第9話 LOST out


(いや、良い厄介と言うべきか。よりにもよって終末兵器の契約者が)


オルゲイは間合いを図りながら考える。

次に取るべき動きを。

殺し合っている敵の正体を。


悠が刃を構える。


「!」


悠は剣を引き抜き、思いっきり虚空を切り裂いた。力が抜けたのか、『海神叢雲』はどこかへ飛んで行った。


(なにが……狙いだ)


眉間に皺を寄せ、思考を加速させるオルゲイ。


「!」


オルゲイの目の前で「黒」が刃となって飛び出してくる。

微かに反応が遅れ、頬を裂かれる。


「はあ、はあ、はあ……」


段々と悠の息が荒くなってきた。

まるで、獣のように。

瞳が、皮膚が、血液が。

「黒」へと染まっていく。


(確か、「黒」は時間の最奥と聞く。下手に動けば……いや、この気配……まさか!!)


危惧していたものが目覚める。


五感で、変化を感じ取る。

黒い風が、悠を包む。

視線を合わせながらリロードをするオルゲイ。


黒い風が薄く飛び散る。

すかさず、オルゲイは中心に向かって発砲。

弾丸が触れた瞬間、弾頭が黒く染まり、消滅した。

五感と、魔力を通してハッキリと伝わってくる。


ここに、人の形をしたケモノ、ヴォーティガーンが顕現した。


「……やりすぎたか……」


後悔の念をぽつりと呟くオルゲイ。

もはや、引き攣った笑いしか出ない。

冷や汗が滝のように出る。



「殺し合い。別に否定はしない。だが肯定もしない。俺にはそんなこと、どうでも良い」


ソレは一歩一歩オルゲイとの間合いを詰める。

いや、詰めるというよりかは散歩のようだった。

飛んでくる銃弾が黒い風によって弾かれる。


「俺は無駄を好まん。必要最低限で最大限の成果を」


ソレが進軍を辞めた。

間合いとして、残り10メートル。


「……時はまだだろう。

なぜ、一人の人間と契約をした」


最大限の疑問をぶつける。

当然かのようにソレは答えた。


「嫌がらせだ。

それと、契約者の願いだ」


「この身体を好きに使って良い。力を貸してくれ、死にたくない、と。

ならば、俺は役目を果たさなければな」


絶対的な死刑宣告。


「まさか、奪われたものハートレスが俺を殺そうとするとは。

これはあれか?誇りに思った方がいいのか?」


思いっきり笑ってソレは答えを出す。


「あぁ、果てで自慢するんだな。俺に殺されるなんて名誉だぞ」


刹那、大地が割れた。

オルゲイが魔力で大地を浮かせ、ソレに放り投げた。


ヴォーティガーンは右手をかざし、手を広げた。


「!」


大地が、見る影もなく砕け散った。


「マジか……!?」


苦笑いをして、銃弾を撃ち込む。

どこからか風が吹く。

目に見える黒い風。

それが、銃弾を砕いた。


「今度は、俺の番だ」


今度は左手を挙げる。

手のひらを空へ広げる。


「!」


辺りの粒子が全て黒く変色して行く。

初めは野球ボールぐらいの大きさの球体が、最後にはここを覆い尽くすほどの大きさになった。


「ばかだろ……」


球体が圧縮されて行く。

最終的に、最初の野球ボール程の大きさになった。


「死ね」


それを思いっきりオルゲイに投げつけた。

ゆっくりと全てを飲み込みながら、ソレは進む。


「はぁ!」


割れた大地を球体に投げつける。

けれど、何事もなかったかのようにソレは進む。


「はぁ!」


更に数を増やし投げ続ける。

微かに、動きが鈍くなった。

魔力のことを考えず、ひたすらに。


気づけば足の方が薄くなっていた。


そんなこと、関係ないと、お構いなしに投げ続けるオルゲイ。

刑務所に当たるのだけは避けなければならない。


いつしか、左腕が消えていた。


もう、距離が無い。

玉もない。


「がああぁぁぁぁぁぁぁあ!!」


それがオルゲイの肉を喰らう。

死を確信した二人は警戒を解く。



「なに……」


ヴォーティガーンが後ろを振り向こうとした瞬間、音を立て球体が消滅した。


立っていたのは二人の男。

オルゲイを抱え、ヴォーティガーンを見ている。


「……魔力の使い過ぎか……」


それだけ言って男は後ろを振り返った。

奥には、刀を携えた男。

男は刀を引き抜き、虚空を切り裂いた。


時空が歪む。


3人は消えていった。




「……ちっ」


舌打ちをして、黒い風が彼を包む。

憑代となった少年が目を覚ます。

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