14話 もう1人の美少女
もうすぐ4月も終わりに近づいてきた頃。
正直この1ヶ月は濃すぎるくらい色んなことがあったのだが、その分自分の成長を実感しながら日々を過ごせている。
クラスメイトとの関係も良好で、特に前の席の倉本とは他愛もない話を毎日延々と話しているのだが、最近は何やら大変なようで。
「部活、最近まじでハードすぎるんだけど。サッカー部はいいよな、毎週1回は休みあるし」
「まあ、お前らバスケ部みたいにしっかりやってる部活に比べたら全然余裕かもな」
「試合の後も普通に練習あるし……。逆に効率悪いだろこれ」
「めちゃくちゃ体育会系だな……。同情するわ」
最近はギターと歌を始めたこともあって、時間が足りないと感じることは多いのだが、サッカー部はそこまで練習漬けの日々ではないので、まだギリギリ両立できている。
俺はサッカーも好きでやってるので、今のところ辞めたいと思ったことはない。
最近ではマネージャーの空と話すようにもなり、少し楽しみもできた。
「今日もめちゃくちゃ走り込みやるらしい……。もう授業中起きてられねえわ」
「それはいつも通りなんだけども」
倉本の悲痛の叫びを聞いていると、
バスケ部のマネージャーで、井上さんと同じく、学校でも指折りの美少女である
手には白い紙を持っている。
「倉本、これ、週末の試合のスケジュール」
「あざす」
「目死んでるじゃん……。あ、ーー」
七瀬さんが俺に気づいて声をかけてくる。
「並川君じゃん。倉本とずっと授業中イチャついてるので有名な」
「あ、七瀬さん……。俺のこと知ってたんだ」
「そりゃ知ってるよ。
「はは、そりゃどうも……」
井上さんと仲が良い七瀬さんだが、最近になって俺が井上さんと連絡を取るようになったことは、おそらくまだ知らない。ちなみに俺も、井上さんと連絡を取り合ってることはまだ誰にも言ってない。
「倉本も、あんまり並川君にちょっかいかけたらダメだよ。アンタのせいで並川君の成績下がってるかもしれないし」
「コイツは家でちゃんと勉強する奴だからいいんだよ。てか今は七瀬の方が並川困らせてんじゃん」
「そんなことないって。ね、並川君?」
「う、うん……」
「ほら。じゃ、またね」
用が済んだ七瀬さんは自分の席に戻っていった。
相変わらず俺の女子に対する対応はぎこちないが、これでも前よりはマシになってきてると思う。
マネージャーの空のおかげで、徐々に相手の顔を見て話すことにも慣れてきたかもしれない。
「七瀬ってなんで男から人気あるのかわかんねえわ……。余計なお世話ばっかするし」
「まあ、お前が適当すぎるからだろうけど」
七瀬さんはイメージ通りのしっかり者、といった感じだった。
倉本には厳しい態度を取ることがあるものの、普段の振る舞いから優しい人であることはわかる。
そして放課後、俺が外に出ようと下駄箱で靴に履き替えていると、偶然、部活に向かう途中の七瀬さんと遭遇した。
彼女も人見知りしない性格のようで、先ほど初めて喋ったばかりの俺にも気さくに声をかけてくれた。
「ども。今日はよく会うね。」
「あ、そうだね……。これから部活?」
「そ。バスケ部、今インターハイに向けてみんな頑張ってるから、マネージャーの私もちょっと大変なんだよね」
「そっか、倉本にも聞いたけど、バスケ部めちゃくちゃしっかり練習してそうだもんね」
「そこそこね。並川君の大好きな倉本も、2年だけど試合絡んでるし、試合になるとめちゃくちゃ真剣な顔するよ」
「へえ……。アイツ、学校じゃずっと寝てるか適当なこと言ってるかのどっちかだから、ちょっと意外かも」
「でしょ。でも、見てて危なっかしいとこもあってさ……。だから、アイツにとってはうっとうしいのかもしれないけど、ちょっと気にしちゃうんだよね」
「七瀬さん、倉本だけには当たりきつそうだしね」
「そう見える?」
「うん、普段の七瀬さんは落ち着いてて、みんなにも優しく振る舞ってるから、ちょっとビックリした」
「そっか。でも確かに、あんな態度取れるのってアイツくらいかも。逆に私も、男子にあんな態度取られるの倉本しかいないんだけどね」
