第21話

ある村の古びた大聖堂。灯は蝋燭の火しかなく、薄暗い室内。その中央には大きな机があり、その机を数百人が囲むようにして立っていた。

そこへ男が慌てた様子で走って来た。

「お、お嬢!」

「…まずは落ち着け」

「す、すいやせん!」

「それで要件はなんだ?」


お嬢と呼ばれた女は女性にしては身長が高く、しなやかな体付きに無駄のない筋肉。そして何より、銀色の髪から生えた耳とお尻から出ている尻尾が彼女がヒューマンではないことを物語っていた。


「攫われた仲間の居場所が遂に判明しました!」

「「「おぉ!」」」

「本当か!?…そうか、ついに救い出すことが出来るのだな」

「お嬢…」


女は報告を聞き上を見上げると、安堵するような表現を見せた。


「して、一体どこにいるのだ?」

「はい、連れ去った奴隷商を問い詰めたところ。ヴィーゼという街で売り捌いたと言っておりました。」

「ヴィーゼ…よりによって盗賊王の街か。」


先ほどの穏やかな表情から一変、憎しみを滲ませるように拳を強く握り締める。


「それがお嬢。どうやら盗賊王ヴィスタが倒され、新たな領主になっているそうです。」

「なに!?盗賊王が、倒されただと…!?」

「は、はい…しかも噂が正しければその者は盗賊王を一撃で倒したとの事で。」

「一撃…以前、盗賊王と対峙したが、奴の実力は本物だ。それを一撃となると相当の手練れ…。盗賊王ならまだしもそれ以上となると…。どうやら私たちはつくづく神に見放されているらしい…」


強く握っていた拳を力無く開くと地面へ血がぽたりと落ちていく。


「お嬢…」

「だが、今もどこかで私たちの仲間が泣いている…今もどこかで苦しんでいる。ならば必ず助け出さなければならい!」

「「「はい!」」」」

「行くぞお前たち!必ず仲間を助け出し!またあの時のように、平和で幸せな生活を…」





———————————




チュンチュン…


「う、うん…」

「ぐーぐー」


サフィーラは目を覚ますと隣で寝ている男の目が覚めないように気を遣いながら寝顔を見つめる。


(昨日はどうしてもご主人様が欲しくなり、襲ってしまいました。ですが、必死に耐えている時のご主人様のお顔はとても可愛かった…。はぁ…寝ている顔も可愛らしい。…このままではまた襲ってしまいそうです。)


サフィーラは暫くリキの寝顔を見つめると、内から出る欲求を抑えつけながら起き上がり、いつものメイド服に着替える。


音を立てないように寝室を出て廊下を歩いていると前方から他のメイドがやって来た。


「サフィーラ様おはようございます」

「おはようございます。マイ」

「昨晩はお楽しみでしたね」

「えぇ、おかげさまで。ご協力感謝致します」


実はリキが感じた甘い香りはサフィーラの夜這いが成功するよう。このメイドが用意した媚薬だったりする。


「また必要になった時はいつでも仰ってください」

「はい、またよろしくお願いします」


サフィーラは擦れ違うメイドたちに挨拶を交わしながら、城の外を目指し歩いて行く。


城の外に出たサフィーラは近くの広いだけで何もない草原で立ち止まる。


(今日も始めますか。)


「【仮想経験】」


サフィーラがスキルを唱えると自身を中心に薄い結界が広がっていく。


ヴェアアアアアア!!


結界が完全に開き切ると、そこには禍々しいオーラを纏った漆黒の身体…現実にはもういるはずのない黒竜がサフィーラを睨みつけていた。


(何度見ても凄まじい迫力ですね。どうやったか分かりませんが、コイツをご主人様が倒したとは想像がつきませんね…)


ヴェアアアアアア!!


サフィーラが考え事をしていると黒竜がこちらに向かってブレスを吐き出した。そのブレスを舞うようにジャンプして躱わすと空中で魔法を放つ。


「【我が風よ、目の前の敵を殲滅せよインパクト】」


風が収縮し、竜の姿となって黒龍を襲う。しかし、風は竜の羽ばたきで巻き起こった風とぶつかると押し負け、跳ね返されてしまう。


バコンッ!!


