第2話
女。
その言葉が延々と頭の中で廻っている。
両角家当主・両角慚愧の言い分を聞くのであればこういう事だ。
『一人当主になろうがな、世継ぎが居なきゃ家は成り立たねぇ、両角家の男はな、必ず嫁を見つけて自分のモノにすんだよ』
近くに居た愛人たちに顔を近づけてその頬を舐める。
気味の悪い行為ではあるが、愛人たちはまんざらでもないのか、黄色い声を発しながらいちゃついている。
『テメェもな、この家の長になるのなら、長に必要な餓鬼をこさえろってんだよ、それが出来なきゃ、当主の座は渡せねぇなぁ』
これが、両角慚愧の言い分であった。
その日、両角切は何か言い返そうとしたが、言い返す事が出来なかったのを口惜しく思っている。
何故ならば、両角切も両角慚愧の言葉に確かに、と納得してしまう事があったからだ。
当主になる以上は、我が家を後世まで生かさなければならない。
その役目は両角切に託されており、未来の子孫を生かす為に、両角切は子を作らなければならない。
自らの家系の血を絶やさぬ為に、必然と、他の家系も行っている事だ。
だからこそ、これは中々の難問であると、両角切は思いつつあった。
「(子を作る、それには愛を誓い合う女性が必要になる…俺にはそんな意中の相手など居ないし、俺の事に恋慕を重ねる相手も居ないだろうし…中々に難しい話だな、これは)」
重苦しい溜息を吐くと共に、両角切は地面を蹴る。
今宵は仕事である、両角切は祓々師として祅を祓わなければならない。
送迎用の車で移動している両角切。
彼以外には補助術を極めた移動係と、彼以外の祓々師が座っている。
「(考えている暇はないな。…取り合えずは、この仕事が終わってから考える事にしよう)」
両角切が向かう先は学校である。
学校には多くの感情が蔓延る、祅は陰陽で言う陰に属し、陰に関するものを好物としていた。
陰気な感情が集いつつある学校には様々な負の連鎖が膨れつつあった。
校舎の前、グラウンドへと目を向ける。
其処には、陰に寄って来る祅の姿があった。
大柄の鬼、小柄の鬼、獣の様にけむくじゃらな鬼、巨体で上半身しかない鬼。
様々な鬼が校庭に集っていた。
「(最低クラスで士祅、最大クラスで将祅って所か)」
祅には階級が存在する。
その上下の順列は、下から
この名称は、祓々師の階級の名前から付けられていた。
祓々師の場合は、祅の代わりに號と言う名がつけられる。
つまりは、
単純に、士號級祓々師と呼ばれる事もあるが、階級のみで士號術師、と呼ばれる事もある。
この階級であれば、両角切は、『殿號級祓々師』しいては『殿號術師』と言う名称で呼ばれる。
「さあ、仕事だ、始めるぞ」
そう語ると共に、小さな鬼が両角切の元へと駆け寄る。
両角切はその小鬼に向けて握り拳を叩き付けると共に、腹部を貫き、拳が臓器を破る。
そして、悶え苦しむ小鬼の内部に自らの流力を流し込むと共に、小鬼を足蹴にして手を引き抜いた。
小鬼の死体が転がる、しかし音は軽い、魂が抜け落ちた、と言うわけではない。
両角切の片手は小鬼の赤黒い体液で濡れていた、だが、その指は、一振りの刀を握り締めている。
短く、ぼろぼろで、刃毀れをしている刀。
それを軽く振るい、両角切は鬼たちに刃を向ける。
「武器になりたい奴から掛かって来い」
そう告げて、同胞を殺された恨みを抱く鬼たち。
両角切の言った言葉など意味など理解せず突き進んだ。
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