8話 ルーズリーフ

今日の5限は世界史の授業。


この授業は3組と4組と合同で行われるため、教室が移動となる。


4組の宏樹も世界史選択のため、久しぶりに同じ教室で授業を受けることに。

ちなみに宏樹は俺の前の席で、宏樹の左隣の席には井上さんが座っている。


「よっ。アキが後ろならわかんないとこ聞けるしベストポジションだわ」


「宏樹が前の席なのって、1年の1番最初の席以来だよな。あの時は宏樹のこと嫌いだったから一言も喋ってないけど」


「おい、もっとオブラートに包み込め。お前の方も印象最悪だったからな」


「一杯一杯だったんだよ、あの頃はまだ」


「今もそんな感じに見えるけどな、俺からすると」


「え、まじで。全然そんな自覚はないんだけどーー」


そうしていつものように2人で喋っているうちに、先生が教室に入ってきた。

もうすぐ授業が始まるので、ぼちぼち準備を始めるかーー。


教科書を開き始めて、ハッと気づく。

やらかした。ノートを教室に忘れてきてしまった。

もう取りに戻る時間もないので、不本意だが宏樹に泣きついてみることに。


「……なあ、ルーズリーフとか持ってない?教室にノート忘れてさ」


「いきなりやってんなあ、ノートちぎればいけるけど。……あ。」


何かを閃いたのか、宏樹が隣の席の井上さんに話しかける。


「晴、そのルーズリーフ、アキに貸してやってくんね?ノート忘れてきたっぽくてさ」


……こいつ、余計なことをしてくれた。


ちぎったノートよりもルーズリーフの方がありがたいが、遠足で初めて喋ったばかりの井上さんからそれをいただくのは気が引ける。

何より緊張するからやめてほしい。


ただ、もう井上さんは俺に渡すルーズリーフを手に持っているので手遅れだ。


「あ、そうなん!めちゃくちゃ余ってるし2枚くらいあげるね。」


「あ、ありがとう……。」


「アキ、よかったな。俺の汚ったないノートの切れ端じゃなくて」


「いや、ノートってどうやったら汚くできんだよ……。とりあえずありがとな」


「礼なら晴に言いな。俺何もしてないし」


「もう伝えたし」


井上さんのルーズリーフのおかげで今回は乗り切れたが、こういう時って何かお礼の品でも渡した方がいいのだろうか。


男同士ならジュース奢ったりくらいはするけども。

いかんせん女子との付き合い方を知らないので、こういう時に何をすればいいのかわからない。


足りない脳みそであれこれ考えてるうちに授業終了のチャイムが鳴って、今日の授業を終えた。


そして帰宅後も、俺は今日のルーズリーフの件で頭を悩ませていた。


俺は何をこんなに悩んでいるのだろう。


井上さんからはあの後、

「渡したルーズリーフ返さなくていいよ、気にしないで!」と言われたが、

俺の性格上、恩を受けて何もしないのは釈然としない。

でも、ここで何かお返しを渡すのも、気持ち悪いと思われたりしそうで怖い。


というより、こんなことで頭を悩ませるなんて普通にどうかしている。

藤吉の言うとおり、俺は女の子を異性として意識しすぎなのだ。


「……まあ、井上さんもああ言ってたし、何もしない方が良いか」


色々考えたが、結局は無難に何もしないことにした。

下手に何かして変に思われるのも嫌だし、これがベストだろう。


煮え切らない部分はあるのだが、

ひとまずこの件は忘れて、明日の部活に備えて眠りについた。


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