第6話


両角切は話し出す。

自分の億劫な感情を、少しでも拭えれば良いかも知れないと、当主に言われた事をそのまま彼女たちに告げた。

それは単なる気持ちの整理であり、彼女たちにどうにかしてもらおうと言う気はまるで無かった。


「…と言うワケだ、俺自身はそういう意中の相手とかいないし、これからどうするかを考えているって言うワケなんだが」


話を終える両角切。

少なくとも、鬱憤とした気持ちは晴れたような気がした。

両角切の話を聞いていた二人、東洲斎白黒は隣に立つ謝花蜜璃の方に視線を向けていた。


腹部を手で抑えて、もう片方の手を握り拳にして口元に添えている謝花蜜璃。

その表情は何処か赤くて、何かを考えている様子だった。


「じゃあ、じゃあ、それって、それってぇ…」


東洲斎白黒は謝花蜜璃に何を考えているのか聞こうとした。

だが、東洲斎白黒は直前で硬直する、謝花蜜璃の小さく呟く声に反応してしまった為だった。


「でも、困るなぁ、私は、セッくんのお母さん的ポジションだって言うのに、恋人を通り越していきなり新妻?そんな未来もありえちゃうのかなぁ?いやでも、セッくんのお嫁さんになったら、何れは子供とか出来たりして、セッくん似の子供からお母さんとか言われたり?そしてセッくんからも『おい母さん』なんて呼び方されちゃったら…うわぁ、脳が沸騰しちゃうよぅ」


妄想が口から漏れていた。

幾ら友人と言えども、その言葉には決して看過出来ない感情の引きと言うものがあった。

つまりは、ドン引きである、こんなにも人は狂えるのかと思った。

そうして、彼女を現実に戻す為に、東洲斎白黒は彼女の肩に手を添えて軽く動かす。


「どうした、急に」


そう声を掛けると共に、両角切もやって来る。

ぶつぶつと口から妄言を漏らしながら妄想に耽る謝花蜜璃に話しかける。


「おい、何をぶつぶつ言ってるんだよ、謝花」


声を掛けられた事で、彼女は妄想の世界から現実へと戻る。

現実世界に存在する両角切は、彼女の妄想からアウトプットされた為に、謝花蜜璃にとっては若干三倍の修正を施された美形の両角切の顔が其処にあった。


顔を火照らせながら、両手で頬を押さえながら、謝花蜜璃は両角切に聞く。


「え?あ…えぇと、セッくん、あのね?」


もじもじとしながら、彼女の言葉に両角切は一体何を喋るのかと思いながら聞く。


「?」


東洲斎白黒も彼女が一体、何をやらかすのかと見ていると、謝花蜜璃は声を上擦らせながら大声で叫ぶ。


「ふ、ふつつかなものですが、これからも末永く、よろしくお願いしたいと思っていますっ!」


彼女は現実へ戻って来たかと思ったが違った。

彼女の脳内では既に両角切との結婚式を終えた初夜目前の生娘の様な気持ちになっている。

唐突な彼女の叫び声に一体、どういう意味なのかと両角切は拳を作り口元に当てて考えた所、自分たちが三人一組のチームである事を思い出した。


「…あぁ、まあ。俺たちは三人一組で行動する様に言われてるからな、当分は一緒だろ」


そうして、両角切は彼女の言葉が三人一組での任務をこれからもよろしくお願いします、と言ったのだと勘違いしていた。

そして、その両角切の言葉に、謝花蜜璃は口を開けて叫ぶ。


「え、プロポーズ?!じゃあこれから…毎日、お弁当作ってあげるっ」


最早新妻のつもりであった。

流石に彼女の状態に突っ込みを入れざるを得ない東洲斎白黒。

五指を揃えると彼女の脇腹を突っついた。


「ちょあッ」


素っ頓狂な声を上げる謝花蜜璃。

東洲斎白黒は彼女を見ながら悲哀に満ちた目で冷たく言う。


「どの辺に、プロポーズ感じた?」


更にその言葉に、両角切は頭を掻いた。

まさか先程の言葉がプロポーズに捉えられたのか、とそう思ったのか。


「プロパンガス?」


いや違う。

単純に疲れていた。

今時の鈍感主人公の属性を持つ両角切は首を傾げながら聞いている。


「切、お前は少し寝ろ、もしくは耳を買い替えろ」


この場では東洲斎白黒が突っ込みの立場になっている。

今宵も夜が終わっていく、それでも、両角切の問題は未だに終わる気配がない。

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