第7話


謝花蜜璃。

幼い頃から両角切の傍に居た、所謂幼馴染と言う立場である。

まだ小さかった二人は己の運命など知る由も無かった。

夕暮れになるまで共に遊び続けた。

今では潰された公園で、謝花蜜璃は両角切と約束をする。


『じゃあ、しゃばながね、せっくんのお母さんになってあげる』


何故、そんな約束をしたのか。

若くして両角切は母親を亡くした。

それが悲しくて泣いていた彼を、彼女はどうにかして泣き止ませたかった。

だから、これ以上悲しくならない様に、謝花蜜璃は約束をしたのだ。


両角切の母親の役割を行い、必ずその涙を止めて見せると。

小指を突き出し二人は約束をした、その約束を、謝花蜜璃の記憶の片隅に残っていた。


「(…あれ?どこからどこまでが現実で夢だったんだっけ?)」


布団の中。

謝花蜜璃は体を起こして欠伸をする。

夜の様な厚着ではなく、キャミソールとパンツ一枚と言う姿だ。

そのまま前のめりに倒れると共に、彼女はベッドの上に胸を押し付ける。

そして両手を前に伸ばして、背筋を反らせると、猫の背伸ばしポーズをとる。


「ん、んゆぅぅ…ッふはッ」


未だ寝惚けた頭の中。

既に、彼女が見た夢の内容は消えていた。

謝花蜜璃は、昨日の事を朧気に思い出していた。


「(えぇと、まず、セッくんのお嫁さんになる所までが現実?あ、違う、お母さんになったんだっけ?)」


過去の夢以外にも、色々と幸せな未来の夢を見ていた彼女は、何処までが本当で、何処までが妄想であるのか区別が付かなかった。

なので、自分では真実を確かめる事は出来ない。

だから、謝花蜜璃は他の人間に真偽を確かめて貰う事にする。


「(どうだったかなぁ…あ、そうだ、モノクロちゃんに聞いてみよ)」


謝花蜜璃は携帯端末を手に持った。

充電コードを挿しっ放しにした携帯端末は、常に充電完了と、残量100%の画面が現れている。

無料ダウンロードが可能なチャットアプリを開くと、其処から彼女は友人の名前を選択し、通話ボタンを選択する。

コール音が響きつつある、そうして、十回目のコール音が続いたかと思えば、通話状態となった。

彼女は携帯端末を耳に添えて、相手の名前を口にする。


「もしもし、モノクロちゃん?」


連絡の相手は、東洲斎白黒だった。

通話先からは、乾いた声が聞こえてくる。


「はい、モノクロですけど、…蜜璃、何か用?」


カチャカチャと、無機質なキーボードを弾く音が聞こえてくる。

それと同時に、銃撃音、何か被弾する音、そしてダンディな声優のノックアウトされた声が聞こえて来た。

その声を聞いて、謝花蜜璃はまた何時もの様にゲームをしているんだと、そう思った。

現在時刻は朝の六時。

人によっては未だに眠りに付いている時間帯だ。

そんな時間帯であると言うのに、ゲームをしていると言う事は、東洲斎白黒は任務を終えて、自宅へと戻ったと同時に深夜、寝ずのオールナイトを決め込んだに違いない。

健康に悪い一日を過ごしているな、と謝花蜜璃は思うが、それを口に出す事はしない。


「あ、うん、あのね、モノクロちゃん、ちょっと確かめたい事があってね?」


未だにカチャカチャと音が聞こえてくる。

東洲斎白黒がプレイしているゲームのジャンルはFPSだ。

主に銃器を使用して敵プレイヤーを倒すバトルロワイヤル方式なのだが、このゲームは銃器以外にもバラエティに富んだアイテムがある。

攻撃力皆無のハリセンであったり、来神トールが使用するハンマー、ミョルニョルなどがポップする様になっている。

アイテム次第で戦力が変わるが、そこがまたこのゲームの醍醐味とも呼べるだろう。


「なに、ゲームしてて今、忙しいんだけど、話すなら手短でお願い」


だが、現在の東洲斎白黒は激戦区にて戦闘を行っているらしい。

本来ならば、電話が来ても無視するか無言で要件だけを聞いた後に切るかの二択だ。

だが、相手が謝花蜜璃だからこそ、こうして会話をする時間とリソースを割いている。

それもこれも、東洲斎白黒にとって、謝花蜜璃は大事な友達、だからだろう。

手短にお願いと言われた謝花蜜璃は言葉を纏める。


「うん、えぇと、事実確認って言うのかな?私がセッくんとお嫁さんになる所までが現実だっけ?」


そして、彼女は妄想と現実を巻き込んだ事を口にした。

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