2話 1年修了式
高校一年、修了式。
一抹の不安と寂しさ、まだ見ぬ先の期待が胸に入り混じっている。
なぜなら、今日は1年時のクラスが解散となる日で、それに加えて2年のクラスが発表されるのだから。
入学当初は嫌いだったこのクラスもなんだかんだ好きになり、後半の方は割と充実してたと思う。
彼女ができたり、みたいな浮ついたことはなくても、男友達でバカな話をしあったり、
常に笑顔でいれるクラスだった。
最後のホームルームの時間では、
泣いている女子たちもチラホラ見かけた。
少し自分も感傷に浸りながら、
その後クラスメイトたちと談笑する。
「アキとは次、絶対違うクラスだよな。俺、なんで優秀クラスだったのかわかんねーくらい成績低かったし」
「確かに宏樹は入学した時がピークだった説あるわ」
「おい。俺も3年なったらまた優クラ行ったるからな?たぶん」
そうやってふざけ合うクラスメイト、
最初の印象は、「うるさくてバカっぽい、いけすかない奴」。
自分の中の仲良くなれないリストに入学当初から長らく入っていたのだが、
10月の文化祭の準備でいつの間にか話すようになって、
今ではそれなりに仲の良い友達になった。
高校では名字で呼ばれることがほとんどだが、宏樹は俺のことを名前で呼んでくれる。
それが少し嬉しかったり。
俺や宏樹が所属していた1年1組は学年で唯一の優秀クラス。
優秀クラスゆえに他クラスから「真面目な人扱い」されたり、教師から「優秀クラスなのだから他クラスより成績が良くて当たり前」という余計なプレッシャーをかけられたりするため、優秀クラスに入ることを嫌がっていた人もそれなりにいた。
俺も別に優秀クラスに入りたいとは思ってなかったし、同じサッカー部の連中から「真面目な人」として堅物扱いされるのは今でも正直嫌気がさす。
部活ではクラスの時ほど口数が多くないので、そう思われても仕方ないのかもしれないが。
高校生にとって、「真面目だね」という言葉はあまり良い意味で使われることはない。
俺は、根は真面目な方だと思うし、
そこを否定するつもりはないが、
だからと言って騒いだりすることも嫌いではない。
他クラスの連中からは「大人しい真面目君」だと思われているかもしれないが、
このクラスでは自分の真面目な部分以外も曝け出すことができたし、
みんなとバカなことで騒げたりして、居心地は悪くなかった。
俺は人見知りだし、見た目もどちらかと言えば地味な方なので、初対面の人にはとっつきにくく思われることが多いが、打ち解けてくると、良い意味でも悪い意味でもすぐに雑な扱いをされる。
むしろお互い気を遣ってコミュニケーションする方が苦手なので、自分にとってはそれくらいでちょうどいいのだが。
終盤の方はお互いをイジり合うことも増えて、
より自分の素の部分も出せたし、
それなりにクラスメイトと仲良く過ごせて、
友達関係については恵まれていたなと思う。
俺は人よりも考え込む性格で、常に悩みは尽きることがないのだが、それでもなんとか1年乗り切れたのはクラスメイトのおかげだろう。
面と向かって言うのは恥ずかしいけど、
内心とても感謝している。
「じゃあ見に行きますか。お前はどうせ3組だろうけど」
「確かに。誰が同じクラスかってことの方が気になるわ」
「そういうとこは自信あるのにな、お前は。」
「そういうとこも、な」
含みのある皮肉をくらいながら、
既に黒板に張り出されている2年時のクラス表を確認しに行く。
俺が通う
2年に入ると文系・理系でクラスが分かれ、
1年時は優秀クラスが1組だけだった優秀クラスが2つに増える。
1組は理系優秀クラス、3組は文系優秀クラスで、2組が理系普通クラス、4,5組が文系普通クラスとなっている。
俺は国語や英語といった文系科目が得意で、逆に理数系が苦手だったため、迷わず文系を選択。
成績は学年全体でも高い方を維持していたため、文系優秀クラスの3組に入るのはほぼ確定事項なのだ。
俺と宏樹は、黒板前に人がいなくなったのを見計らってクラス表を確認する。
「中村宏樹 4組」
「並川アキ 3組」
俺は順当に3組行きが決定。
宏樹は4組ということで、2年では別のクラスになる。
「やっぱお前は3組だったな。3組女子多いみたいだし、しかも今回、可愛い子めっちゃ集まるって噂聞いたわ。羨ましいのぉ〜〜。
あ、お前には関係ないこと言っちゃった?かな?」
今現在俺に彼女がいないこと、そして、あまり一年時のクラスでは女子と喋ってなかったことをしっかり知っている宏樹は、ここぞとばかりに俺を煽ってくる。
「うっせー。別に関係なくもないだろ」
「いやいや。英語のペアワークで女の子と一緒の時とか、お前がほぼ何も話さずにソワソワしてたの知ってんだけど」
「いやソワソワしてねえし。別に話すことなかったから教科書読んでただけ」
「マジでお前が彼女できる日が来るのかねぇ……。今んとこ想像できねぇわ。」
不本意だがそこは認めざるを得ない。
高校で知り合った女子の連絡先は、サッカー部のマネージャーくらいしか知らないわけだし。
宏樹は今彼女こそいないものの、クラスの女子とはかなり仲が良く、複数人で遊びに行ってるのをよくSNSで見かける。
バレー部にも所属してて運動もできるし、
いずれ彼女の1人や2人できてることだろう。
そんな宏樹にからかわれるのはよくあることだが、言われっぱなしじゃ癪なので俺は少し強がりを言う。
「今はそこまで恋愛とかに乗り気じゃないし、それよりまずは新しい友達作ることの方が優先だわ」
「はぐらかされてる気もするけど……。
でも、確かにお前の場合、まずは友達ちゃんと作るところからだな。1年の時なんか、長いこと、無口で地味で覇気もない奴って感じだったじゃん。」
「いや、辛辣すぎるわ。でも、喋んなかったら普通にそう思われる危険性しかないよな」
「見た目は真面目ちゃんって感じだしな。話したら意外にそうでもないけど。
まあでも、顔は意外に整ってる方だと思うし、ふとした拍子にお前の持ちうる最大限のイケメン成分を発揮できたら、念願の彼女も、もしかすると、もしかするかもな。」
「俺のポテンシャルフルに使ってもワンチャンくらいしかねえのかよ。
応援されてんのか貶されてんのかよくわからんけど、まあぼちぼちやってくわ」
「ん、期待せず見守っとくわ。とりあえず
今日の夜の打ち上げ絶対来いよ」
「おう。じゃ、また後で。」
そうやって宏樹と別れ、俺は2年3組へと向かう。
これからどんな人たちと出会い、どんな経験をするのだろう。
胸の鼓動が早くなっているのを感じつつ、浮かれた気持ちと、若干の寂しさも噛み締めながら、教室へと歩みを進めた。
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