第27話

銀狼族を見ていると一つの違和感に気付く。


「あれ?そういえばマイと戦ってた女の子の銀狼族がいないな?」

「ルイ様ですね、お嬢と一緒にいたのではないのですか?」

「いや、私は会っていないが…。」

「メイドの嬢ちゃんと戦ってた奴なら嬢ちゃんが運んで行きやしたが確かにいやせんね?」

「マイなら自分の部屋に入ったとメイドから報告がありました。」


(部屋?何か問題でもあったのかな?ルイにも今後どうするか聞かないといけないし直接行ってみるか)


マイはこの城のメイド長でサフィーラを除き、メイドで唯一個室を持っている者だったりする。ちなみにサフィーラはリキ専属メイドという謎のポジションだ。


マイの部屋へ向かっている途中、ちょうどサフィーラと二人きりになったので真相を問いただす事にした。


「サフィーラ、銀狼族に偽の情報を流してこの街を襲わせたのはお前だろ」

「やはり、もう気付いていらっしゃいましたか…」

「どうしてそんなことを?」

「……ご主人様が盗賊王を倒した事で、世界中がこの街やご主人様に関心を示しています。もしその中にご主人様に害をなそうとしている者が多くいた場合、この街や周辺の村の戦力では不十分です。ですから銀狼族を配下に加えようと。」

「最初から話し合いだけで上手く行っただろ」

「いえ、銀狼族は戦闘民族です。言葉だけでは疑いの目を向け、こちらの要求に応じてもらえなかったでしょう。一度こちらの戦力を見せつける必要がありました。まぁ、エシルという女があそこまで強いのは予想外でしたが。」


サフィーラはヤレヤレといった表情で首を左右に振る。最初から結果がこうなる事を知っていたかのようにまるで反省している様子がない。


「サフィーラもこの街のことを考えていた事は分かった。だけど、住民や兵士を危険に晒したのはよくない。なので罰を受けてもらう。」

「罰…ですか?」

「そうだ!」


(ふふふ!散々俺のことを雑に扱った恨み、今ここで晴らしてくれよう!ただどうしようかな…。あんまり重い罰でサフィーラがいなくなったら俺が困るし。やっぱり軽いのにしておくか。)


「サフィーラ!今日から一週間、自分の部屋で謹慎だ!」

「謹慎……なっ!?お待ちください!その間ご主人様のお世話係は!?」

「え?お世話係?えっと…マイにお願いしようかな?」

「そんな…。一週間ご主人様と会えない…?」


(あれ?なんか思ったより効いてるぞ?)


何が効いたのか分からないがどんよりとした空気がサフィーラの周りに流れ、ボソボソと何か呟きその場を動かなくなった。


(ダメだ…呼んでも返事がない。まぁいいか。もう直ぐマイの部屋に着くし俺一人で行こう。)


動かなくなったサフィーラを置いて進んで行く。少ししてマイの部屋に着きドアをノックしようとした時。中から何かの音が漏れ出していた。


パシンッ!

「ほ……か…」

[…ん……あ……す…おね……ま]


(ん?なんだ?なんか女の悲鳴みたいなのが聞こえた気が…。よく聞こえない、もう少し耳をドアに近づけるか。)


パシンッ!

[あんっ!]

[ほら、叩いてもらったら何て言うか教えましたよ?]

[あ、ありがとうございます!お姉様!!]


部屋の中から聞こえて来た声は余りに衝撃が強く、予想だにしないやり取りだった。


(………。あ、あぁ〜なるほどね。いや、分かるよ?うん、分かる。そういう遊びがしたくなるお年頃だよね…)


パシンッ!

[あぁ〜!!]


(……。ま、まぁ、仲良くなったみたいだし、これなら大丈夫か…。全然セーフだよ!…邪魔しちゃいけないし、用事はまた後でにしよう!うん、そうしよう!)


リキは扉から耳を離すと何かを悟ったような顔をしてゆっくり来た道を戻って行った。


その後少しの間、マイを見かけるたび何かに怯えるリキの姿が目撃されたという。




◆夜 寝室


薄暗い部屋を蝋燭の火が明かりを灯す。部屋には大きなベッドが一つ、その端に一人の男が腰掛けていた。


男は背筋を伸ばし、手は膝の上で強く握り、血走った瞳をランランと光らせている。とても今から寝ようとしているようには見えないその様子は、まさに緊張という二文字がよく似合っていた。


男が何故こんなにも緊張しているかというと、エルフを着た悪魔が部屋を訪ねて来るからでも、悪魔に襲われ眠れない夜を過ごすからでもない。…一つの夢が叶う為であった。


コンコン

「は、入れ!」

「失礼する」


男が顔を上げるとそこには艶やかな銀色の髪からフサフサの耳が生え、お尻には尻尾を携えた美女が扉の前で立っていた。


「約束通り来てやったぞ」

「あ、あぁ」

「賭けに負けたのは私だ。その約束には従うが。…しかしなんだ?あの頼み事は…」

「仕方ないだろ!夢だったんだから!」

「そんな夢を持った奴見た事ないわ!」


美女が男の寝室を訪ねたのは悪魔の様に男を襲いに来たのではなく、賭けに負け、なんでも言うことを聞くという約束を果たしに来たからだった。


「じ、じゃあ早速…」

「っ!約束だからな、抱き枕?にはなってやる…が!少しでも変な事をしたらぶちのめすからな!」

「大丈夫!変なことなんてしないから!」


男はそういうとベッドから立ち上がり、どこからともなく取り出した縄を使い、あれやこれやと美女の手と足を縛りベッドへと転がした。


「おい待て!何故縛る必要がある!?」

「ん?抱き枕なんだから縛るのは当然だろ?」

「常識のように言うな!そんなもの聞いたこともないわ!早く解け!」

「はあぁ〜!やっとモフモフできる!」

「人の話を聞け!」


美女が身の危険を感じ男に呼びかけるも聞こえている様子は無く、ゆらゆらと動きながら、しっかりとした足取りで徐々に近づいて来る。


「あぁ…。フサフサだぁ…最高だ…!」

「おい!や、やめ…。あっ、」


ついに我慢出来ず、美女に抱きつくと一心不乱に尻尾と耳を撫で始めた。ある意味覚醒状態の男に美女の声が届くはずもなく、凛とした声は徐々に高く、か細くなって夜の空へと消えていった。





次の日、リキを起こしに来たマイが見たものは、幸せそうな顔で寝ながら何かを撫でるように手を動かすリキと、艶のある声を出しながら体を痙攣させている一匹の雌犬だったという。







あとがき

どうもお久しぶりです!お恥ずかしながら帰ってきました!色々あったような無かったようなで更新が止まっていましたがなんとかこれで銀狼族編は終わりました。そして残念ながらまだまだ続きます。まだ見てくださる方がいるかは分かりませんが完結するまで何がなんでも書き切ろうとは思っていますので、どうしようもないぐらい暇な時に読んでいただければと思います!

次の話は名前をつけるなら魔王編です。メインキャラが出揃ったのでやっとスタートラインに立てました。またゆっくりまったりやっていこうと思っているのでよろしくお願いします。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る