第18話
軽い運動を終えた所で、両角切は教室へと向かっていた。
教室へ入ると、教室の中には、腕を組んで目を閉じる、白と黒の髪をした白黒半々長髪の東洲斎白黒が居た。
耳にはワイヤレスイヤホンをしていて、どうやら音楽でも聴いているらしい。
男性のボーカル、激しい音楽、それは彼女が楽しんでゲームをしているFPSのBGMだった。
激しい音楽が、耳元から漏れて聞こえてくるのだが、東洲斎白黒はその激しさとは変わって静謐に満たされていた。
髪の色合いこそ奇抜であり、耳元に開けられたピアスの数や地雷系メイクである事を除けば、彼女こそが清廉な大和撫子系女子と言っても過言ではないだろう。
それ程までに、口を開かず、無を貫く姿勢が何よりも彼女の美しさを表していた。
「おい、白黒」
両角切が一度声を掛けるが反応が無い。
近付いて、両角切が東洲斎白黒の前の席に座った所で、微かな振動を感じて東洲斎白黒が目を開く。
「あ、来たんだ」
そう呟くと共に、東洲斎白黒はイヤホンを外して、両角切の方に顔を向ける。
ワイヤレスイヤホンを仕舞いながら、東洲斎白黒は改めて両角切の方を見た。
「書類系、ある程度は終わったのか?」
机の上には六十枚程の書類が溜まっている。
これは、祓々師としての両角切たちが、今回の討伐行動に対して出される人的被害や建設物破壊時の補填費の詳細などが記されたものであり、其処に名前を書いて用務員に申請しなければならなかった。
「切、取り合えずこれ、前回の祅討伐の際の補修免除書とその他諸々の書類、全部書いておいて」
両角切には十五枚程の用紙が渡される、それを受け取った両角切は面倒臭そうにしながらも用紙に一枚一枚記入しつつある。
「ん…なんか英語で書かれてる奴もあるんだけど、こんな用紙あったか?」
両角切は前回で記入した用紙よりも数が多い事に疑問を覚えながら自らの名前を書いていく。
「その書類は…私も知らない、あ、これ最優先で書いた方が良いかも」
渡される用紙は二枚であり、一枚の用紙の上にもう一枚用紙を乗せてある。
名前と諸々の個人情報を書く欄だけが、一番下の用紙に記入される様になっていた。
「なんだこの書類、なんで二枚一緒になってるんだよ…」
不可解な様子で両角切が言う。
一番下の用紙は一体なんであるのかを確認しようとしたら、それを東洲斎白黒が止めた。
「そこ以外、絶対に間違えたらダメなんじゃない?どうせ学校側から用意されたんだから、怪しいものじゃないでしょ」
そう言われて、確かに、と両角切は思った。
これらの書類は全て、学校側が用意したものだ、祓々師を教育させる機関が態々、人を騙し取る様な真似はしないだろうと、両角切は思った。
だから、渋々と名前を書き、予め用意していた実印を押した所で、その用紙を見ていた東洲斎白黒はひったくる。
「一応これ、一番重要な用紙らしいから、後で一番に持っていく」
東洲斎白黒の言葉に、両角切は二つ返事で了承する。
その場から離れようとする東洲斎白黒。
教室から廊下へと続く扉に手を掛けた所で、彼女は振り向いて、白と黒の髪を揺らしながら、両角切の方に顔を向けた。
「…ねえ、切」
用紙にペンを走らせて、サインをしている両角切は、彼女の言葉にうわ言の様に返事をする。
「あ?どうした?」
両角切は丁寧に綺麗な字で、文字を書いていく、普段から討伐後に行われるこのサインこそ、討伐終了の儀であると言っても過言ではない。
だから、両角切は大事に、決して文字を書く事でも手を抜かずに記入を行う。
「そういえば、切。あんたって、恋人作らないと当主になれないんだっけ?」
その言葉を聞いて、両角切は手を止めると、ゆっくりと東洲斎白黒に目を向けた。
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