第26話

◆王座の間


エシルが気絶し倒れた事で相手の士気が低下し、銀狼族は次々と捕えられ戦いはヴァーゼの街の勝利で幕を閉じた。報告によると驚くべきことに兵士や街の住民、そして銀狼族にも怪我の重傷者や死亡者は出ていないらしい。思いっきり斬られて、ぶっ倒れた人がいたはずだがあれは何だったのだろうか…。


死亡者を出す事なく勝てたのはいいが【黒天】のせいでバリアをしていなかったメインストリートは半壊。今、兵士と住民総出で修復作業にあたってもらっている。


そして俺はというと。趣味の悪い王の椅子に座っていた。目の前には手首を後ろで縛られ、両膝を地面につけたエシルが諦めの表情を浮かべている。


エシルの横には兵士と魔法士が並び、俺の横にはサフィーラが立っている。


(どうしよう、この状況…。)


「えーと、エシルだっけ?これから君や投獄している350人の銀狼族をどうするか決めなきゃいけないんだけど何か要望とかある?」

「私は死刑でも構わん、だが、仲間は助けて欲しい。アイツらは私に従って動いただけなんだ。」

「死刑って言われてもな…。」


(この戦いは不可解な事が多すぎる。少し確認してみるとするか。)


「この街で銀狼族が奴隷として扱われてるって情報は本当だったの?」

「いえ、調べてみましたがこの街に奴隷も銀狼族も居ませんでした」

「なるほど…。話は変わるけどみんなが銀狼族を倒すことなく縛って捕えてたのは何で?」

「何故と言われましても、戦う前サフィーラ様から銀狼族は一人も殺さず捕えるようにと、リキ様がおっしゃっていたと聞きましたので」

「ほうほう。」


俺は隣で立っているサフィーラの方を向くとサフィーラはこちらと目を合わせようとせずに、珍しく汗をかいていた。


(あぁ…。犯人分かっちゃった。ならこちら側にも少しは非があるみたいだ。というか黒幕かもしれない…。それにこんなモフモフ達を処刑だなんて勿体ない!)


「エシルこれは提案なんだけど、銀狼族全員俺の配下にならないか?なるのであれば幸い軽傷者しか出ていないし、今回の事は不問にできる。俺もモフ…戦力を強化できる。お互いにとっていいと思うんだけど」

「本当であれば死刑でもおかしくないことことをした。私に反対する権利はない。だが、仲間をこれ以上巻き込みたくはない」

「なら一度、投獄されている銀狼族にも聞いてみよう。配下になるならよし、嫌ならまぁ、解放してもいいか。みんなはこれでいい?」

「私達はリキ様の決めたことに異論はありません」


(何その忠誠心…。怖い…。)


「よ、よし!じゃ、これで解散。みんな持ち場に戻ってくれ」

「「「「「「はっ!」」」」」」



話し合いが終わり、銀狼族の意見を聞くため、俺とサフィーラ、隊長とエシルの四人で地下の牢獄に来ていた。


「お嬢!」

「お嬢、無事だったのですね」

「よかった、お嬢が生きてる…。」

「皆んなすまないな、私の我儘に付き合わせた所為でこんなことに…。」

「何をおっしゃいます、私達がお嬢に付いていきたくてここまで来たんです」

「そうです、お嬢のためなら死ぬ覚悟もできています」

「お前たち…。」


仲間の姿を見るだけでエシルがどれだけ慕われていたのか充分に分かる。なぜ銀狼族が騒がないかというと団長さんがヴァーゼに奴隷はいないと銀狼族全員に説明してくれてたらしい。


「あー、もういいか?」

「領主様!俺たちは死刑でも奴隷落ちでもいい!どうかお嬢だけは、お嬢だけは助けていただけませんか!?」

「お嬢は仲間を助けたかっただけなんです。お願いします!」

「仲間の解放だけで絶対に兵士や住民を殺さないようお嬢は命令してました!」

「お願いします!」


エシルが最後の挨拶をしに来たと勘違いしたのか、全員が涙を流しながらその場で土下座をしていく。


(え?そのお嬢に殺してやるって言われたんだけど…?ま、まあこちらの兵士や住民に重傷者や死亡者がいない理由が分かったし。)


「いや、俺達は最後の挨拶でもお前達の罪を問いに来たんでもない、お前達に提案をしに来たんだ」

「提案、ですか?」

「そうだ、こんな素晴らしいモフモ…忠誠心を持ったお前達を罪に問うのは心苦しい。そこで銀狼族全員、俺の配下にならないか?配下になればこの街で暮らしてもらっていい」

「いいのですか?俺たちはこの街を攻めたのですよ?」

「問題ない!住民には俺からしっかり説明しよう。仕事も与えるし安心して暮らしてもらって構わない」

「そんな、仕事まで…。」

「そして仲間が奴隷にされているのは俺も許せない!他の銀狼族の情報収集と奴隷解放を全力で手伝わせてもらう!」

「敵だった俺たちにそこまで…。」

「すぐに決めなくてもいい、ゆっくり考えてくれ」


何時に無くやる気を出し、完璧な対応をしているリキにサフィーラが驚いているとその返事はすぐに返ってきた。


「いえ、時間など要りません。敵であった私達を許してくださるだけでなく、私達を受け入れてくださいり、あまつさえ仲間の救出にも尽力していただけるとは。救世主の異名は間違いでは無かったのですね。どうか私達の忠誠をお受け取りください!」

「分かった、これからはこの街のために励んでくれ」

「「「「はっ!」」」」

「後のことは隊長さんに任せる」

「承知いたしました。お任せください」


完璧な対応。人々を惹きつけるオーラ。そして人望。まさに領主に相応しい振る舞い。しかし、その裏では。


(グフッ!グフフフフ!ガアハハハハ!!これで夢にまで見たモフモフパラダイスだ!!)





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