第3話 黒い夢

「またか……」

目が覚めると、よく見た景色。

現実とは程遠い。

前回と殆ど変わらない。

「なんだ?」

違和感がある。

一つ、悠の足下にある影。

二つ、色が反転した太陽。

「進むしか……ないよな」

前回と同じ方向。

太陽へと向かう。



数時間は歩いた。

数時間は走った。

なのに、太陽との距離は縮まらない。

太陽は動かない。

時間が止まっているようだ。

愚痴ったり、休憩を挟みながら、長い道のりを進む。



太陽が大きく見えてくる。

もう直ぐだ。

パンと足を叩き、気合いを入れる。


球体の端が真上に来た。

遠くの時点で分かってはいたが、いざこの目で見ると、その大きさに驚愕した。



中心へと近づく。

殆どゼロ距離で太陽の日が当たる。

暑い。

熱中症で済むならましだろう。

そもそも、肉体が形を残っているのかすら疑問になる。

この暑さで死んでいない事に驚きすらしない。

足がパンパンになった。

もう、動けそうにない。


中心に影一つ。

こちらを向いている。

手には、小型の黒いモノ。

呑み込まれそうになる。

殺されると身構えたが、必要がなかった。

影は手に持っていた黒いモノを潰した。

影がこちらに向かって来る。

間合いを無視しゼロ距離へ。

影は悠の肩に手を当てる。

「忘れるな。終わりは既に始まった。

忘れるな。始まりの時を。自分の在り方を。

自分の存在を。俺の意志を」

目が合った。

蠢いている。

深い絶望、安心、感情がぐちゃぐちゃに、けれども一つに混ざっていた。


深く、深く意識が落ちていく。

少し、安心してしまった。



声が、聞こえる。

ゆっくりと思い瞼を開けると、そこにはいつもの、変わりない天井があった。

「……はぁ…」

深いため息と共に身体を起こす。

時計は7時を差していた。

休日に限って早く起きてしまった。

リビングへ着くと兄の姿はなかった。

「やぁ兄さん、おはよう」

パンを片手に制服へ着替える姿。暁斗だ。確か、暁斗の中学校は今日登校日だ。

暁斗と顔を合わせたのは2日ぶりだった。

朝食をとり、学校への支度を始める。

洗顔の為に洗面所へ行く。

ふと、違和感気に付いた。銀の瞳が微かに澱んでいた。黒く、黒く、飲み込まれそうな漆黒。

それが悠には怖かった。夢と同じ瞳。

「……………はぁ……」

2度目のため息。

暁斗が家を出てしまった。

今、我が家には俺しかいない。

ならば、やりたいことをやりたいだけできる。

今、我が家には止める者が居ないのだ。

ずっと気になっていた、開かずの扉。

織に絶対に開けるなと言われた禁句。

悠は扉の前に立つ。絶対的な勇気を持って。

ドアノブに触れる。すぅーと息を吸い込み、思いっきり扉を引いた。

「……は?……」

悠は固唾を飲み、扉から一歩も動くことができなかった。恐怖とはまた違った感情。

結論から言ってしまえば、そこはただの和室だった。畳と書院作り。けれど、余りにも不自然すぎるものが一つ。ホコリが日に照らされる中で水色に光る。

透明の岩。人並みもの大きさがある岩がまるで待っていたのかのように立っていた。

透き通る岩の中で、封印されているものがあった。銀色に光る刀。太陽のように眩しいそれはまるで眠っているかのようだった。

ようやく動けるようになった悠が恐る恐る岩らしきものに触れる。

ピッという音と共に、ソレは眠りから覚めたように、封印から解かれたように、待っていたかのように、動き出す。

『[海神叢雲]冷凍化、解除要求。銀、認証成功。承認ヲ」

「わたつみの……むらくも?」

それは、始まりだった。

それは、終わりでもあった。

それは、運命だった。

それは、血塗られた呪いだった。

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