第24話
彼らの頭に張り付いているその花こそが、彼らを動かしている寄生虫のようなものであるらしい。
その証拠に干からびて皮膚がカラカラになっているミイラのような体をした死体の癖に、その頭部だけは常に潤っている。
茎も葉っぱも花びらも、艶が色めいていた。
五十体以上の花を咲かせるゾンビたちがやって来る。
その行進に対して両角切は樹海の異様さを脳内で物語る。
「(この樹海、異質過ぎる、あまりにも超常現象がやって来る、思考する時間が無い)」
唐突に、謝花蜜璃と東洲斎白黒から離れてしまった。
更に加えて、行方不明者による花に寄生されたゾンビ化。
凶暴化しているその秘密は、花から生える根が行方不明者の皮膚の裏側に根を張り出し、血管の様に浮彫になっている。
「(考える余裕がない、なら、先ずは現状対処をするだけだ)」
両角切は拳を構える。
手を前に突き出すと共に小指から中指中指から薬指薬指から人差し指人差し指から親指をゆっくりと広げていき手を揃える。
指先が一つの槍のような形状に変化すると両角切はその指をこちらへと迫ってくる人間たちで向けて突き刺した。
確実に息の根を止めるための急所へ向けての攻撃。
主に喉元指先が深くめり込んで皮膚を裂いて肉をちぎる。
中指の腹から骨のような感触を確かめるとそれを人差し指と中指で挟み込んで思い切り引っ張る。
小枝を折るような小気味のいい音が響いた。
その一撃を以て植物に支配された人間は首が折れる。
だがゾンビのようにゆっくりと迫ってくる彼らはまるで聞いていない様子だった。
「(花による影響でゾンビになっている、彼らを操っているのはおそらくは頭から生えているあの花だろう)」
冷静に分析しながら両角切は自らの手に力を込める。
相手をいくら叩きのめしても致命傷に近しい一撃を与えたとしてもあのゾンビたちは立ち上がってくるだろう。
そしてその原因がそのゾンビたちの頭から生えている花であれば話は早かった。
「(骨角術理、『創』)」
両角切は術式を使用した。
ゾンビの頭を五指で掴み握ると、そのまま流力を発生させて人間の頭部に寄生している花を武器化する。
その花たちは自らの肉体に異変を感じ取ったのか風によって揺さぶられている茎はまるでミミズのように蠢いている。
おそらくは武器と化するのを抵抗をしているのだろうが、だが無駄なことだ。
両角切の術式を使用した以上はその肉体からは武器が生成されてしまう。
そうして小ぶりの鉈のような武器へと変化した。
骨角術理は生命を武器化する。
行方不明者は残念な事に死んでいる。
その肉体に寄生する花が動かしている。
ならば、術式対象に選択されるのは花の方になる。
両角切の考え通り、花が武器になった。
それと同時に、ゾンビは人間に戻り、そのまま地面に倒れる。
もう、動く気配すらない。
行方不明者たちは、それでも、両角切へと向かって来ている。
死者の行軍に、両角切は臆する事無く手を広げた。
「四十、五十くらい、居るな…出し惜しみはしないぞ、俺は」
そう言うと共に、両角切は流力を放出していく。
体中から溢れ出る力が形成されていき、そして両角切の背後から生まれるは、赤い甲に白い骨、鉛色の刃が額から生える、武将の様な鬼である。
鎧の隙間には、様々な武器が突き刺さっていて、それが両角切にとって大事な代物であった。
将號術理。
拡張の一種。
自らの術式を応用でも限界に感じた者が到達出来る新たな可能性。
式神と呼ばれる、術理の性能を乗せた流力の従士を生み出し、使役する力。
「『
両角切はその式神を太刀童子と呼んだ。
両角切の言葉を汲み取る様に、太刀童子は口を開くと、高らかに声を荒げた。
術理『太刀童子』
先程の通り、赤い鎧、白い骨、鉛の刃を額から生やす武将の如き鬼の式神。
特質すべきはその姿では無く、両角切の拡張術式であると言う事。
本来、術理は一点のみに注力した術式が多い。
骨角術理であれば、生命力を犠牲に武器を作り出すと言う代物。
こちらの術理は応用によって様々な武器の形を作る事が可能となっている。
だが、それだけである。
両角切の術理には限定されている事もあり、それは長時間の間、武器を顕現し続ける事が出来ないと言う事。
両角切が流力を流し続ける事で、武器としての形状を維持しているに過ぎない。
両角切の手から離れたとしても、短時間の間は形成されているが、それでも時間経過と共に崩れていくのだ。
それが両角切の術理の弱点、あらゆる武器を保有し続ける事が出来ない。
故に、両角切が発現させたのは、武器の保有と言う術理の補助。
太刀童子が顕現した場合、両角切は太刀童子に武器を保有させる事で、その武器を式神の一部と認識し、武器を保有する事が出来る。
「一撃で仕留めるぞ…『
名を告げる。
それと共に、太刀童子が鎧の隙間に突き刺さる刀を抜き放つと共に、それを両角切に渡す。
両角切が大層な名前を付けているその武器は。
「十邪祅の力を見せてやる」
両角切が、嘗て討伐した十邪祅を武器と化した代物であった。
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