16話 席替え
今日はクラス始まって初めての席替え。
今までは出席番号順で男子しか周りにいなかったのだが、このクラスは女子が大半を占める為、下手すると男子1人で周り全員女子、ということもあり得る。
そうなると流石に今の俺では対応できないので、なんとか良い塩梅の席になればいいな、と思う。
前の席の倉本からかけられる毎日のちょっかいも、これでおさらばである。
「並川、俺から離れるの絶対寂しいやろ」
「もう充分だわ。1ヶ月で満足した」
「とか言ってると、また近くになるパターン結構あるらしい」
「ないわ、そんなん」
席替えはくじ引きで決まる。
出席番号順にくじを引いていくことになったので、早くも前の席の倉本の番に。
かなり意気込んでいるみたいだ。
あいつが張り切ってる姿を見たのは、これが初めてである。
「うわ、最悪!」
くじを引いた瞬間に倉本が叫んだ。相当悪い席を引いたようだ。
「どこ引いたん?」
「1番前の真ん中。寝れねえじゃん、まじで無理」
「いや、お前ならそれでも寝てそうな気が……」
ひとまずご愁傷様である。
次は俺の番なので、なんとか後ろあたりの良い席になりますように、と祈りながら箱に入っているくじを引く。
「……うわ」
くじ引きの結果に思わず声が漏れ出てしまう。
さっきまで沈んでいた倉本が息を吹き返したように笑みを浮かべている。
「え、お前、やった?どこ?」
「前から2番目」
「場所は?」
「……真ん中」
また倉本と前後の席になってしまった。
「やっぱそういうことよな。本心がくじに憑依してたんだわ」
「いや、またお前が前なのキツすぎる」
「嬉しいのバレバレ。もっと素直になれ」
場所はともかく、倉本とは気の許せる仲ではあるので、不本意ながら安心はしてるけども。
全員くじを引き終わったみたいなので、各々が新しい席へ机を移動させる。
「松岡、席どのへん?」
「後ろの方。結構良い位置かも」
「そっか。俺とはけっこう離れてるけど、休み時間とかたまにそっち行くわ」
「おっけー」
最近は音楽の件でよく話している松岡は今回後ろ側の席のようなので、俺の席とはかなり距離がある。
ただ、席が離れていてもよく松岡のところには話に行ってるので何の問題もない。
さて、俺の周りは倉本以外に誰が来るんだろうか。
「あ、並川君!」
「あ、ーー」
まさか。
俺の隣の席は、毎日のようにメッセージでやり取りしている井上さんだった。
近くの席になれたら、とは思っていたが、ここまで近い距離だとは。
「よろしくね〜!愛里も前にいるし、なんか楽しそう、この席」
「七瀬さんも近くなんだ。場所は最悪だけど……」
「そうだね〜〜。次回に期待!って感じ」
流石は井上さん。その切り替えの速さとポジティブ具合は見習いたい。
「ほんとにね。あ、じゃあ七瀬さん、倉本の隣か」
「そうみたい。仲良い同士で良かったよね」
「うん、毎日言い合いになりそうな予感はするけど……」
七瀬さん、1番前のド真ん中を引いたらしい。
しっかり者の彼女のことだから、それでも上手くやっていけるだろうが、七瀬さんの隣の倉本は寝させてもらえなさそうだ。
七瀬さんも新しい席に到着。
ついこの前お話ししたばかりだが、女子とのコミュ力は決して高くない俺でも自然に会話できたくらい、人とのコミュニケーションが上手な人だ。
「また倉本と並川君、前後じゃん。お互い好きすぎるでしょ」
「うるせー。七瀬が隣とかうるさそうだし最悪だわ」
「は?アンタがいっつも変なことするせいなんだけど?」
席に着いた途端、倉本と七瀬さんが口喧嘩を始めている。
これから毎日こんなやり取りを目にするんだろうな、と容易に想像できる。
しかし、学年指折りの美少女2人と近くの席になるとは。
別に冷やかしするような奴はこのクラスの男子にはいないけど、普通なら男子達から嫉妬されてもおかしくないような状況だと思う。
ーー「並川だ!」
間抜けな声が聞こえてくる。
俺の左斜め後ろ、つまり井上さんの後ろの席は山本だった。
井上さんは山本が所属するバレー部のマネージャーなので山本とはよく知った仲であり、山本も人見知りなので、知り合いが周りの席にいて安心しているようだ。
「よかったー。周り女子ばっかだったらずっと黙ってるとこだったわ」
「俺とか井上さんが近くで助かったな」
「山本後ろじゃん!良かったね、私が知ってる人で」
「井上ならギリ喋れるし耐えたな。あ、てか今日部活何時からだったっけ?」
「今日授業早めに終わるから15時から。先生の話ちゃんと聞いときな〜〜」
山本は倉本とは少し違うが、コイツもかなり抜けてるとこが多いので、マネージャーの井上さんにはよく世話になっているみたいだ。
これから山本のフォローは俺と井上さんの2人体制でやれるので、その点に関しても井上さんが近くで良かった。
そして俺の後ろは、俺が前に井上さんのことで相談したこともあるクラス1のイケメン、藤吉遥希だ。
「並川、よろしく」
「おう。周りが知り合いばっかでよかった」
「それはよかったね。勉強に関しては俺より並川の方が成績良いし、わからないとこすぐ聞けるから、俺もこの席悪くないかな」
「流石に色々世話になってるし、それくらいは喜んでやらせてもらうわ」
「ありがとう。真ん中だし前目だからちょっと嫌だったけど、なんだか賑やかで楽しそうだね」
「うん、俺もそう思う」
くじ運が良かったのか悪かったのか、よくわからないが、このメンバーが近くにいる毎日はきっと退屈することがないだろう。
それと、井上さんとも少しは仲良くなれるだろうか。
彼女の横顔をふと見ると、ほのかに甘い香りがして、少しだけドキッとしてしまった。
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