第4話


人影が、そのまま破壊された校舎から落ちる。

高さは三階であり、そのまま地面へ着地した。


「きゃふんッ!」


…尻から、着地をした。

本来ならば骨が砕ける距離だが、彼女の肉体は流力操作によって肉体が強化されている為に無傷に等しい。


「あいたた…急に爆発するなんて聞いてないよぅ」


尻持ちを突きながら、彼女はお尻を擦りながらそう言った。

そして、近くに両角切が居る事を確認して、自らが尻を擦っている所を見られて赤面している。


「あ、わわッ!セッくん、もうお仕事終わったの?」


顔を赤らめて、スカートに付着した土埃を落としながら彼女はそう言って来た。

彼女の名前は謝花しゃばな蜜璃みつり、チョコレートの様な色合いをした髪を首元まで伸ばしている女性だ。

蒼い瞳が特徴であり、厚着の衣服を着込んでいるが、彼女の肉付きの良さで少しふくよかな印象を受ける。

笑う顔が魅力的で、口元が猫の様にも見えた、可愛らしい女性であると印象が強い。


両角切の方に視線を向けると、彼の姿を見て近寄って来る。

彼の肩に手を置いて、体の隅々まで確認している。


「大丈夫?怪我とかしてない?あ、お弁当作って来たの、それとレモンのハチミツ漬け、お疲れの時に食べたらすっごく体に浸みて良いって橘くん家のお母さんが言っててね」


話が二転三転する事が彼女の性格でもある。

両角切は唐傘を閉ざすと、謝花蜜璃に言う。


「橘って誰だよ…と言うか蜜璃」


両角切は、謝花蜜璃が戦っていた相手はもう大丈夫なのかと聞こうとした。

しかし、謝花蜜璃は耳を両角切の方に向けて聞き返す。


「え?お母さん?」


とんでも無い言い間違えだった。


「んもう、そんな、私、困っちゃうなぁ…でも、セッくんがお母さんが欲しいって言うのなら、やぶさかでも無いって言うか、むしろ全然OKだと言うか、何時でも包容力と母性を発散させる気OKだと言うか…よし、ばっちこいっ」


そして謝花蜜璃は困ると言いながら体をくねらせて満更でもなさそうな顔をしていた。

両手を大きく開くと、両角切を強く抱き締めようとしていたので、両角切は首を左右に振り、片手で彼女の頭に向けてチョップをする。


「あいたッ」


「言ってない、こう言う言い方は悪いが、耳の掃除でもしたらどうだ?」


両角切のチョップを両手で持ちながら、頬に近づける謝花蜜璃。

そして頬擦りをしながら両角切の言葉に聞き返す。


「え?耳かき?良いよ!お母さんがやってあげる!膝枕で両耳掃除してあげるからねっ!」


黒ニーソの太腿をぱしん、と手で叩いて言う謝花蜜璃。

両角切は食い気味になりつつある謝花蜜璃に冷たい言葉を口にする。


「母さんぶるなよ蜜璃」


そう言うと、表情を蒼褪める謝花蜜璃。

一歩、二歩、と後退すると、口元を手で抑えて声を荒げた。


「なに、反抗期!?お母さんと一緒に歩くのが恥ずかしい年頃なの?!およよ…」


地面に座り、ハンカチで目元を拭うふりをする謝花蜜璃。

いよいよ、彼女の芝居じみた行動にうんざりとしてきた両角切は唐傘を肩に背負いながら諦観する。


「いや、もう…だから…まあ、いいや」


そう言いながら謝花蜜璃の方へと歩いていくと。

先程、破壊された校舎の方から何がが此方を見ているのに気が付く。


「…で、蜜璃、お前。校舎の祅は倒したのか?」


「あ」


そう言えば、と思い出す謝花蜜璃。

校舎の方に顔を向けると、黒い炭の様なものを携える鬼の姿が見えた。

いや、背中から直に、真っ黒になった薪の様なものが飛び出ている。


「わ、忘れてた、セッくんと会話してたらつい、…あの別にッ、忘れっぽいってワケじゃないよ、決してポカな子ってワケじゃないよ?!」


立ち上がりながら謝花蜜璃が必死に弁明する、両角切は唐傘を構える。


「まあ、別に責めてるワケじゃない」


そう付け加えて、両角切が鬼と戦おうとした時。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る