7話 遠足③
出発から3時間程度で山のふもとに到着し、
ここらで昼食を取ることに。
新しいクラスの友人たちと親睦を深めたい気持ちもあるが、今日は元1年1組の連中とご飯を食べる約束をしていたので、同じ元1組出身で2年でも同じ3組の
「山本、クラスどんな感じ?俺、けっこう良い感じに男子と仲良くなれてるけど」
「俺はそんなにかも。今日もバレー部と一緒にいたし。並川ずるいぞ、1年の時は俺らと全然仲良くなろうとしてなかったのに、急に2年になって友達増やそうとして」
「いや、1年の初期は色々あったから……。
まあ、お前は何もせずとも、いずれその存在を気付かれることにはなると思うけど」
「は、どういうこと?」
「そういうことだよ」
山本はまだ3組のみんなにその真価を見せていないが、コイツは隠しても隠しきれないポテンシャルを秘めている。
気付かれるのは時間の問題だろう。
奇跡を連発して起こせるのは山本くらいしかいない。
待ち合わせの場所に着くと、宏樹たちがもう既に昼食を取り始めていた。
「遅かったじゃん。もう腹減りすぎて先食ってたわ」
「俺ずっと最後尾いたから着くの遅かったんだよな。俺も早く食べよ。結構歩いたし」
部活で体を動かしているとは言え、坂道も途中で挟みながらの道のりだったため、
今の時点でもそれなりに疲労がある。
「宏樹、4組どんな感じなん。
まあお前のことだから問題なさそうだけど」
「んー、普通にやってけそうではあるな。
バレー部の友達もいるし、割と運動部多くて賑やかだし」
宏樹は俺とは違う陽キャ側の人間なので、
比較的誰とでも仲良くできるタイプだ。
「アキはもう3組ではっちゃけてるって聞いたけど、まじ?
「イチャついてはないけど……。まあそれなりに順調ではあるかな」
「やるじゃん。お前のことだから初めは萎縮して山本とばっか一緒にいるものだと思ってたけど、もうすっかり馴染んでるとはな。」
「1年の時は高校自体が嫌いだったから友達作りに乗り気じゃなかっただけだし。俺だってやればできるんだよ」
「じゃあ、後は彼女作るだけだな。そっちの方は道のりが長そうだけど」
ふふん、と、からかいの眼差しで宏樹がこっちを見てくるので、うるさい、とだけ返しておいた。
昼食を取り終わり、ここから学校へ引き返すことに。
その前に3組の男子たちと合流し、先生たちに写真を撮ってもらったり、1年の時にはやれなかった高校生らしいことを満喫した。
去年は高校生らしいことをほとんどやってこなかったので、なんだかとても楽しい。
初めて俺も、一端の高校生になれてる気がした。
帰りは、「まだ話したことのない『男子の』クラスメイトと友達になる」という目的を達成するため、倉本や山本、藤吉といった、既に話したことがある人たち以外のクラスメイトと一緒に歩くことにする。
俺が気になっているのは、前髪が長くてホストのような風貌をしている
軽音学部に所属しているみたいで、1年の時に、ギターを背負って登校していた姿を見たことがある。
身長も高く、180センチ近くある。
元バスケ部のようで、倉本とは中学時代地区が同じでよく対戦していたようだ。
なんだか近寄りがたいオーラがあったので話しかけづらかったのだが、俺も音楽は好きなので、いつか話してみたいと思っていた。
せっかくの機会なので、彼に話しかけてみようと思う。
「松岡くんだよね。俺、並川。呼び捨てでいいよ」
「あ、よろしく。俺も呼び捨てでいいよ。
並川、もうクラスに馴染んでそうだね」
「そこそこね。今日でけっこう色んな人と喋れたし。松岡とはまだ話せてなかったけど、俺、実はちょっと松岡のこと気になってたんだよね」
「え、なんで」
「ギターやってるんでしょ?俺も音楽好きで、バンドも結構色んなの聴いたりしてるからさ。どんな音楽好きなのか聞いてみたいなーって思ってて」
「なるほどね。俺は日本のロックも好きだし、海外のR&Bとかもよく聴いたりするかな。割と色んなジャンルを薄く広くって感じ聴いてるかも」
「いいじゃん。俺は……」
松岡とはかなり音楽の趣味が近いみたいで、
かなり会話が弾んだ。
あまり周りに音楽が好きな友人がいなかったので、なんだか新鮮で楽しい。
また、松岡は話してみるとかなり良い奴で、物腰もかなり柔らかいし俺と笑いのツボも合う。これからより親しくなるのは間違いないだろう。
「並川、めっちゃ音楽詳しいじゃん。下手すると軽音部の連中より詳しいレベルかも。並川はサッカー部なんだよね。」
「そう。でもあんまちゃんとしてない部活だから、今若干モチベーション落ちてるとこ。
中学のときほど真剣に打ち込めてないって感じかな」
「そうなんだ。じゃあさ、音楽やってみない?」
「え、俺が?」
急な松岡からの提案に少し戸惑う。
井上さんに話しかけられた件もそうだが、
なんだか今日は予期せぬことが盛り沢山な気がする。
「うん。今ちょうど軽音部に男性ボーカル不足しててさ。今、俺の組んでるバンドのボーカルが女の子なんだけど、男性ボーカルのバンドもやってみたいなって思ってて」
「なるほど……。音楽聴くのは好きだけど、自分がやろうとは全く考えたことなかったわ」
「まあそうだよね。でも、案外音楽って誰でも楽しめる趣味の一つだと俺は思うし、ちゃんとやれば着実に上手くなるよ。勉強と似てるし、並川に合うと思う。コツコツやるタイプっぽいし、なんかすごい内に秘めてるものがありそうだし」
「そっか……。でも、俺は今のところサッカーと勉強で手一杯だし、ちょっと遠慮しとこうかな。そうは言っても楽器とか歌って難しそうだし、音楽経験ゼロの初心者だし」
「それは残念。でも、いつでもその気になったら声かけてくれていいから」
「うん、あんまり期待しない方がいいかもだけど」
「いいよ。なんかお前と音楽やるの楽しそうだし、いつか一緒にバンドやれたらな、ってふと思っただけだから。もし気が向いたら声かけて」
「はいよ」
松岡は中学でバスケ部を引退した次の日からギターを始めたみたいで、思いついたらすぐ行動するタイプのようだ。
そういう行動力は羨ましく思う。
俺は割と慎重なタイプなので、新しいことに踏み出すのは少し気が引ける。
誘われたのは嬉しかったが、今のところ友達付き合いとかも順調だし、1年の時と比べて色んなことが上手くいってる感じがするので、とりあえずは現状維持でいいかもしれない。
そうやって松岡と話してるうちに学校に到着。
この疲労を抱えた後に部活があるのは正直地獄だが、なんとか乗り切ろうと思う。
それにしても今日は色んなことがあったので、身体と同じくらい頭も疲弊している。
ただ同時に、去年の今頃にはない充実感も感じることができたので、トントンといったところだろう。
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