1話 夢の中で

今、俺は夢の中にいるのだろうか。


足元はボヤけていて、

自分が今どこにいるのかわからないが、

俺は「どこか」にいて、目の前には男性と思われる人物がいる。

俺に何か喋りかけているようだ。


「ーーお前は……」


言葉が途切れ途切れで、わずかな断片しか聞こえない。


「ーーは?何言って……」


「お前はどうしたい?」


よくわからない問いかけの後に、

ハッと目が覚めた。

じんわりと嫌な汗が額に滲んでいる。


ふと最後の言葉が頭をよぎる。


「……なんかよくわかんなかったな。」


夢はたまに見ることがあるけど、そのどれもが朧げな記憶の断片しか残らないし、数分経てば消えてなくなる。


ただ、さっきの言葉がなぜか頭の片隅に残り続けていた。


「疲れてんのかな……おれ……」


考えてみたら、中学まではウトウトすることなんてほとんどなかったのに、高校に入ってからは慢性的な睡眠不足で常に睡魔と格闘している。


ただ、夢のせいもあって、

まだ寝ていたいのに今日は早く目が覚めてしまった。

あまり気持ちのいい目覚めではないので気分は良くないが、

寝坊しなかっただけ良しとしよう。


それにしても、なんだか今日は少しソワソワする。


「じゃあ、いってきます。」


母親が早起きして作ってくれた弁当をバッグに詰めて、俺は家を出る。


家から学校までの距離は約10キロで、

自転車で片道40分ほど。


通学路は上り坂も多いため、学校に着く頃にはそれなりに汗が出る。


いつもは嫌々漕いでいるペダルも、今日はなぜだか軽く感じる。


3月下旬。

今日は、出会いと別れが入り混じる、1年最後を締めくくる修了式。


変な夢を見て感化されたのだろうか、

新しい節目となるこの日は、

自分にとって大きな「何か」が始まる予感がした。

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