17話 電話①
初めての席替えがあってから、学校での日々は今までより少し賑やかになった。
もちろんいい意味で。
前の席の倉本と七瀬さんは、毎日のように口ゲンカが絶えないものの、なんだか少し微笑ましく見える。
特に七瀬さんの方は、倉本に対してよくちょっかいをかけたり、部活の時の面白かったエピソードを話していたり、前より少し明るい印象を受ける。
それまでは「しっかり者の七瀬さん」というイメージだったが、倉本の前では、彼女のクールな一面よりも、隠れたお茶目な部分が出ているように思う。
今まで俺にちょっかいばかりかけていた倉本だが、七瀬さんの隣になってからはその回数が少なくなった。
その分、俺は井上さんとーー
……ではなく、近くの山本や藤吉とよく喋るようになった。
「これから部活?頑張れ〜〜!」
「う、うん、ありがとう」
今日、井上さんと交わした会話はこれだけ。
会話と呼べるかどうかも怪しいレベルだが、
「今日は井上さんと話せた」と少し嬉しくなっている俺は、ほんとに非モテだなと思う。
女子と話す機会がなさすぎると、1日の中で一言でも女子に話しかけられただけで、その日は「ラッキーな1日だった」と感じるのだ。
元同じクラスの宏樹に「お前に彼女できるのが想像できない」と言われたが、俺にだって想像できない。
サッカー部のマネージャーである空にも、
「並川さ、私と話すのは慣れてきたくせに、全然非モテ臭消えないよね。なんでなんだろ」と、言われる始末。
女子とのコミュニケーションに関しても、
少しずつ前には進めているはずなのに。
ただ、それは少々こちらの思い違いだったのかもしれない。
空や七瀬さんのように、コミュニケーション能力が高くてこちらが話しやすい空気を作ってくれる人たちと話す機会が増えたから錯覚していたが、俺自身の女子とのコミュニケーション力はさほど上がっていないのだ。
井上さんとやり取りしてるから、メッセージ上の文面は少し手慣れてきたが、あくまでそれはメッセージ上の話。
いざ現実の世界となると、俺は「彼女いない歴=年齢の非モテ男」なのだ。
……改めて自己分析すると辛い。
そして帰宅後。
俺は井上さんと継続して連絡を取り合っている。
以前、1日経っても返信が来ない日があったが、その日以降は何事もなかったかのようにメッセージを送られてきた。
しかし、メッセージではやり取りしてるものの、まだ井上さんと仲良くなれた感覚がしない。
「やっぱり、もうちょっと話したいよな……」
そんな事を1人ぼやいてみる。
「そうだ、せっかく連絡先知ってるんだし、電話とかーー」
……って、いかんいかん。
何を考えているんだ、俺は。
急にそんなことをしたら、確実に変に思わてしまうだろう。
そんなことより、昨日のメッセージは井上さんが最後で止まってるので、次は俺が返信する番だ。
「やっぱ会話すんのって難しいよなあ……」
深いため息をつきながら文字を入力していると、携帯の着信音が鳴り始めた。
電話かかってきてる、誰からだろう。
ただ、着信音はなってるけど、応答のボタンが表示されてないし、誰からの電話か表示もされてないーー
……顔が青ざめた。
俺が誤って井上さんに着信をかけている。
「やっば、早く消さないとーー」
「もしもし?」
聞き馴染みのある声が聞こえてくる。
井上さんだ。
……終わった。
俺が今まで積み上げてきたものが全て終わった。
どんな言い訳をしても誤魔化せないレベルで長い着信だったし、何より井上さんと今、通話が繋がっている。
この一瞬で「気持ち悪い人」になってしまった俺に、どう挽回しろと言うのか。
頭が真っ白で何も考えられないが、ひとまず何らかの言葉を発さないといけない。
「あ、井上さん、これは、その、すごい間違えたというか、なんというか」
「え〜〜?まさか、イタ電?」
「あ、ほんとに違うくて!電話かかってきたと思ったら自分がかけてたというか……」
終わっている。
流石の井上さんでも、間違いなく引いているだろう。
「……ふふっ」
「……え?」
「もしかして並川君、私と話したくて仕方なかった、とか?」
「……!!」
これは嘲笑されているに違いない。
もう、今の俺には悪いようにしか捉えられない。
「いや、ほんとに、その……」
「え、アタリ?ふ〜ん、前川クンはそんな風に思ってたんだ〜?へぇ〜?」
もうダメだ、消え去りたい。
明日学校になんて行けたもんじゃない。
今日のことを言いふらされて、俺はみんなにドン引きされてーー
「……でも、ちょっとだけ嬉しいかも」
「……え?」
予想外の言葉が俺の耳に入ってきた。
これは一体、どういうことなんだろう。
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