第29話
コアラの様な形状をした祅を討伐した彼女は携帯端末を確認しながら周囲を見回す。
周囲には茶色い色をした枯葉が舞っていた。
「(私たちが現着したのが朝の六時頃、滞在時間は僅か五分にも満たない筈なのに…現在時刻はお昼の十二時)」
東洲斎白黒が活動してきた時間帯は、彼女の中では未だに五分にも満たない。
だが、こうして活動を通して見ると、六時間も移動していた事になる。
「(この事から察するに、体感時間と現実時間が大幅にズレ混んでいる)」
自分の感覚と現実の時間の乖離。
東洲斎白黒はこれらの謎の現象に対して言える事が一つだけあるのだとすれば、それはただ一つだけしかなかった。
「(この樹海そのものが、能力の影響下なんだ)」
能力。
祅が宿す力。
それによって、彼女たちの体感する感覚が狂ってしまったのだと、東洲斎白黒は推測する。
「(空間を支配する程の能力、ならそれは殿祅に他ならない)」
そして。
空間そのものに影響を与える能力があるのだとすれば。
それは、かなりの能力を所持している存在、ひいて言えば、それは殿號術師と同等のレベルを持つ殿祅と言う事になる。
「(樹海、祓々師が観測出来た祅に、それに関連する祅が居た、確か…)」
十邪祅。
多くの祓々師が遭遇し、被害を被り、生き恥を晒し戦線を離脱した術師の証言によって作られた祓々師の脅威。
その内の六体は、既に両角切が討伐し終え、残るのは四体のみとなっている。
その内の四体の名前を東洲斎白黒は思い浮かべる。
『
『
『
『
この四体が、残された十邪祅であり、現在も全国の何処かで生息している。
そして、東洲斎白黒はその中から一体の祅の名前を思い出す。
『草凪』。名前の通り、植物に関する能力を持つ祅だ。
この状況下、樹海を支配する程に巨大な能力。
その祅と対峙し、撤退した術師からの証言を察するに、恐らくはこの土地を支配しているのは、その祅だと、東洲斎白黒は思った。
「(一筋縄じゃ行かない、…早く、みんなと合流しないと、最悪、こういう的は蜜璃が居れば事足りる、早く蜜璃の元に…)」
移動しようとした。
だが、東洲斎白黒は視線を横に向ける。
何かを察したらしい、それは、殺意にも似た黒い感情である。
東洲斎白黒から三十メートル程離れた場所に、子供の様な背丈をした毛むくじゃらの獣が立っていた。
二足で立ちながら、此方を見つめているその化物に、東洲斎白黒は視線を向ける。
一体、何であるか、そう察すると共に携帯端末を取り出して構えた。
「っ」
構える際に一瞬、視線を外してしまった。
再び視線を元に戻した時、其処に猿の様な生物はいない。
「うきき」
か細い声が耳元から聞こえてくるかと思えば、背後を振り向く東洲斎白黒。
背後には先程の猿が居た、高速移動の様な類であるのか、一瞬で後ろに回り込まれると共に、東洲斎白黒は背を屈めて化物から逃れようとする。
「このッ」
指を向ける東洲斎白黒。
その手に持っていた携帯端末が何処にも無い。
再び視線を猿の方に向ける、猿の手には、東洲斎白黒の携帯端末が握られていて、片手で握り締めると、機械の擦れる音、それが断末魔の様に響き、壊される。
これで、東洲斎白黒は能力を媒介にしての戦いが出来なくなってしまった。
「ぐふ、ふぐぐ、ふふっ」
不敵な笑み、の様な声を浮かべる。
猿は笑っていない、無表情だ、その表情と笑い声にギャップを感じて余計恐怖を煽らせる。
「驚いた、…そのスマホ、プライベート用だから、機種変するの、面倒なんだよね」
東洲斎白黒がその一言を告げると、懐に手を伸ばす。
そして、彼女の内側のポケットからは、六台の携帯端末が取り出された。
「普通、予備は持ってくるのが常識、そして、このスマホが仕事用、こっちのスマホが動画鑑賞用、そんでこのスマホが…」
高性能機能搭載、時速六百キロの速度の最中でもピントすらズラす事無く写真撮影が可能な次世代携帯端末を取り出す東洲斎白黒。
「仕事用、一度やってみたかったんだよね、舐めプして本気出すって奴」
彼女はまだ本気ではない。
撮影用にして術師用に改造された携帯端末を用意して、東洲斎白黒は言うのだった。
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