4話 2年スタート
短い春休みを終え、新学期がスタート。
修了式の日は、ほぼ倉本とぺちゃくちゃ喋っていただけだったのであまり目が向かなかったのだが、改めて見ると本当に女子の人数が多い。
また、宏樹が言ってた通り、このクラスは可愛い女子が多く集まっているように思える。
なんと言っても、学年で指折りの美少女と言われている、バレー部マネージャーの
この2人が同じクラスになったことは学内で一躍話題となっていた。
それに加え、イケメンで運動神経も抜群の陸上部エース、
井上さんに関しては、1年の時同じクラスだった宏樹や山本が所属するバレー部のマネージャーなので、チラホラ話は聞いていたが、
想像通りかなりモテるようだ。
宏樹曰く、
「
とのこと。
七瀬さんは倉本が所属するバスケ部のマネージャーで、女子の中では「クールでみんなのまとめ役」のような立ち位置。しっかり者な印象がある。
そんな彼女が時折見せる柔らかい笑顔に魅せられる男子も多いようで、倉本が言うには、1年で10人くらいから告白されていたらしい。
そんなこと本当に現実であるんだな、と、俺とは違う世界にいる2人を遠目にチラリと眺める。
2人とも身長は女子にしては高い方である。
ド田舎にこんなに大人びて綺麗な容姿の女の子がいるのは珍しいと思う。
田舎どころか都会の女子高生に混じってもダントツで目立つだろうし、それくらい井上さんも七瀬さんも、周囲の目を惹きつける外見なのは間違いない。
しかも2人ともマネージャー繋がりで仲が良いみたいで、このクラスになってからはよく一緒にいる姿を目にするが、あの2人が揃うと同じ高校生とは思えないくらい存在感がある。
絵に描いたような、キラキラした世界の人たちだ。
それだけ魅力のある人たちなのだろう。
ただ俺は、彼女たちに対して「綺麗だな」とは思うものの、そこまで強い関心があるわけではない。
自分にとって彼女たちは、たぶんこれから先も交わることはないであろう遠い存在のように思えて、お近づきになりたいだなんて微塵も思わないからだ。
もし仮に俺が好意を寄せても、玉砕されて恥をかく未来しか想像できない。
そもそも女子とまともに話せない時点で詰んでいる。
もちろん俺も思春期の男子高校生なので、恋愛に対してそれなりに興味はあるが、もし縁がなかったとしても、俺は今のままでもそれなりに高校生活を楽しめているし、これで充分なのかもしれない。
そう、俺は別に今のままでもーー
軽い考え事をしているうちに、授業開始の時間となった。
このクラスでの最初の授業は、1年次の担任である
女性の先生で、かなりパワフルな方。
感情豊かで、怒ったり泣いたり笑ったり、喜怒哀楽が激しい先生だ。
面倒見が良い先生で、最後クラスが解散になる時には、「並川、アンタは気にしすぎなとこもあるけど、見ている視点は面白いし、それはアンタにしかないものがあると思うよ。2年でもしっかり頑張りな。」と声をかけられた。
俺は人の目は気にする割に、自分の「軸」はそれなりに強く持っている。
1年の体育祭後の感想シートに、「あれは無駄だからやめた方がいい」とか、「こうした方がいいんじゃないか」とか、自分が感じた違和感を余すことなく書いたことがあるのだが、辻先生はそれを注意するどころか面白がってくれた。
先生によっては注意されかねないことかもしれないが、そういう捻くれたところを俺の良さだと言ってくれた辻先生には感謝している。
倉本も1年時の数学の授業は辻先生で、宿題は基本やってこないものの独特の解法で難問に正答する倉本のことを辻先生は気に入っていたみたいだ。
たぶん、辻先生はこういう一癖ある人間が好きなのだろう。
「並川の1年の時の担任って辻だっけ。俺、去年しごかれまくってもうお腹いっぱいなんやけど」
「俺も怒鳴られることはなかったけど、それなりに絞られてはいたな。」
「寝させてくれない授業はもう勘弁なんだが」
「確かに寝てたらあの人死ぬほどキレるからな……。毎回ヒヤヒヤしてたわ」
授業が開始してからも何かと前の席の倉本とぺちゃくちゃ喋っている俺たちだが、
その様子を見た辻先生が笑みを浮かべて俺に話しかけてくる。
「並川、アンタ急にはっちゃけてるじゃん。1年の時はずっと授業中つまんなそうな顔してたのに。
このクラス、案外アンタに合ってるのかもね。」
クラスの注目が俺に集まり、物凄く顔が熱くなる。
こういうのはあまり耐性がないし、上手い返しもできないので、ただアタフタするしかない。
女子たちからも生暖かい目で見られていて、なんだか落ち着かない。
でも確かに、倉本以外にも周りの席の男子とは既に軽くコミュニケーション取ったりもして、1年のこの時期とは比べ物にならないくらい順調なスタートダッシュを切っているのは事実なので、確かにこのクラスの居心地は今の時点でかなり良い。
今は出席番号順の席で男子に囲まれているので、その恩恵をフルに受けている。
俺は女子と上手く話せる術は持ち合わせていないが、男子とならそれなりに話せるのだ。
席替えで周りが女子に囲まれたら、たちまち地蔵状態になってしまうかもしれないが。
辻先生の発言にあたふたしてる俺を見て、倉本がニヤニヤしながらからかってくる。
「俺とじゃれ合えてさぞ嬉しそうだな、並川クン」
「俺は付き合ってやってるだけだし……。あ、てか明日何持ってくればいいんだっけ」
「弁当くらいでいいんじゃね?授業ないし」
「お前に確認すんのは愚かだったわ…。でも確かに遠足行くだけなら必要な物って弁当ぐらいしかないよな。」
「少しは信用してくれてもいいんですけど?お菓子は死ぬほど持って行こ」
「小学生か」
そう、明日は、近くの山に全校生徒で遠足に行くという、毎年恒例の行事がある。
まだあまり喋れてない男子たちとも話しせる機会だし、数少ないクラスの男子たちと仲良くなる絶好の機会だ。
とは言え、このクラスは女子が大半を占めているため、多少は女子との親睦を深めることも考えなければいけない。
考えてどうにかなることかはわからないが。
そのあたりは諸々、明日の成りゆきに任せることにする。
いずれにせよ明日が楽しみである。
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