第5話
鬼が此方に気が付いて、飛び立とうとした瞬間。
廊下の奥から巨大な手が出現すると共に、鬼の肉体を掌が多い、握り潰す。
爆竹の様な破裂音が響くと共に、鬼は握り潰されて消滅する。
その巨大な腕は、黒色をしていた、腕の陰である部分は白色で、絵画の様にも見えた。
そうして、巨大な腕が消えると、両角切は警戒を解いた。
これ以上は戦わなくても良いと思ったのだろう、その証拠に周囲に感じる祅の気配は何処にも無くなっていた。
そして、玄関の方を見る。
ゆっくりと此方にやって来る人間の姿がある。
その人間を見つめる両角切。
謝花蜜璃が両角切の腕に抱き着いた。
そうして、彼らの元へとやって来る人間の姿が浮き出る。
「何、してんの?」
校舎に続く玄関からゆっくりと出てくる一人の女性。
長い髪の毛、色は素朴であるが右半分が白、左半分が黒の色をした髪をしていた。
ツーサイドアップにした髪が歩く度に左右に揺れていて、黒いマスクを装着している彼女は口籠った声を漏らしている。
「あ、モノクロちゃん」
謝花蜜璃は彼女の顔を見て、そう言った。
彼女の名前は
白黒と書いてモノクロと読む、今時なキラキラネームである。
ゆっくりとポケットに両手を突っ込みながらやってくる。
「さっきのは、東洲斎がやったのか」
巨大な白黒の腕、それは東洲斎白黒の能力であった。
両角切がそう言うと、東洲斎白黒は眉を顰める。
「その呼び方、キライなんだけど、下の名前で呼んでって言ってるじゃん」
と、両角切に再三そう呼ぶ様に言うと、両角切は首を傾げる。
何故。彼女が自分の名前の事を嫌っているのかあまり理解出来ない様子だった。
「別に、東洲斎ってかっこいい名前だと思うけどな」
ポツリと言うと、その言葉を東洲斎白黒は逃さない。
両角切に向かって近づくと、その理由を教えてくれる。
「ジジイが、好きそうな感じでしょ、イヤなんだけど」
東洲斎。
如何にも古風な苗字であり、それが彼女には気に入らないと言う。
ジジイが好きそうな、と言われて、ならば両角切は彼女の言葉に言い返す。
「…じゃあ、俺はジジイって事になるのか?」
東洲斎と言う苗字は個人的に好きであるらしい。
好きであるのならば、両角切は年寄りだと言っているようなものだろう。
その返しに対して東洲斎白黒が答えようとする前に、先に謝花蜜璃が頬を両手で抑えながらショックを受けた様子で叫ぶ。
「そしたら、私はひいおばあちゃん?!」
彼女の中では両角切の母親である。
子と母は年が離れているものであり、子が大きくなり老人になれば、母もそれ以上に年を取る。
だとすれば、その子供が父親となり子供をまた作ったとなれば、母親である彼女は父親の子供から見れば曽祖母と言う図解で成り立っていた。
其処まで凄まじい妄想であるが、その妄想を両断するように東洲斎白黒は言う。
「そうは、ならないでしょ」
この言葉で断殺された。
彼女らのやり取りを段々と面倒臭く感じて来た両角切は校庭から離れようとする。
携帯端末を取り出し連絡を入れる、連絡先は術師協会と呼ばれる祓々師が属する組織であり、事後処理の為に連絡をする事を義務としていた。
「まあいいよ、とにかく、仕事は終わった、帰ろう」
そう言いながら登録していた電話番号にボタンを押す。
と、そうしようとした時に、東洲斎白黒が声を掛けてくる。
「ん、それよりも、切」
携帯端末で連絡を入れる前だったので、携帯電話から指を離して東洲斎白黒に顔を向ける。
「ん?なんだよ、急に」
そう言うと、東洲斎白黒がずい、と顔を近づける。
黒い瞳に赤い宝石がちりばめられた様な目をしている東洲斎白黒。
光が無い深淵の様な目に、両角切の顔が映り込んだ。
一体なんであろうかと思う両角切に、東洲斎白黒は言う。
「なんか、元気ないじゃん、どうしたの?」
彼女の言葉に、あぁ、と声を出す謝花蜜璃。
「あ、それ私も思った、いつもより少しお疲れなのかなーって思ってたけど、何かあったの?お話出来る?」
そう言って両角切に近づく謝花蜜璃。
東洲斎白黒と謝花蜜璃に挟まれるようになった両角切は、これは逃げられないと思った。
「…まあ、別に話しても良いけど、これは俺の問題だし、聞いた所で意味なんて無いぞ」
そうして両角は、自らの親に言われた事を、二人に話すのであった。
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