第8話 heavy out


「はぁ!!」


力任せに踏み込み、間合いを詰める。

残り滓の力を搾り出し、刃に乗せる。


「……ッ」


ひらりと避けるオルゲイ。


(なに!?)


身体が重い。これまでのダメージの疲労ではない。

足が地面に突き刺さっていた。

物理的に身体が重くなっている。


「確かに、近距離戦闘CQBなら、俺はお前に勝てないだろうな。けど、俺はお前に近づく必要は無い」


オルゲイが左手を掲げる。

すると、彼の周りの地面が浮き始めた。

飛んでいる。というよりかは浮遊していた。


(なにか……)


一つ一つが巨大な弾となった。

神父との戦いで切ったあの岩よりも倍以上に大きい。

直撃すれば無論、死ぬ。

だが、


───身体が、思うように動かない。


まるで、重力が重くなったかのように。


「死ね」


(おかしい!!)


それをオルゲイが投げつけた。

巨大な岩が3つ飛んでくる。

考えている暇はない。

避けるのは不可能。

ならば、迎撃するのみ。

『海神叢雲』に魔力を込める。

ただ、前みたいな斬撃はできない。


「はぁ!!」


ギリギリまで引きつけ、ぶった斬る。


「ガハッ……」


岩石の隙間を縫うようにして、悠の身体を襲う何か。

小さな傷口。死の狭間で嗅いだ火薬の匂い。

忘れるわけない。


(銃!)


「歪め」


「────────」


声にならぬ音。

オルゲイの魔力、天体の星グラビティだ。

彼は銃弾に魔力を込め、悠を撃った。

威力の低い球を選んだとは言え、貫通されると困ると思った彼は、重力を操作し、悠の中に弾丸が残るように仕向けた。

狙い通り銃弾は悠の腹部の中で残り、新たな重力源となり、もとあった内蔵の位置をぐちゃぐちゃにした。

即死は免れないだろう。

悠は倒れ伏した。


「呆気ないな。それこそ、が出てくることも覚悟していたんだがな」


オルゲイにとっての脅威は悠ではない。正確に言えば、悠の中で巣喰らうもの。

報告では『ヴォーティガーン』と。

かつて世界を2度滅ぼした災厄の獣。

神父……デュアルドを殺したのも、きっとやつだろう。それが、オルゲイの考えだ。


もし、ヤツが本当に悠の中にいるのなら。

警戒をし、観察を続けるオルゲイ。


「!」


疑いが、確信へと変わる。

『海神叢雲』を支えにし、なんとか立ち上がる悠。


(あっぶねぇ、マジで死ぬかと思った)


銀色の瞳が更に黒く染まる。

少しずつ、神が白く変化していく。

魔力の流れの変化に気づいた、オルゲイは2発打ち込んだ。

高速で迫る弾丸を全て弾き切った。


「まじかよ」


もはや、オルゲイには戦う必要がなかった。けれど、意地はあった。

だから、悠を殺す。


「へぇ、内臓ぐちゃぐちゃにされて、死なないか。やっぱお前、人じゃねえな」


「勝負は……これからだ……」


二人は武器を構える。

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