「アイツ、雑なコミュニケーションでも大丈夫な奴だしね」
「言えてる。アイツなら言ってもいいかなって思うこと結構あるかも」
倉本と七瀬さんは、なんだかんだ相性が良いのだろう。
倉本のことを話しているときの七瀬さんの顔は、いつもより少し明るく感じる。
「私、もう行くね。余計なお世話かもしれないけど、倉本とこれからも仲良くしてくれたら嬉しいかな。じゃ、またね」
「うん、また」
七瀬さんは颯爽と体育館の方へ歩いていった。
しかし、こうやって話すと、七瀬さんはかなり人とのコミュニケーションが上手な人なんだな、と気づく。
自分にとって身近な存在である倉本についての話題だから、というのも当然あるが、会話の絶妙な間やトーン、時折挟む冗談のおかげで、まだ緊張している俺でも自然に会話ができていた。
七瀬さんは井上さんと同じくらい目立つ容姿をしているし、そういう人と話すのは少なからず緊張するのだが、彼女に対してはなぜかそういったことを感じることもなく。
すごく魅力がある人なんだな、と思う。
倉本が前に言っていた「1年で10人くらいから告白されていた」という話も、今は何らおかしくないと感じる。
しかし、倉本は七瀬さんに対してもいつも通りの適当な対応なのだから、逆にすごいと思う。
アイツは七瀬さんのことなんとも思っていないのだろうか。
※※
帰宅後、寝る前に井上さんとメッセージのやり取りをすることもすっかり馴染んできた。
『(並川アキ)今日初めて七瀬さんと喋ったんだけど』
『(いのうえはる)そうなん!愛里、めちゃくちゃ可愛いし頭良いし良い子だから、仲良くして損ナシだよ」
『(並川アキ)確かにすごい良い人だった。倉本には当たりキツいけど』
『(いのうえはる)愛里、私と2人の時もよく倉本君の話してるよ。いつも、仲良いんだな〜って思いながら聞いてる』
『(並川アキ)そうだよね、俺もそう思う。てか、七瀬さんにはライブ行くこと言った?』
『(いのうえはる)まだ言ってない!なんで?』
『(並川アキ)いや、なんとなく』
『(いのうえはる)え〜〜?照れてんの、もしかして』
『(並川アキ)わかんないけど、あんまり井上さんとやり取りしてるの知られたくないのかも』
……あれ。
なんで俺こんなこと言ったんだろう。
言いふらすことでもないが、別に隠す必要もないのに。
最近は頭より体の方が先に動いてしまうようになりつつあるので、自分の思考が体に追いつかないことがたまにある。
『(いのうえはる)秘密の関係ってことか。なんかやらし〜〜』
『(並川アキ)違うって。ただ、なんとなくそっちの方が良いっていうか』
『(いのうえはる)ハイハイ。チョコレート一個で手を打とう』
『(並川アキ)ありがとう。今度会った時渡すね』
『(いのうえはる)え、まじ!冗談だったのに!笑』
……女の子とのやり取りに完全に慣れていないからか、冗談にマジレスしてしまった。
今後はこういう時に上手い返しができるようになろう。
『(並川アキ)と、とりあえずそういうことでいこ。みんなに変に思われるの嫌だし』
『(いのうえはる)しょうがないな〜〜。恥ずかしがり屋だね、並川君?』
そうやって今日のところはやり取りを終えた。
メッセージを打ってる時には気づかなかったのだが、俺はなんとなく、今の井上さんとの関係が少し心地よく感じてきているのかもしれない。
意外と好きなものが似ていることや、
ちょっとした冗談を言ってきてからかわれるのも、なんだか少し嬉しかったり。
本人はどう思っているかわからないが、俺としては、せっかく今井上さんと仲良くなれてきているのに、誰かにこのことを知られて今の関係を変えられたくない。
別に、「好き」という感情を抱いているわけではない。
ただ、みんなに知られずコッソリやり取りしているという今の状況は、少しだけ心地よくて。
できるなら、もう少しだけ続けていたいかも。
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