銀
讃岐うどん
第1話 悪い夢
暗い、暗い闇の中。
ここには何も無い。
光さえ届かぬ。
フラットな世界。
またか……と思いながら1歩、1歩と歩み出す。
どれぐらい歩いたのだろうか。
どれぐらい経ったのだろうか。
振り向く事もせずにただ歩き続ける。
疲れは全くと言って良いほど無い。
けれど、精神的には疲れている。
地面に座り、仮眠をとる。
時間の感覚が無いせいか、どれほど眠っていたのかわからない。
ゆっくりと立ち上がり、また歩み出す。
あれからまた、どれぐらい歩いたのか、どれぐらい経ったのか、分からなくなるほど歩いた。
ふと、前を見ると人影が一つ。
ソレはブラックホールの様に暗く、何も見えないはずのここですら、明るいと誤認してしまいそうになる。
こちらがに気が付いたのか、影が振り返る。
目が合った。
足がすくむ。
背中ですら呑み込まれそうになるのに、正面を向かれたらどうなってしまうのか、思考よりも先に本能が理解した。
影が右腕を俺に向ける。
周りの空気が歪む。
それと同時に影の背中から触手の如きモノが飛び出して来る。
死を理解する。
回避は不可能。
触手が身体に触れる。
触れられた箇所が黒く変色した。
同時に来る激痛。
触手が身体を蝕む。
やばい、と身体が動くが、遅かった。
影が、俺に向かって歩んでくる。
1歩、1歩、1歩。
死が近づいてくる。
意識が沈んでいく中で考える。
(死にたく無い……)
そう思いながら、影に呑み込まれる。
「おい……」
何処からともなく声がする。
「おい……おい!」
また、声が聞こえる。
「起きろ!バカ」
聞き慣れた声。
その声が聞こえたと、同時に目が覚めた。
「夢かよ……」
はぁ……と、ため息を吐く。
ベッドから立ち上がり、時計を見る。
嘘だろ……
時計の針は8時を指していた。
遅刻確定。
憂鬱だと思いながら、階段を降り、リビングへと向かう。
扉を開け、椅子に座る。
「遅かったじゃあないか」
料理をする音と共に台所から声がする。
「兄さん……今日仕事じゃないのか?」
「有給だ。それよりお前こそ学校だろう」
休みの日なのにスーツを着るのか……
そんなことを考えながら、問いかける。
「暁斗は?」
手を止めることなく、兄貴……織は答える。
「暁人はもう家を出たぞ。飯も食わずにな。
悠……お前は、あぁ……遅刻が確定してるか、良かったな朝飯食えて」
嫌味を込めながら、てきぱきと朝食を皿に乗せる。
『いただきます』
味噌汁と米。
正直言ってだいぶ質素だ。
織は料理が苦手だ、なのに唯一味噌汁だけは作ることができる。
めちゃくちゃ美味い。
ふと、テレビに目をやると時刻は9時をまわっていた。
「ごちそうさま」
食器を台所に下げ、着替えをする。
6月にもなったのに、まだ肌寒い。
鞄に弁当を入れ、靴紐を結ぼうとする。
「おい、忘れるなよ」
後ろから織に呼び止められた。
織が右手をさしだす。
手のひらには、カラーコンタクト。
「あ……忘れてた」
鏡を見ながら左目に付ける。
銀色の目が黒に変わる。
今度こそ、忘れ物は無い。
靴紐を結ぶ。
「行ってくる」
また、今日も憂鬱な1日が始まった。
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一応、初めて書いた作品なので、少しでも面白いと思ったら、星をつけていただけたり、感想を書いてくださると幸いです。
読んでくださり、ありがとうございます。
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