第13話 神の残滓


痛む肉体を抑えながら、街灯の着き始めた道を歩く。

隣には大きなビニール袋をもったソラ。


買い物帰りに、たまたま出会した。


(はぁ、酷い目にあった)


デカいため息をし、もう何も起こらないでくれと願う悠。


ふと、疑問が頭の中を走った。


「そういや、ソラはどうやって魔力について知ったんだ?」


マルクでは無いのは、本人たちが否定している。

ならば、他に彼女に教えた人がいるはずだ。

歩きながら、ソラは口を開いた。


「……昔、私に戦いを教えてくれた人がいた。

今、彼がどこで何をしているのかは知らない。名前は……」


それまで言って、彼女は口を塞いだ。

日差しが、眩しかった。

薄暗い街路を抜け出し、駅前の道に入った。

もう、日は沈みきっている。

やっと家に帰れる。

そう思っていた。


人混みの中で、黒い影が立っていた。

ソラの方を向いていた。


「──久しぶりだな。死神」


「!」


ソラの足がピタッと止まった。

開いた口が閉じない。

髪先から滲み出てくる汗。


「……零時レイジ!!」


その名を口にした。

黒いスーツを着た男は、悠の方を向いた。

神父と同じタイプの気配がした。


「!」


瞬きの瞬間、零時の腕が朱く染まった。

見れば、零時との距離は無くなっていた。


胸を、貫いて。

朱く、染まる。


「……ッ!がはッッ!!」


口先からの出血。


「──神の残滓ナインズは……!

なるほどな、やっぱ、


「……お、まえ……!!」


貫いた腕を引き抜く零時。

悠の元へと駆け寄るソラを見て、零時は数は引き下がった。


「……まあいい。確認がしたかっただけだしな。無駄な殺し合いなんてしたくないしな」


力無く膝をついた悠を躊躇なく蹴り、駅の方向を振り向く零時。

カラスのような黒い翼を生やし、どこかへ飛び去ってしまった。


「……ッ」


無言で、魔力を悠の体に流し込む。

黒い糸が、ぶち抜かれた悠の胸を縫う。


「……ッアァ!!」


黒い糸が悠の体に触れた瞬間、肌色に変化し、同化した。


「……死ぬかと思った!!」


「……」


無言で二人は立ち上がる。


「あれ、私の師匠」


「!」


衝撃的な事実が平然と告げられる。


「……神の残滓って言って、正確に言えば人間じゃ無い。

冷酷で、顔色一つ変えず、物事を行う人」


夜の道を二人で歩く。

隻腕で、無理やりバッグを担ぐ。


「……多分、あの人は明日から本気で君を倒しにくるだろう」


「なんで」


「そういう、人だから」


一度しか会っていないが、それを肯定できるだけのことはされた。

手元のスマホは、9時を示していた。


「じゃ」


手を振って、二人はそれぞれの方向へと歩き出した。


明日を選んで。

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