第11話

未来を見据えている人形傀に対して、あまり嬉しくなさそうな表情をする両角切は、手を前に出して、掌を見せる様に人形傀の言葉に遠慮をする事にした。


「折角の申し出ですが…恐らくは、あいつは俺の事をあまり快く思ってませんよ」


それは、人形傀の妹と、両角切はあまり良い関係ではないと言う事だ。

人形傀の妹とは、何かと衝突しているらしく、決して仲が悪いと言うわけではないが、単純に揶揄われている人間の一人として扱われていると、両角切はそう思っていた。


しかし、意外そうな顔をしているのが人形傀。

人形傀の妹から聞かされる話では、両角切に対する好感度は決して低くは無く、むしろ高いものだと思っていたから、両角切の言葉には甚だ信じがたいものであるらしい。


「その筈は無い、宗家でやつがれの嫁と喋る愚妹は常に兄の名前が出ていた」


実家では、人形傀の妹と嫁が仲良く話しているのを見かける。

その中で、意中の相手が誰であるかと言う話に対して、つんけんとしながらも話題に上がるのが両角切の名前であった。


「どうせ悪口とかそういうのじゃないんですか?アイツ、俺に何故か突っかかって来るんですよ、何かと」


過去に何度か、人形傀の妹が自分を弄って来る所を思い出した。

主に、「えっち」とか「変態」と言った言葉を多用してくるので、両角切は対応に迷ってしまう事がしばしばある。

流石に、それを尊敬する先輩に向かって、詳細を口にする様な真似などはしなかったが、それを聞いた人形傀は片手で自らの口元を抑えて考え事をしている。


「…いや、それは恐らく、兄が鈍感であるか、それか…愚妹の性格の問題だ」


愚妹の性格を一言で表すのならば、と。

嫁が漫画や小説を読んでいる為にその方面の知識を蓄えてしまった人形傀は、自らの妹を一言で表した。


「所謂、つんでれ、と言うものなのだろう」


好きな相手に素直になれない、だけど内心は物凄く好いている。

それを表に出さずに相手に噛み付く様な行動しか出来ない様から、ツンデレと言う属性を人形傀の妹が持っているのではないのかと、人形傀は思った。

ツンデレと言う言葉に、流石にそれは無いと思いながらも、人形傀の手前否定的な言葉を口にする事は控えた。


「…どちらにしても、相手の気持ちを無視する様な事ではありません、傀さんの申し出ですが、御遠慮させて頂きます」


幾ら人形傀が愚妹をくれてやると言っても、その愚妹にも感情と言うものがある。

嫌な相手に対して、強制的に婚約をさせられるなど生き地獄に等しいだろう。

その様な事を考えると、いくら両角切に対して突っかかって来る人形傀の妹であろうと可哀そうだと思った。


だから、人形傀の話を断ろうとしたのだが、その上を超す様に、人形傀が発破を掛けてくる。


「兄よ、もしかすれば、兄は逃げているのではないか?」


意外な言葉に、両角切は呆気にとられた。


「…え?」


思わず、その様な素っ頓狂な言葉が出てしまうのも無理が無い話だ。

だが、人形傀は間髪入れずに、両角切のダメな部分を強調して告げる。


「自分にその様な可能性は絶対にない、そう考えているからこそ、けいの当主は嫁を娶る様な条件を出したのでは無いのだろうか?」


その言葉に、両角切はハッとした。

何かに気付かされた事により、深く、真剣な表情を浮かべる両角切は、自らの行動を振り返る。


「…そう、かも知れません、だからこそ、親父も俺にこの様な条件を出した可能性もある」


簡単には行かない難解な条件。

それはもしかすれば、両角切がそう思っているだけなのかも知れない。

認識の違い、と言う奴だ。


人形傀はゆっくりと頷き、両角切を真っ直ぐと見つめている。

やはり、偉大な男だと、両角切は思った。

己一人では決して気が付かなかった事を、こうも簡単に説いてくれる。

やはり目標にして憧憬の相手に相応しいと、改めて両角切は思った。


「…だが、流石に、やつがれも急かした部分もある、気が変われば、その時は考えてくれ」


人形傀の妹を貰う、と言う話。

それは、あくまでも自分が告白し、相手が応じるかどうかの問題だ。

流石に強制的に結婚と言った強引な真似はしないと、両角切は決めていた。

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