第13話

そうして、連れて来たのは両角切の数少ない男友達だ。

血色が悪い白髪の男は、真っ白いマスクをしていて、顎にマスクをずらしていた。

ティッシュ箱を片手に、鼻をかんでいる、この男は、慢性的な病弱体質であり、常に何かしらの病気を患わっている。


「ずびッ…こんな所に連れて来て、一体なんなんだよ、切」


男の名前は釣舩つりふね浄流きよなが

病弱ではあるが、それが彼にとっての普通である為に、むしろ健康状態の方が彼にとっては異常状態であると言うあべこべ状態であった。


「悪いな、浄流、今から戦う事になってるんだ、其処でお前には証人になって貰いたい」


釣舩浄流は誰と戦うのか、周囲を見回す。

このグラウンドに立っているのは、両角切と、人形傀の二人だけ。

であれば、必然的に戦う事になるのは、両角切と人形傀なのだろうと、判断する。


「証人って…一体、何の証人なんだよ、…くしゅんッ」


くしゃみによって鼻水が出る。

ティッシュで鼻を拭くと、丸めたティッシュを地面に投げた。

太陽が降り注ぐ空の下、当然影が浮かんでおり、その影に向けて丸めたティッシュを投げると、影は水面の様にティッシュを吸い込み、着水した部分から波紋が広がっている。

これが、釣舩浄流の能力の一部であった。


釣舩浄流の質問に、両角切は答える。


「あぁ、親父に当主になる為には女を娶れって言われたんだ、それを、傀さんに相談して…色々あってこうして戦う事になった」


簡単に説明をした所で、釣舩浄流はその色々について聞きたかった。

だが、それを聞くよりも、釣舩浄流は自らの頭の中で考える。


「(成程、つまり、娘さんを俺に下さいって奴か、それに対して俺より弱い奴にはくれてやらんって感じだな)」


中々惜しい所を突いている釣舩浄流。

しかし悲しい事に、その考えは半分だけ当たっている様なものだ。

確かに、人形傀が両角切と戦う理由は、釣舩浄流が考えている通りだ。

だが、両角切はそんな事などとは微塵も思っていない、とすれば、それは半分正解であり、半分不正解と言う事になるだろう。


「あい分かった、では存分に戦ってくれ、二人とも、この戦は釣舩浄流が受け持った」


胸を叩いて咳き込んだ釣舩浄流。

立ち合い人が了承をした所で、ようやく人形傀と両角切は戦闘の態勢へと移る。

先ず、人形傀は、自らの肩でずっと眠っていた猿を起こした。

主に、鼻提灯に向けて指を突っ込み、強制的に膨らみを破裂させると、驚きながら、猿が顔を上げて周囲を見回す。


「猿彦、出番だ」


その言葉と共に、肩に乗る猿に向けて、人形傀は手の甲を差し出す。

猿はその手の甲を掴むと、人形傀の手にぶら下がり、尻尾を使って人形傀の小指を絡めると、宙ぶらりんになった。

そして、遠心力を利用して人形傀から離れると、前回転しながら地面に着地した。


「傀儡術理『絡繰百般式神操送からくりひゃっぱんしきがみそうそう』」


何処から取り出したのか、猿が扇を取り出すと、両手を強く振りながら踊っている。

その踊りに合わせる様に、人形傀の姿が段々と変わっていく。


人形傀が袖を捲る。

彼の腕は蛇腹の様に分かれており、叉焼を輪切りにしたかの様に腕が別れると、腕と腕の間には、黒い糸の様なものが絡まっている。


「(傀儡術理、これが傀さんの術式、自らをカラクリ仕掛けの人形に変える、…そしてその操作権を握っているのは、あの猿だ)」


両角切は、人形傀の肩で眠っていた猿を見る。

その猿こそが、人形傀の式神であり、拡張術式の一端であった。

人形傀の肉体が自身の意思で操作が不可能になっても、猿が存在する限り、人形傀は延々と動き続ける殺戮機械に成り得る。


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