25話 クラスマッチ①

全校集会が終わり、ついにクラスマッチがスタート。


俺たち2年3組の男子バレーは、午前で3試合をこなし、そこでの順位次第では午後のトーナメントに進むことができる。


「人、めっちゃいるじゃん。緊張するんだが」


「俺も……。並川、まじで俺ミスるかもだから、頼むわ」


「まあまあ、2人とも。こんなに人に見られる機会滅多にないし、楽しも?」


「藤吉、こうなってんのはお前のせいってのもあるんだからな……」


「ん、それは言わないで」


俺たちの試合が午前中最初の試合ということもあって、それなりに見に来ている生徒の数も多い。

……大半は藤吉目当ての女子なのだが。


バレーのメンバーは7人で、控えは1人しかいないため、全員が重要な戦力なのは間違いないが、中には運動部じゃない子もいるため、運動部の俺は比較的戦力として期待される立場である。


部活でやってるサッカーを除けば、スポーツの中ではバレーが1番得意なので、少しは貢献できたらいいな、とは思うが、プレッシャーはそれなりにある。


「とりあえず、山本が指示出してそれ通りに動く感じで」


「俺、そういうの苦手なんだけど……。まあ、やるしかないか」


「ファイト、山本」


キャプテンは、このクラス唯一のバレー部である山本。

点を取るのは、運動神経抜群のエース藤吉に任せ、山本は、トスや他のメンバーのおこぼれのフォローに回る、という役割分担だ。


俺はレシーブで山本にボールを預けるのが主な役割。ローテーションで前に行く時は、自分で点を取りに行ったり、トスを上げたり、ということもやるつもり。あまり点を取るのは得意ではないが。


