第25話

(仲間達って事は銀狼族の事だよな?返してもらいに来たって事はこの街で捕まってるのか?いやいや、盗賊王に捕まってた人は全員解放したし、その中に尻尾と耳が生えてる人なんていなかった。それにこの街でも見たことない。何を隠そう、俺は無類のモフモフ好きである!そんな人見かけたら側に置いてるに決まってる!)


「サフィーラさん何か知ってたりする?」

「もちろんです。ご主人様が奴隷商人から買い付けた銀狼族の事だと思いますよ?」

「は?」

「貴様!やはり仲間を…!」

「ちょ、ちょちょちょ!ちょっと待って!待ってください!あれ?お、おかしいな、ハハッ。何だか話が噛み合って無いみたいですね、すいませんがタイム!少しタイムでお願いします!」


両手でTの字を作りタイムを訴えるとサフィーラの肩を寄せエシルに背を向けた。


(ちょっとどういう事?そんな話知らないんだけど!?)

(大丈夫です。ここは私に任せてください)

(何か策があるのか?)

(はい、王座の間の時みたく私が魔法でご主人様の声を出しますので、ご主人様は演技をお願いします。)

(よし、分かった!)


話し合いが終わり改めてエシルの方を向むくと、歴戦の戦士のような鋭い眼孔をエシルに向けた。


(いくぞ!)


「あぁ銀狼族のことか、もちろん知ってるぜ。強い種族と聞いて奴隷商から買ってみれば、毎日泣き喚いてばかりで戦いもしねぇ。仕方ないから今は牢屋に閉じ込めてるぜ」

「き、貴様…!!」

「何ならお前も牢屋に閉じ込めてやろうか!?もちろん奴隷としてな!ガアハハハ!!」


(……ん?………ん??)


何が起きたのか理解が出来ず立ち尽くすリキに凄まじい勢いの風が吹き荒れる。その風が吹く方を見るとエシルから赤く禍々しいオーラが溢れて出ていた。


「兵や民に好かれ、救世主と呼ばれる男がどれ程の者かと思えば!とんだゴミ野郎とはな!!」

「ま、待て!違うんだ!今のは…」

「黙れ…!もうその汚い口を開くな。私が跡形も残さず切り刻んでやる!」

「怖ぇぇ!!!」


エシルが怒りに身体を震わせ、今にも襲いかかろうとした時、別の意味で震えるリキの前に一人のエルフが立ちはだかる。


「サフィーラ!!」


(何故だろう、こうなったのも全部アイツの所為なのにサフィーラを見て安心してる自分がいる…)


「お待ちください、エシル様」

「邪魔だメイド、そこを退け」

「よく考えてください、怒りに身を任せこのゴミ野郎を殺しても、他の銀狼族は兵士にやられ貴女一人となり、お仲間の奪還は失敗に終わるでしょう。」

「確かにそうかもしれんな!だが、この男だけはここで殺さねばならぬ!」

「そこでどうでしょう、ただ戦うだけでなく賭けをするというのは」

「賭けだと?」

「はい、戦って勝った方が、負けた方に何でも命令できることにしましょう」


(いや、それ何も解決してないじゃん!どっちにしろ俺が危険なのは変わらないじゃん!!)


「…分かった。ならば私が勝ったら捕まっている仲間を解放してもらう。そして、その男の命を貰う」

「分かりました。ではこちらが勝ったら貴女がた銀狼族には配下になってもらうとご主人様が。」

「いや、分かっちゃダメ!しかもそんな事言ってないし!」

「負ければ私は配下でも何でもなってやる。だが、仲間の命を賭けることは出来ん。」

「分かりました。それでいいでしょう。とご主人様が」

「言ってないわ!何でもご主人様がって付ければ許されると思うな!てか人な話を聞け!」


なぜいつも俺の声は届かないんだと嘆くリキを無視し、エシルは剣を構え敵を見据える。


「参る!」


そう告げた瞬間、既にリキの目の前にエシルが迫っていた。元いた場所の地面は凹んで亀裂が入っており、その威力の凄まじさを物語っている。そしてスピードはそのままに体を少し反らすことで力を剣へとのせていく。


その流れるような美しい動きから振るわれた剣はリキの胴体を真っ二つにする…ことはなく中を空振った。


たまたま、奇跡的に、ビビって後ろに下がった時、後ろにあった大きめの石を踏んでタイミングよく転んだのだ。


しかし、一振りで攻撃は終わる筈もなく、すぐさま上段から剣が振り下ろされる。が、またもリキに届くことはない。周りに展開された透明なバリアがエシルの攻撃を阻む。それでも一撃、更に一撃と目にも止まらぬ速さで攻撃を続けるがバリアに傷も付かず一度距離を取る。


(このバリア、サフィーラが仕掛けといてくれたのかな?よくやった!流石できる女は違うな!)


「剣が効かぬならコレはどうだ!【炎羽乱舞燃えて灰になれ】」


さっきまで何も無かった空中にジリジリと燃え盛る鳥が現れる。そしてリキの方へ手をかざすと鳥は翼を羽ばたかせ無数の炎羽が一直線にリキの方へ飛んでいった。


羽が被弾し、あたり一帯が煙に包まれ徐々に姿が見えなくなっていく。


「やったか?」

「ゲホゲホッ!あれ?生きてる…?」

「な!?…無傷だと。」


覚束ない足取りで煙から現れたのは傷一つ、灰一つ付いていないリキだった。その様子を見たエシルは、焦りを滲ませた笑みを浮かべると剣を仕舞った。


「魔法でもダメとは、さすが盗賊王を倒した男だ…。ならば私の全力でお前を倒す!【凶化きょうか】」


エシルの体が粒子を纏いながら赤い光に包まれる。光が収まると全身に黒い模様が浮かび上がり、艶やかな銀色の髪は月明かりのような優しい光を帯びていた。


「【凶化きょうか】は体力の消耗が激しい代わりに銀狼族の能力を最大限に引き出す技だ。そしてこれで終わりにする、消し飛べ!【黒天こくてん】!」


日差しが眩しい程の青空がだんだんと暗くなり、日中にあるはずのない大きな月が現れる。空には満天の星が光輝き、辺りは完全に綺麗な夜空となった。そして、無数に輝く星は徐々に光を強め雨のように街へと降り注いだ。


その威力は凄まじく、綺麗に整備されていた大通りは至る所にクレーターができ、街の中とは思えぬ景色を作り出していた。


「はぁ…はぁ…。これで、どうだ…」


パリンッ!


「み、道が!!結構お金掛かったのに〜!!」

「な!?バリアが壊れただけだと?そんな、馬鹿な…。」

「残念でしたね。」


戦いを見守っていたはずのサフィーラがいつの間にか後ろに回り込み、黒天を放ち疲れ切ったエシルへ一撃を入れた。


「グハァッ!…何の、つもりだ。」

「私はご主人様と貴女の一対一の勝負とは言ってませんよ?私を含め二対一です」


裏切り者を見る様な目でサフィーラを睨み、抵抗しようとするも、更に腹に一撃を食らいそのまま地面へ倒れ込んだ。


「私達の勝利ですね」

 

サフィーラはリキの方を向くと普段は見せない満面の笑みを浮かべた。


(き、汚ねえぇぇ!!!)





 










作者「すまん、今回も倒せなかった…。」

【身代わりの死】「気にすんなって!」

黄金のリンゴ「そうそう、もうみんな俺らのこと忘れてるから気長にいこうぜ!」

作者「次こそは必ず!」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る