第27話
「うぇ、ぐすずっ」
鼻をすすり、デコボコな地面を歩く謝花蜜璃。
まるでジャングルの奥地であるかの様に周囲には天まで伸びる樹木や蔓のカーテンで覆われていた。
厄介そうに、一歩づつ移動をする彼女はか弱い声を口から漏らしている。
「セッくぅん!どこぉ!」
両角切と別れたのが、謝花蜜璃にとっては何よりも悲しい事であるらしい。
両角切を探しているが前方は木々しかなかった。
「ズズッ…それもこれも、この樹木さんらのせいだ…、急にセッくんと遮ってきたし…昔、遊びに行った大きな迷路みたいになってるし…」
心細い事この上無いのだろう。
だが、運が悪い事に、彼女に向けて、殺意が過る。
「私がこんなにも、セッくんが居なくて心細いって事は、それ以上にセッくんも心細い筈…あぁ、早く、セッくんに出会って良し良しナデナデ慰めてあげないと…」
蔦が蠢く。
滑らかな質感を持つ蔦からは粘液が分泌されている。
その分泌された液体は、地面に滴ると草木に付着。
灰色の煙を噴き出して、大地が枯れ出した。
いや、それは腐食反応から察するに、それは高い酸性である。
それを巻き付けられれば、如何に人間と言えども簡単に切断されるだろう。
「っえ、なに!?」
酸性に濡れた蔦が謝花蜜璃の手首を掴む。
彼女の袖が焼け出して、煙が生まれると、手首を切断する勢いだった。
だが、彼女は直前に自らの手首から放出させた流力によって皮膚を保護する。
これにより、蔦による酸性を肉体が受けずに済むのだが、しかし衣服は別だ。
「ッ?!」
更に背後から彼女の背中を強く叩く。
鞭の様な痛みを覚えると共に、即座に全身を覆う様に流力を放ち、鎧を形成した。
背後に目を向けると、彼女の背中を攻撃したのは、謝花蜜璃の手首を掴む蔦と同じだ。
樹液によって肌は無事であるが、衣服が溶けている。
「なに、この蔦、気持ち悪いッ」
周囲を見回す。
蔦の先端が、謝花蜜璃に攻撃を行おうとしていた。
その瞬間、謝花蜜璃は、この蔦が一斉に攻撃してくるのを見た。
肉体は流力によって守られている。
だが、蔦の攻撃によって無防備な衣服が破られていく。
あられもない姿になる謝花蜜璃、袖を、脇下を、横腹を、胸元を、スカートを、太腿を、くるぶしを、蔦の鞭によって衣服が剥がされていく。
素肌を晒し続け、下着すら焼かれて胸元を覆い隠す。
豊満な胸が、謝花蜜璃の腕で強く抑えられて弾力のある胸が弾けそうになっていた。
「こ、んな…こんな恥ずかしい、姿、セッくんにも、見せた事無いのに…」
胸を抑えながら言う謝花蜜璃。
蔦は、酸性の鞭では倒せないと察したのだろう。
彼女の体に蔦が這い廻る、体を動かさない様に手足を蔦で固める。
「な、あッ、はな、してッこ、のッ」
身動きが取れなくなる謝花蜜璃。
すると、樹木の茂みから、イチゴの様な形状をした大きな蕾が現れる。
その蕾の根本には、蔦が生えている事から、どうやらその蔦の本体が、蕾である事が察する事が出来る。
この蕾が登場した理由、それを謝花蜜璃は考えるが、その余地すらなく、蕾が尖端から三つに均等に分かれた。
ぱっくりと三つ葉の様に開かれた蕾には、獣の如き牙が生え揃い、喉奥には、人間の骨が貯め込まれていた。
どうやら、蔦では殺せ切れぬ謝花蜜璃を飲み込んで殺そうとしているらしい。
「ひッ」
思わず息を呑みこんでしまう謝花蜜璃。
そのまま、蔦が謝花蜜璃を掴んだまま、蕾の口へと突っ込もうとする。
「いやッ、いやああッ!たす、たすけて、たすけてセッくんッ!!たすけてッ!!」
声を大きく張り上げて、謝花蜜璃は最後まで両角切の名前を呼ぶ。
彼が来てくれる事を信じ続ける、両角切さえ登場すれば、命は助かるのだと。
だが、いくら叫んでも、両角切は来ない、口が閉じられる。
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