。
「ついて来い」
薄暗い道をオルゲイが先導して歩く。
「正直なこと言えば、俺はあいつに興味は無い。ただ、上にやれって言われたからな。目的のものは手に入らなかったし」
「じゃあ何故、解放しない」
「興味があったんだ。俺があと土地を去った後、巨大なクレーターができたと。
その中で暴れるやつの姿があったと。情報が入ってきた」
「闘いたい。ただ、それだけだ」
『!』
どこかで強い魔力がぶつかった。
一つの巨大な命が失われた。
お互い、同じ結論に至る。
「お前にここの権限を渡した。後は好きにしろ」
「行くの?」
「ああ」
彼はきた道を戻り、私は更に奥へと進む。
お互いの目的を達成するために。
巨大な扉が開く、その中で鎖に縛られた子供。
「ようやく、見つけた」
「だれ?」
肩を鳴らして、銃をホルダーから取り出す。
ワクワクが止まらない。
「さて、楽しませてくれよ。藤波 悠」
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