第19話 歪み、汚し、怨め


それは、研究所。


「いや、早いじゃないか。正直、想定外だったよ」

「……」


相対するは、白衣の男と、剣士。


「もう、弥勒みろくの回収は終わったのかい?」

「お前に話す義理はない」


殺意の滲み出ている剣士に、不的な笑みを崩すことなく白衣の男は作業を続ける。


「そうか。残念だよ、と言うか、正直俺はともかくとして、君も

「遺言はそれだけか?」


腰の剣に男は手を当てた。


「いやいや、ここで死ぬわけにはいかない。君は知らないかもしれないが、死ぬのは結構辛いぞ?」

「知るか。どうでもいい」


黄金の鞘から引き抜かれるは、

少し錆びた、装飾の一切されていないソレを、男はファスターに向けた。


「返答次第では殺す」


男の挑発に、


「何言っても殺すだろ」


ジョークを言って、ファスターは戦闘態勢に入る。


「そうか。死ね」

「!」


刹那、

文字通り、光が研究所内を駆け巡り、ファスターの腕を切断する。


(早過ぎんだろ!?)


彼は確かに戦闘に向いていない。

ただ、腐っても神の残滓。

最低限の実力は所持していた。

だが、


「目で、追えない」


認識した時には、既にそこにいない。

稲妻が迸り、全身に斬撃が斬り込まれる。


「ぐっ!」


斬る。

斬る。

斬る。

斬る。

斬る。


「ッ!」


斬撃が研究所を破壊し尽くした。

ファスターはポケットから小さな球体を取り出し、


「あばよ!」


それを、思いっきり地面に叩きつける。

刹那、煙幕が研究所を包み込んだ。


「ッ!貴様!」


予想外だったのか、男は一瞬怯み、銅の剣で煙を払う。

煙が開けるまでは、10秒足らずだった。

だが、研究所には、ファスターの姿はどこにも見当たらない。


(逃げられた……か)


ぼろぼろとなった研究所を見て男は、剣を鞘に納め、眼帯を外した。


(俺が何もしなくても、奴は死ぬ……)


考えるだけ考え、彼は眼帯をつけ直し、出口へと向かう。


「もうすぐ、面倒なのが来るな」


研究所の外に稲妻が迸り、彼の姿は消え去った。





数分後。


「……!」


どう言う事か、理解するのに1分はかかっただろう。


「なんだよ、これ!」


敵だと思っていた奴の拠点が、めちゃくちゃに破壊されていた。

偽者がやった訳ではないだろう。

培養液がぐちゃぐちゃに飛び散り、ガラスの破片が事の異常さを表していた。


「零事、ファスターの気配は?」

「感じ取れない。死んだ訳ではないが、相当弱っている」

「……どういうこと?」

「何が起こっている?」


全員が、予想外の事でフリーズしている。

ただ、


「何が……起きたんだ!?」


1番困惑していたのは、偽者。


「!?」


悠たちの背後に現れた彼は、理解できず、同じように固まっていた。

それも、手に持った剣を落として。




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