第15話 王


稲妻より早く、通って来たを戻る悠。

暁斗を誘拐した犯人は既に目星がついていた。

偽者は学校に居る。犯行はできない。

ならば、零時だろうと。


電車を追い抜かし、畑の道を跳躍で飛び越える。

早く、鳥のように。


「!」


学校がうっすらと見え始めてきた頃、彼は現れた。

悠の顔面を目掛けて蹴りを上げる。

魔力で作られた即席の腕を迫り来る悠の足にぶつけた。


バン!と魔力が小さな爆発を起こし、お互いに、距離が生まれた。

間合いにして10メートル。

互いに最も得意とする距離だった。


両者共に『海神叢雲』の刃を敵に向ける。


「邪魔だ、偽者」


最初に口を開いたのは、黒い何かが蠢き、溢れ出しそうな悠。


「は、何を急いでいるのかは知らんが、偽者はお前の方だろう」


対するは、両手で海神叢雲を構え、ニヤリと笑う悠。


『ちょうど良い、ぶっ殺してやる!!』


両者の考えが、初めて一致した。

刹那、風を切り裂き、黒い斬撃を飛ばす悠。


「無駄だ!」


風を切り裂いて、白い斬撃を飛ばす悠。

両者の武器が、空中でぶつかり合う。


「!」


互いの魔力が敵を喰らう。

打ち消し合うように、二つの刃は消滅した。

二人の魔力は極端な話、相性最悪だった。

白は

黒は

互いに時に関する性質を持った魔力。


「はあ!」


稲妻の如き速度で、悠が魔力を剣に乗せ、敵に叩きつける。

それに応えるように、白の魔力を剣に乗せ、迫り来る刃をせき止める。

かーん、と鈍い金属音がぶつかり合う。


「……貴様、随分と俺に似ているな。

やり方も、考え方も、精巧な偽者とは」


「黙れ!」


悠の煽りに応え、身体中の魔力を一点に集中させる。

剣が黒く染まり、巨大化した。


「っだぁ!」


終焉が、爆発した。

ブラックホールのように全てを黒が飲み込む。

それを悠は笑って、白の回転を上昇させた。


「本気で相手になってやる」


同じように、悠は魔力を一点に集中させる。

刃が白く光り、悠はそれを思いっきり振った。

二つの巨大な魔力がぶつかった瞬間、魔力が消え去った。

ブラックホールに飲み込まれたものは全て、元にあった場所に戻っていた。


互いに距離をとって、次なる一手を考える。


『──そこまでだ、藤波 悠。我が元へと回帰せよ。無駄な戦いでその体に傷をつけるな』


どこか遠くから聞こえる男の声。

響いて、悠が舌打ちした。


「だが、!今ここで殺しておかないとこいつは!」


『黙れ』


長い沈黙の後、悠は後ろを振り向き、海神叢雲を振り上げた。


「……次はないぞ」


瞬間、彼は時空を切り裂いた。

悠のことを気にすることなく、悠は切り裂いた時空の中に入っていった。


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