第22話

「え?何で俺ここに座ってるの?あと、縛らなくても逃げないよ?」

「それで?攻めて来ている者の正体は分かっているのですか?」

「無視しないで!」


寝室で気絶した後、目を覚ますと王座の間の悪趣味な椅子に座らせられていた。目の前には見覚えのあるメイドたちと、鎧を纏った男達が片膝を着き並んでいる。


「偵察の者が確認したところ。銀色の髪に銀色の耳と尻尾が生えていたと…」

「銀狼族…。それは、全員ですか?」

「はい…」


(な、なにこの空気?何銀狼族って?なんかやばいのか?)


「その〜銀狼族ってなに?」

「銀狼族とは高い戦闘力を有し、銀狼族一人で小さい街なら滅ぼせると言われる程の戦闘民族です。」

「一人で街を…。それが三百人…。よし!逃げよう!早く逃げよう!サフィーラ早く縄解いて!」

「それでも盗賊王を倒した人ですか?酷い顔ですよ」

「おい、今俺の顔は関係ないだろ!」

「そうですぞサフィーラ様。リキ様の顔は元々です。」

「おい誰だ今の!?フォローすると見せかけて貶してきたぞ」


(何だコイツら?さっきまで沈んだ空気だったのに、何でこんな余裕なんだ?)


「何か勘違いしておりませんか?」

「勘違い?」

「私達は絶望で落ち込んでいたのではありませんよ?私達の初陣が、銀狼族たった三百人という事にガッカリしているのです」

「全くですな!この鍛えた筋肉を見せられないのが残念です!」

「腕が鳴りますな!」

「「「早く戦いたいです!」」」


(あ、ダメだ…こいつら戦闘狂だ。無理、コイツらに付き合ってたら命が幾つあっても足りない…)


兵士たちが盛り上がっている中、自分で縄を解き、バレずにこの場から逃げようとした時


ガシッ!


「どこへ行くのですか?」

「ちょ、ちょっとトイレに…」

「良かったですねご主人様。こんな所にビンが」

「それでしろってか!?」

「諦めてください。」


(冗談じゃない!サフィーラに言っても無駄だ。こうなったらみんなを説得するしかない!)


『みんな!よく考えろ!』(あれ?声が出ない?)


どれだけ大きい声で叫んでも声が出ず、不思議に思いサフィーラの方を見ると、こちらを見て口の端を上げていた。


(お前か!!!??)


「皆、静粛に!」(何で俺の声が!?何も喋ってないぞ?)


騒いでいた兵士達は会話をやめ、全員がこちらを見上げた。


「このヴァーゼの街は今まで、盗賊王の悪政に苦しんできた。」(サフィーラの仕業だな!?やめろ!)


「富を奪われ、住む場所を奪われ、隣で倒れていく仲間達を見捨てるしか、生き延びる道は無かったのだろう。」(みんな!騙されるな!)


「だが!もうお前たちは自由だ。もう理不尽に奪われることに耐える必要はない。もう涙を流しながら仲間達を見捨てる必要は無い。」(絶対想像だろ!)


「俺たちでこの街を守ろう!仲間達と愛したこの街を!」(お前は街に来たばっかりだろ!)


「「「「「おおおおぉぉぉ!!!」」」」」


「さぁ!敵は数日後に来る!各人準備を怠らずに戦闘配置につけ!」(最悪だ…。)


「「「「「はい!」」」」」



兵士やメイド達が王座の間を出てサフィーラと二人になったところで声が出せるようになった。


「何やってんの!?」

「流石はご主人様。いい演説でした。」

「喧嘩売ってんのか!?」

「さぁ、私たちも準備をしましょう。」

「いやだ!俺は逃げる!」

「いいのですか?」

「何の事だ?」

「銀狼族がいきなり攻めて来た理由は分かりませんが、攻めてくる以上、相手の目的はご主人様の首でしょう。逃げた先で銀狼族と鉢合わせたら、考えるだけでも悍しい事になるかと。」

「……。よし!今すぐ準備しよう。全身鎧フルプレートを持って来てくれ!1番頑丈なやつ!」



———————————


2日後

王座の間


「敵、あと僅かで門に着きます。」

「そうか、報告ご苦労様。持ち場に戻ってくれ」

「はい!」


(ついに来たか…。一人で街を滅ぼせる戦闘民族vs普通の人間だぞ?本当に勝てるのか?今からでも逃げれば間に合うんじゃないか?)


「安心してください、もう何も奪われたくないと兵士だけでなく、民も街を守る為に戦いの訓練をしています。」

「…そうだな。それに、最悪サフィーラがいるし。やれるだけやってみるか」

「さあ、戦いに勝って名を広めましょう」


リキは立ち上がるとサフィーラと共に城の外へ歩き出した。

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