第16話
「は、はは、なにそれ、ジョーダン?おもしろ、ぃ」
一度笑っていた人形フェルトだったが。
しかし鼻水を垂れ流し目を真っ赤に充血させた釣舩浄流はその真剣な眼差しを人形フェルトに向ける。
その表情が消して嘘ではないということを人形フェルトはだんだんと理解すると先ほど言っていた釣舩浄流の言葉を思い出してこの2人の戦いがどういった意味合いを持っているのかを察してきた。
「は、はー!?なに、ドッキリに対する仕返し!?嫌がらせにしてはイヤと言う程に嫌なんだけど!」
そう叫びながら人形フェルトは立ち上がり釣舩浄流から離れるまるびっくりしとしていた表情であり、彼女の顔はトマトのように真っ赤になっていた。
その瞳はぐるぐると回っている。
すでに意識はジェットコースターに10回ほど乗ったような感覚だった。
頭がグラグラとしながら人形フェルトは火照る顔に手を添えている。
「嘘なものか、断言する」
寒いのか手をこすりながら釣舩浄流はそう言って自分が確信していることを人形フェルトに告げるのであった。
手で口元を隠している人形フェルト。
表情を察せられないようにしているが頬が緩んでいるのが見えた。
「だってそんなの私の都合を考えてないでしょ!これはっ!べ、別に私はキリリの事なんて、全然好きじゃないんだからね!」
ありきたりな定型文を口にする人形フェルト。
その言葉に釣舩浄流も反論するように言った。
「もしかしてお前、切の事を好いてないとか他人からはバレてないとか、そう思っているんじゃないだろうな?」
その言葉にショックを受ける人形フェルト。
まさか釣舩浄流に自分が両角切を好きだなんていうことを知られているとは思わなかった。
「(なんで大好きすぎてついつい構って欲しくてイタズラしてたのが、バレたの?!)」
彼女にとっては驚きのことだ。
あくまでも両角切をからかう一人の友人として接していたはずなのに。
しかしその行動が全て他人から見れば明らかに好感度を振り切った片思いのような行動であると悟られてしまったのか。
人形フェルトの疑問に対して釣舩浄流はさも当然のように人形フェルトの疑問に対して答えてくれる。
「普通に考えてみろ、好きでもない男にわざわざ自分の下着を使ってドッキリを仕掛ける女なんていないぞ」
背筋に雷が落ちてきたかのような衝撃。
驚きを通り越して目から鱗。
それもそうだと人形フェルトは納得した。
気でもない男に自らが使用していた下着を使うような真似はしない。
単純ゆえに人形フェルトは気がつかなかった。
みるみるうちに顔を俯けていき頭から湯気が出そうなほどに恥ずかしい思いをしている人形フェルト。
「これを機に自分の身の振り方を考えることだな」
澄ました顔をしながら釣舩浄流はティッシュを取り出して再び鼻をかむのだった。
心臓を高鳴らせながら人形フェルトは自分が今まで両角切にしてきたことを反復させる。
その全ての行動が両角切に対する愛情表現だと悟られていると思ってしまう。
だとすれば両角切はそれを知っていながらいたずらにわざわざ引っかかってくれたのか。
いやそれはないだろう。
両角切は玉鋼のような鈍感さだ。
ただ人形フェルトのドッキリに対して好意というものに気づいていないのだろう。
だが両角切は気がつかなくても周囲の人間は察している。
そのことを知らないのは両角切と人形フェルトぐらいのものだ。
だからこそ今になって自分の行動を振り返り恥ずかしい思いをしている人形フェルトは銀髪の髪を自らの手でかき乱しながら思わず獣のような声を漏らした。
「うぐあわっぐるるぅ!」
過去の行動が今の自分に跳ね返っている。
全てはなかったことにしたいと思う彼女の願いはどうにもならない。
過去で起きたことは現在で変えることはできないのだから。
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