第15話


「えーなになに、お兄ちゃんとキリリがやってんじゃん、何してんの?」


銀髪。片耳にピアス。

赤い瞳をした彼女。

その恰好はノースリーブのシャツに、コートを羽織っている。

動きやすい様にミニスカートを着込んでいて、口には棒の付いたキャンディーを咥え込んでいた。

そして、背中には、複数の人形、否、ぬいぐるみが本当に生きているかの様にしがみ付いている。


彼女の名前は人形ひとがたフェルト。

異国の血を持つ彼女は、人形傀とは腹違いの兄妹であった。

彼女が額に掌を添えて前を見据えながら、両角切と人形傀の戦いを見ていた。


「まーた、キリリがなんかしてんかな、せぇっかく、フェルトちゃんがからかってやろうと思ったのに、お兄ちゃんが戦ってるのなら、仕方が無いなぁ」


そう言いながら人形フェルトは、釣舩浄流を発見して近づく。


「キヨヨじゃん、何してんのこんな所で、釣り?」


そう言いながら釣舩浄流の方に顔を向けると、赤い顔をしながら鼻を噛む釣舩浄流は軽く挨拶をした。


「フェルトか…ぶぇっくしょッ!!ずずッ、あー、なんだよ、知らないのか?」


そう言いながら釣舩浄流は今回の戦いに関して何も知らない彼女にそう聞いた。


「ぜーんぜん、大方、お兄ちゃんがキリリと戦いたいとかじゃないの?はーあ、折角面白いもの用意したのになぁ」


と、そう言いながら携帯端末を操作する人形フェルトは、動画を視聴していた。

それは自らが撮った動画であり、其処には両角切の姿があった。


「みてみて、これ、ロッカーの中に下着を入れてみたやつ、キリリの反応、すっげー面白いのッ!」


そう言いながら、釣舩浄流は言われた通りに動画を確認する。

その動画の視点は、下から上に向ける様な動画の取り方であり、恐らくは彼女が操作する人形に持たせたものなのだろう。


日付から察するに、一週間前の動画だ。

その動画の内容は、運動をし終わった両角切が汗を拭きながら更衣室に入って来るシーンだ。

そのまま、自分専用のロッカーに手を伸ばして、ドアを開けたと同時に何かがロッカーの中から落ちて来た。

それを拾い上げる両角切。ピンク色のブラジャーであり、それを摘まんだと同時に、地面に向けて叩き付けると大声で叫ぶ。


『おおおおッ!フェルトぉおお!!』


何度も、こういった悪戯をされているのだろう。

両角切はこのブラジャーの所有物が人形フェルトのものであると察した。

叫び声を上げた所で、人形フェルトが笑いながら更衣室に入っていくシーンで終わる。


「やー、面白いなぁこれ、唐突に思いついてやってみたら物凄い動画取れちゃったんよねー、まあ…おっとと」


それ以上を釣舩浄流に喋る事はしなかった。

まさか、突発的に考えた行動であり、ロッカーに入れる下着をその日自分が着けていた下着を使用したなど、流石に下手な情報を口にしようとはしなかったが。


「やー、キリリはこういう方面にはガチギレ大臣だからねぇ、それが面白くてついやっちゃうんだけどさー」


呑気にそう言いながら釣舩浄流に語り出す。

それを聞いた釣舩浄流はティッシュを三枚重ねて鼻を噛みながら告げる。


「…お前なぁ、今、なんで切が戦っているのか知ってるのか?」


人形フェルトは呑気な顔をしながら首を傾げている。


「えぇ?なに、普通に戦いたいから戦ってるんじゃないの?そういう人種でしょ?戦闘民族」


両角切と人形傀を見回しながらその言葉で片づける。

腰を下ろして座る彼女は、膝に肘を当てて手で頬を支えた。

彼女の言葉に、釣舩浄流は勘違いをしていた事を彼女に告げる。


「いいや違う、これはな、取り合っているんだ、大切な奴の為のな」


意味深な言葉を吐いた事で、人形フェルトは首を傾げていた。


「なに?大切な奴の為とか、あ、もしかして私の為に戦ってるとか、そゆう感じ!?超絶可愛い大天使フェルトちゃんの取り合いって奴?言っておくけどフェルトちゃんはみんなのものじゃなくてわたしだけのものなんだけどなー!」


冗談交じりで言う人形フェルトに、釣舩浄流は首を縦に振った。


「そうだ、これはな。妹さんを嫁に下さい、と言うお前を掛けた戦いなんだよ」


勘違いをそのまま、人形フェルトに告げる。


「ふぇ?」


気の抜けた鳴き声だった。


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