(くっ!私が今出せる最大火力の風魔法なのですが…。ああも簡単に弾き返されてしまうとは。)


サフィーラは魔法が通用しないと判断すると、短剣を取り出し竜へ迫った。しかし、凄まじい勢いで繰り出されるサフィーラの斬撃ですら竜の鱗に傷一つ付かない。


(なんて硬さですか…こちらの剣がボロボロに。一旦距離を…っしまった!)


距離を取ろうとした瞬間、黒竜と目が合いサフィーラの身体が動かなくなる。その隙を逃さず黒竜が食い千切ろうと牙を立て迫って来た。


(ただの威圧で身体が動かなくなるとは…これは避けきれませんね…。)


ドゴンッ!!


サフィーラは竜に吹き飛ばされ後方の岩にぶつかり、力なく倒れた。


「はぁ…はぁ…。足一本で済んだのが奇跡…」

「ヴァアアアアア!!」


目の前が暗くなり、上を見上げると黒竜がゆっくりとこちらへ向かいながらブレスを溜めていた。


「いつか必ず、あなたを倒します…」


その言葉を最後にサフィーラは炎に包まれた。体は焦げていき、灰になりかけた時。


突如、目の前にリキが現れた。


(ご主人様?なぜ、ここに…)


リキはサフィーラを見ると突然身体が燃え始めた。人の肉が焼ける嫌な匂いが周囲に立ち込める中、リキはサフィーラを見て微笑んだ。


(なんでご主人様の体が燃えて…いや、いや!やめて!置いていかないで!)


サフィーラの想いは届かずリキの身体は灰になって消えていった。すると、サフィーラの体が輝き出し、竜に千切られたはずの足や焼け焦げた体が元に戻っていく。



竜は戸惑っていた。噛み千切ったはずの足が元に戻っていた事に。竜は困惑していた。たかが人間に恐怖を感じている自分に。



「お前だけは…お前だけは許さない!家族だけでなく、ご主人様まで私から奪うなど…。【風神の息吹消えろ、クソトカゲ】」


サフィーラの周りに風が集まり、その風が黄金に輝いていく。そしてサフィーラが黒龍へ手を向けると、黄金の風が黒龍へと向かう。


黒竜も対抗し、ブレスを放つが黄金の風に触れた瞬間、ブレスが粒子となって消えていった。そのまま、為す術もなく黒竜は黄金の風に包まれ消滅した。


黒竜が消滅してから、徐々に戦闘の跡が消えていき、結界も消え元の草原へと戻った。


「……スキルを使っていたのでした。…ハッ!ご主人様は!?」


先程の疲れなど感じさせない動きで寝室へ向かう。他のメイドに不思議な顔を向けられながらも寝室へ着くと、勢いよく扉を開け、リキの様子を確認した。


「ぐぅ〜ぐぅ〜」


(はぁ…。よかった…本当によかった。)


サフィーラはリキの無事を確認すると安堵する気持ちを込め、思い切り抱きしめた。


「ぐはぁ!な、なんだ!?体が、痛い…痛い痛い痛い!折れる〜!!」

「はぁ…。本当にご無事でよかったです。」

「な、なんのこと!?それより、マジでやめて!死ぬ!本当に死んじゃう!」


コンコン


「どうぞ」

「どうぞじゃなくて、まず…はな…し。」

「お取り込み中失礼致します。先程、領地近辺を偵察中の者から、三百人ほどの武装した集団がこちらへ向かっていると報告がありました。」

「分かりました。念の為すぐに戦闘態勢に入るよう通達して下さい」

「かしこまりました」


(どんな者だろうとご主人様の邪魔をする者は全力で排除します。)


サフィーラは腕の中で気絶している主人を見つめ、そう心の中で誓った。











スキル説明


【仮想経験】

サフィーラが黄金のリンゴを食べて覚醒したスキル。

結界を展開して自分が今まで戦ったことのある敵を召喚し、戦闘できる。そこで得た経験値は現実に反映される。(戦闘で起きた地形変化や怪我はスキルが終わると元に戻る)

仮想世界に認めた人を入れることが出来る。(人数制限無し)




さっき確認したら初めてコメントを頂いていました!めちゃくちゃ嬉しい…。これって返信してもいいの?誰か教えてくれ〜!


次からの話数は名前を付けるなら「銀狼族編」です。この編は長く無いのでサクッと終わらせたい!(ストック無し…)これからも応援よろしくお願いします。

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