第12話 サフィーラ(後)

「…い…ぶか?…こ…るか?」


(声が聞こえた気がする。私は生きているの?)


「う、うぅ…」


(全身が焼けるように痛い…声も出せない。なんだ、結局死ぬんだ、私。)


復讐も出来ず、生きるのを諦めようとした時、口の中に何が入って来た。


(これは何?甘い…美味しい。すごい、力が漲ってくる。それに焼けるように痛かった全身も喉も治っていく?一体何が…)


「おぉ〜す、すげー!まさか黄金のリンゴにこんな力があったとは…」


「うぅ…ここは…」

「よかった、気がついたか」


目を開けるとそこには黒髪黒目の冴えない男が立っていた。


「あなたは…」

「ぼ…俺はリキ、たまたまここを通ったらあんたが倒れてたから、治癒させてもらった」


(リキ?誰かは分からないけど、この人が私を助けてくれたのかな…?でもどうやって…あの怪我じゃお母さんでも回復出来ないのに。)


不思議に思い、男を睨んでいると手に黄金の果実を持っているのが見えた。


「それは、もしかして黄金のリンゴですか?」

「ああ、回復効果があったみたいだったから使わせてもらった」


(黄金のリンゴと言えば超貴重アイテム…1000年に1度出回るか分からないほどの物を私の回復のために…)


「私なんかにそんな貴重なものを使って下さったのですか?」

「貴重?ま、まぁ…あんたが死にそうだったんでな、助かってよかったよ」


優しい笑顔でリキは私に微笑んでくれた。


ドキッ!

(なんだろ?胸のあたりがドキドキする…恥ずかしくて、顔が見えない。)


「じゃ、俺はもう行くよ。お大事にな」

「待ってください!」


(ど、どうしよう、でもこの人に恩返ししたい!)


「俺の旅は険しいぞ、お前には付いて来れないだろう」

「大丈夫です。この身を賭して必ず付いて行きます」

「そ、そうか…ならば付いて来い」




リキさんと一緒に旅をするようになって分かったことがある。


一つはリキさんはこの世界についての知識が乏しいことだ、と言うかほとんどない。今までどうやって暮らして来たのか分からないほど。


そしてもう一つは。


「お!サフィーラ、ウサギがいたぞ!あいつを狩って今日は肉だ!ウサギ、すまないが俺の血肉とn、ぶぐぇええだぼは!」


見ての通り物凄く弱い。


「弱いんだから無茶しないでください」

「あいつが最強のウサギだっただけだ、運が悪かった…」

「そうですか」


(こうやって意地を張る所も面白くて、つい笑ってしまう…。笑顔なんて何年ぶりだろう。)


「信じてないな!仕方ない、とっておきを見せてやる!」


リキを見て微笑んでいるとバカにされたと勘違いしたらしく、アイテムボックスから何かを取り出し始めた。


「ほら!俺が倒したドラゴンだ!」

「つ…!!」

「どうだ、すごいだろ!」


(黒竜…?いや、見間違えるはずがない!本物の黒竜だ…リキさんが倒したの?でもどうやって…。)


「本当に倒されたのですか?」

「そうだ!(まぁ、気がついたら死んでたけど…)」

「…」


涙は出なかった。悔しい思い、苦しい思いを沢山したけど、これからはこの人が…ご主人様が側にいる。


(…この人は私の闇も払ってくれたんだ。私はもう過去に囚われなくていいんだ…ありがとうございます…ご主人様。)


「すぐ分かる嘘をつかないで下さい」

「嘘じゃないわ!」

「では、どうやって倒されたのですか?」

「え?えっとーそ、それは…」

「さ、早く先へ進みましょう」

「待て!信じてないだろ!本当だってー」




数日後、森を抜けたあたりで男5人に囲まれた。


「おいサフィーラ、ここは俺がやる。いつも俺のことバカにしてるからな、しっかりと俺の強さを見ておけ!」


チクッ

(なんだろう。何故かは分からないけど、ご主人様が他の人に触られるのが物凄く嫌だ…私のご主人様が。)


気付けば体が動いていた。


(やってしまった。…でも怒った顔も素敵。驚いてる顔も誤魔化してる顔も全て好き…)


ご主人様を見るだけで胸が高鳴る。


(誰にも触れさせない、私が守る。私がずっと側にいる。ご主人様が願ったことは全て叶えて差し上げよう…私の愛しいご主人様。)





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