第22話
一人脳内で、両角切を思い浮かべる。
それは、意外、と言う感情だった。
「(と言うか、あの堅物もそんなものを見るんだ)」
メモ用紙と謝花蜜璃の独り言を聞いて、東洲斎白黒は考える。
両角切は術師学院には高校の時に入学した。
両角切とは時に出会った為、大体三年か四年程の付き合いだ。
謝花蜜璃とは違い、傍に居た時間は少ない、だからこそ、意外な発見などを見つけてしばしば驚く事も多々あった。
「(性欲はあるんだ、…だけど、どうしてあそこまで鈍感なのか、まるで分からない)」
移動距離が長ければ長い程に、時間を潰さなければならない。
大抵は到着まで疲弊感を積ませない様に眠る術師や、移動時間の合間に別の仕事や遊んでいる術師も居る。
東洲斎白黒はスマホでゲームか動画鑑賞、SNSでエゴサーチなど。
それ以外であれば寝る、この四つくらいなのだが。
東洲斎白黒は、数日前から両角切の『嫁探し』の話を聞いてからと言うもの、何かと考える時間が増えつつあった。
それは、自分が嫁になるには、と言う考えではない、嫁探しであると言うのに、何故、両角切はあそこまで鈍感であるのか。
「(恋って感情は結局、欲求の一つでしょう、生理的欲求、性欲の一種でしかない、なのに、性欲はあるのに恋愛の感情はないって、おかしくない?)」
恋に対して鈍感である、それにしては性欲はちゃんとある、其処に対して東洲斎白黒は疑問を抱いている様子だった。
何かトラウマがあり、恋に対して忌避感を抱いているのかと思えばそういう事ではない、女性に対して苦手意識を持っている、と言うわけでもない。
考えれば考える程に、東洲斎白黒は深みには嵌っていく感じがした。
「(前に、蜜璃に聞いたけど…、中学生の頃から変わったって聞いてるし、…そう言えば、切は中学の頃に術理を発現させたって言ってたっけ?)」
同じ部隊に居れば、自然と身の上話などする事が多い。
その内、両角切が自分の話をしたときの事を思い出した。
両角切は術師としては落ち零れであったらしい、術師協会に登録すらされない、まるで存在感の無い人物だった。
だが、術師協会には中学生の時に登録し、術師としての活躍をしていたらしい。
色々と伝説を築いた両角切は、高校に入れる年齢になると、ようやく術師学院へと入学したのだ。
「(術師にしては遅咲き、むしろ芽が出る可能性すら摘まれてる、なのに何故、術理が発現したのか、考えられる事があるとしたら…)」
東洲斎白黒が思うのは、両角切の境遇。
本来、祓々師は術理を発現させるには生まれて五年程の月日が掛かる。
五歳から十歳の間に、血筋による術理が継承され、流力を生み出す器官に刻まれるものだ。
だが、この器官が弱かったり発達が遅れたりすると、その分術理の発生が遅れる、最悪術理が刻まれない事もあり、祓々師としての人生は終わった様なものだろう。
しかしそうならない方法も存在する、術師が持つ器官を、他の術師から移植する方法や、外部からの契りを結ぶ事で、成長を助長させる方法など。
「(戒律、それをしないと言う約束事をする事で、その分の恩恵を得る事が出来る、内容が重ければ重い程に恩恵は多大になる…)」
その内の一つが戒律である。
自らの戒めを作り、それを律する事で恩恵を得る方法。
例えるならば五感の内どれか一つを欠損しても、残る四つの感覚がそれを補うものに近い。
視界が潰されても聴覚が発達し周囲の音を聞き分けたり、鼻が潰れても肌で空気を感じ取ったり出来る様に。
この世界での戒律とは、自らの行動や思考を制限することでその分の性能を上昇させるものに近い。
無論、戒律を破る、破戒をしてしまえば、その分の代償は大きい物となるが。
「(かくいう私も戒律持ち、だからこそ、切とは何かと似通ったものを感じるし…けど、それが繋がりがあるかどうかなんて分からない)」
助手席に座る両角切を見る。
彼が一体、どうして其処まで鈍感であるのか、謎を覚える東洲斎白黒。
「(ただ一つ言えるのは…鈍感だとしても、あそこまで色恋に鈍くなる事なんて、心が無い様なものでしょ)」
一つ、そこで完結し、それ以上考えるのを止める東洲斎白黒。
それ以上、考えた所で、結果など分からないと判断した為だった。
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