相手チームは2年2組。できれば相手は1年生の方が気楽でよかったのだが、こればかりは仕方ない。


せっかくなので、試合前に円陣を組むことに。

もちろん掛け声はキャプテンの仕事なので、キッチリ山本にやらせる。藤吉の方が手慣れてそうだけども。


「山本キャプテン、緊張してるね」


「藤吉君、全然緊張してなさそう……。羨ましいわ」


「俺、あんまり緊張しないタイプだしね。でも、今日は任せたよ。命運は山本君に懸かってるからさ。あ、あと並川も」


「俺もなるべく良い形で山本にボール預けられるように頑張るわ」


「いいね、やる気十分じゃん。じゃあキャプテン、掛け声頼んだ」


「あんまこういの慣れてないんだけど……。仕方ない、やるわ。じゃあ、みんな」


「……っいくぞ!」


「「「おぉ!」」」


慣れてないと言ってた割に、しっかり声も出てて、良い掛け声だった。

部活の試合でいつもやってる円陣よりも、団結感が出ていた気がする。


俺自身は良い意味でリラックスできていて、試合に臨む前の状態としてはこの上なく整っていると思う。

しっかり集中できているため、周りの目もあまり気にならない。


ふと横を見ると、うちのクラスの女子たちもみんな応援に来てくれていた。

その中には、七瀬さんと井上さんも当然いて。


俺をみるなり、七瀬さんが声援を飛ばしてきた。


「並川君、倉本いないけど頑張ろー!」


七瀬さん、応援は嬉しいがこんな時まで倉本いじりはやめてほしい。


「山本、並川君、絶対勝とうね〜!」


七瀬さんの声援にタジタジになっていたところに、井上さんの声援が飛んできた。


彼女が見守ってくれている。


さすがに情けない姿は見せられない。何としても勝たなければ。


ルールは3セット15点先取。


ピー、という笛の音が鳴り、山本のサーブで試合が始まった。


大人気ないのだが、山本が早速、ジャンプサーブを繰り出す。


相手チームは現役バレー部はおらず、バレー経験者が1人というチームなので、中々対応できる選手はおらず。


早速、先取点をゲット。

山本が安堵の表情を浮かべる。


「ナイスー、山本!」


「この調子で点稼いでくわ」


「お、おう……。頼んだ」


いつもはボーっとした顔しかしていない山本が、いつになく真剣な眼差しを浮かべていたので、少しビックリした。

バレーをやってる時は、こんなに頼りになる奴だったとは。


その後、山本がサーブで点を取り続け、6点を立て続けに先取した。


「すごい、山本。まさかここまで上手いとは」


「いや、多少は手抜いてるけど」


「まあ、流石にやりすぎるとな……。でも、こっちとしてはだいぶ楽になって良かった」


そして相手ボールから試合は再開。

相手のサーブは相手チームの中で唯一のバレー経験者が行うようだ。


これが初めての相手のサーブになる。

ここまで山本しかボールに触れてないため、少し緊張する。


相手も、お返しとばかりにジャンプサーブを繰り出してきた。

ボールは俺をめがけて飛んでくる。


正面だったためまだマシだったが、如何せん球速が速かったため、上に上げるのが精一杯だった。


「ごめん山本、頼んだ!」


山本がすぐフォローに入る。なんとか前の藤吉まで繋げた。


藤吉のアタックはしっかりボールの芯を捉えていたが、勢い余ってタッチラインの外へ。


「ごめん、山本。ちゃんと受け止められなかった」


「いや、上げてくれただけありがたいよ。切り替えよ」


今はしっかり集中できているので、余計な雑念が入ってこない。気を引き締め直して次に備える。


次のサーブも、俺めがけて飛んできた。


さっきと同じようなコースだったため、今度はしっかりと受け止める。


勢いの消えた柔らかいボールが山本に渡り、今度は完璧なトスを藤吉へ。


藤吉の打点の高いアタックで、ボールがコートの角に叩きつけられる。


「っしゃあ!」


「ナイス、藤吉!」


「うん!並川もナイスレシーブ!」


グータッチして喜びを分かち合う。

なんだか部活の時よりも真剣にやっている気がする。あまり良くないことだが。


その後、危なげないゲーム運びで着実に点を重ね2セット先取して、俺たち2年3組は初戦を勝利で飾った。


山本が緊張から解放されて喜びをあらわにしている。


「よっしゃ!まず一勝!」


「やったな。山本様々だったわ」


「並川も他のみんなも、ほんとに頑張ってたと思う。藤吉君なんか、めっちゃ点取ってくれたし」


「ヤマモンのボールが良かったからね」


「藤吉君に変なあだ名つけられてる……」


「良かったじゃん、仲良くなれて」


「じゃあ、俺もヨッシーって呼ぶし」


「こんなくだり、前にもあった気する」


山本が佑紀と初めてちゃんと喋った時もこんなことあったよな、と思い出して、クスッと笑ってしまった。


でも、こういうイベントでお互いの仲が深まるのは本当に良いことだと思うし、なんだか俺もかなり楽しめてる気がする。


それに加えて、真剣に取り組んだからこその心地良い充実感がある。

やはり何事も、まずは全力でやってみるものだな、と思う。


ただそれは、井上さんがいてくれたからこそ、できたことであって。

彼女がいなければ、俺は、いつも通り「そこそこ」でこなしていたに違いない。


「井上さん、ちゃんと見ててくれたかなーー」


「わっ!」


「うわっ⁉︎」


後ろを振り向くと、井上さんが俺の目の前に立っていた。


「お疲れ、並川君!」


「い、井上さん……。やめてよ、心臓に悪い」


「ごめんごめん。てか見てたよ、さっきの試合。頑張ってたじゃん」


「ありがとう。流石にカッコ悪いとこ見せられないな、って思って」


「お、井上効果が出てるみたいですな」


「ど、どうだろう……。井上さんだけじゃなくて、七瀬さんとか他の皆も応援してくれてたし、自然と頑張ろうって思えてたのかも」


「ん〜?じゃあ、私がいなくても問題なさそうだし、次の試合は応援行かないでおこっかな〜?」


「……いや、それはやめといて」


「え〜、どうしよ〜?もっとちゃんとお願いしてくれないと、行くべきなのかわからんな〜?」


この人は本当に。ニヤニヤしながら俺をおちょくるのが大好物なのだ。

ただ、井上さんの応援が1番の力になっていたことは間違いないので、なんとしても来てもらいたい、というのが本音ではあるのだが。


「……井上さんの応援があったから頑張れたし、次も、絶対来てほしい」


ーーかなり恥ずかしい。俺史上、1番ストレートに気持ちを伝えた瞬間かもしれない。試合に勝った後で浮かれていたので、口がいつもよりかなり大胆になってしまった。


「お、おう……。きゅ、急にそんなこと言ってくれるとは……。不意打ちすぎる」


「ご、ごめん」


「あ、嫌とかじゃなくて……。普通に嬉しいんだけどさ、なんかちょっとビックリしたというか……」


「そ、そっか。じゃ、じゃあ、俺もバスケの試合、観に行くから。また後で」


「う、うん。またね」


井上さんも、俺がまさかこんなに気持ちを正直に伝えるとは思っていなかったみたいで。チラッと顔を覗いた時、彼女の頬がほんのりと赤くなっていたのが見えた。


井上さんのこんな顔を見るのは初めてかもしれない。

足早にこの場を去った俺は、今の自分の表情を誰にも見られないように、人目のつかない場所に向かって走り出した。


(やばい。今の井上さん、めちゃくちゃ可愛かったかも……)


今、俺の感情は、恥ずかしさや嬉しさ、驚きなど、色んなものがグチャグチャになっていて、整理がまったくできていない。


試合の時の何倍も胸がドキドキして、夏の暑さ、では片付けられないほど、流れるように汗が出ている。


とりあえず、今は1人でいたい。


あんな表情、ズルすぎる。

不意打ちを止めた方がいいのは、俺じゃなくて、井上さんではないのか。

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劣等感まみれの俺が一歩を踏み出して人生変えた話 さくた @shujiako

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