第11話 サフィーラ(前)

私が生まれた村は自然を愛し、自然と共に生きる、そんな村だった。父は村一番の戦士で魔物が村を襲って来た際、それを蹴散らす英雄だった。

母は村一番の回復魔法の使い手で子供からお年寄りまでみんなに愛されていた。


そんな自慢の両親と平和に暮らせて私は幸せだった。


いつものように部屋で寝ていると外が騒がしくなっているのに気付き、目が覚める。


「お父さん、お母さんどうしたの?」

「サフィーラ!今すぐ旅の支度をしてこの森を出なさい!!」

「ちょっと、どうしたの?そんなに慌てて…それに、お父さんは?」

「いいから早く!」

「わ、分かった…」


支度を終えお母さんの元へ戻ると家の入り口にお父さんが血だらけになって倒れていた。


「サフィーラ、無事だったか…よかった」

「お、お父さん!どうしたのその怪我!な、何があったの!?」

「サフィーラ、よく聞け。今、村は黒竜に襲われている。村の戦士で迎え撃っているが、崩壊も時間の問題だろう」

「こ、黒竜?どうしてそんな奴が…」


現実を受け止めきれず固まっていると、回復を済ませたお父さんがまた何処かへ行こうとしている。


「サフィーラ、お前は逃げろ。この森を出て他のエルフの村へ行くんだ」

「な、ならお父さんもお母さんも一緒に!」

「私達は皆が少しでも多く逃げられるように戦わねばならん」

「そ、そんな…じゃ、じゃあ私も」


戦う。と言葉にしようとした時、お母さんが私を優しく抱きしめた。


「サフィーラ、生きて…。生きて幸せに暮らして」

「お、お母さん…」

「さぁ、早く逃げなさい、もうすぐここは炎に包まれる。その前にこの森を出るのよ……サフィーラ愛しているわ。」


お母さんは私から離れるとお父さんと何処かへ行ってしまった。


そこからの記憶はあまりない。気づけば森を抜けた所でボロボロになって倒れていた。ただ、逃げる時に見えた黒竜の顔だけはしっかりと覚えている。


(憎い。いきなり村を襲って来た黒竜が…!悔しい…何も出来ず、ただ逃げることしか出来なかった自分が。)


「必ず仇を取るから待っててね。お父さん、お母さん…」


それから私は他のエルフの村へは行かず、黒竜の情報を求め、旅を始めた。



故郷を失って3年が過ぎた頃、魔物の森近辺で黒竜を見たという情報を聞き、急いで森へ向かった。森へ着き、探索していると凄まじい勢いの風が肌をすり抜ける。


「黒竜…」


3年も追い求めた黒竜が目の前にいたのだ。両親の仇、今すぐにでも殺してやりたい憎き相手…。しかし、私の身体は言うことを聞かなかった。


(こ、怖い…仇なのに、ずっと探してたはずなのに…怖くて、体が動かない…。)


「ヴェアアアアア!!」


(まずい…!避けられない!)


体が竦んでいたせきで黒竜のブレスを避けきれず、木や岩と一緒に吹き飛ばされてしまう。


(あぁ…この3年、仇をとるために生きて来たのに。目の前に黒竜がいるのに。また何も出来なかった…結局、何も変われなかった。強くなれなかった。ごめんなさいお父さん、お母さん…)


遠くなる意識の中、幸せだった頃の記憶と両親の顔を思い浮かべ、意識を失った。








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