第24話
「いいのですか?仲間が一人倒されてしまったみたいですが」
「フン!あんなジジイにやられるアイツが悪い。それに元々助ける気なんてなかったし!」
おじさんとゴウが戦っている横でマイとルイはその場を動かず睨み合っていた。
(まぁ、実際は助けに行けなかったが正しいけどね。この女、全く隙が無い…。それにすごいプレッシャー!向かい合ってるだけで身体がビビって動かない。)
「一つ、質問をしてもよろしいでしょうか?」
「せ、戦闘中に質問なんて、随分余裕なのね。いいわ、私に答えられることなら答えてあげる」
(今は少しでも時間を稼いでこの女を倒す算段を考えないと…。)
「ありがとうございます。では、何故貴女がた銀狼族はこの街に攻めてきたのでしょうか?どうにも攻める理由が分からないのです」
「ッ…!よくもまぁそんな白々しい事が言えるわね!あんた達が私達の仲間を奴隷として酷い扱いをしていることは分かっているのよ!」
「奴隷?銀狼族を…?」
「そうよ!偵察隊がこの街で仲間が買われたっていう情報を掴んだんだから!」
「情報……。なるほど、私達は皆、踊らされていたのですね。あの方はいつからこの状況を想定していたのか…」
「何をブツブツ言っているよ!?」
「失礼いたしました。質問に答えて下さり、ありがとうございます。それでは私達も始めるとしますか」
(まだこの女に勝てる算段が見当たらないのに!)
「待って!質問に答えたんだから、あんたも質問に答えなさい!」
「ええ、私に答えられる質問でしたら、何なりと」
「どうしてあんたはこんな所でメイド何かしているの?」
「どうしてと言いますと?」
「対峙しただけで分かるわ、あんたは強い…それも相当。私達銀狼族は目もいいの、あの奥で
質問を聞き終えるとマイは戦闘の構えを辞め、何かを思い出すように目を瞑った。
「だからですよ」
「は?」
「確かにご主人様は全てにおいて平凡です。領主の仕事をサフィーラ様に押し付けて逃げようとするダメ人間です。それでも盗賊王に挑み私達を救い出して下さいました。自身も力を持たず怖かったはずなのに…。盗賊王を倒した後、城に捕まった私達の元へ来て、もう大丈夫だよと笑顔を向けてくださいました。震える足を必死に動かしながら、震える手を伸ばして。その時私達は…私はこの方のために生きたいと、そう思ったのです。」
マイは閉じていた目をゆっくりと開き、慈愛に満ちた表情で優しく微笑んだ。
「貴女も、そうでしょう?仲間のため、主人のために戦っている。」
「……。えぇ、そうだったわね。つまんない事を聞いて悪かったわ。あんたにも私にも守りたいものがある」
お互いに通じ合うものがあったのか、それ以上は語らず、ただ目の前に立つ女を倒さんと動き出す。
ルイはそのしなやかな体を活かし、建物を利用しながらマイの周囲を縦横無尽に駆け回ると、そのスピードによりマイを囲むように残像が出来ていく。
(よし!このスピードには、付いて来れて無い!このメイドの戦闘スタイルは分からないけど、私の速さに付いて来れなければ関係ない!)
残像は本物のルイのような動きを見せると一斉にマイへと向かってナイフを投げつけた。
同時に投げられたナイフはただ一点。マイの首に向け迫る。
無数に迫る鋭い刃がマイの細首を切り付けようとするなか、マイは一歩もその場を動かず、ただ指を少し曲げた。その瞬間、見えない何かに絡まるようにしてナイフの動きが止まる。
(何にあれは?光?何かがあの女の周りにあるの?それが光に反射して…。まさか、糸?糸で全てのナイフを止めたって言うの…?)
余りの出来事に動きを止め、ただ茫然と立ち尽くす。
「もう動き回らなくてもよろしいのですか?」
「ッ!なめるな!」
煽りに対する怒りからか、先程までの残像を使った攻撃を辞め、自身のトップスピードで一直線にマイへと突っ込む。愚直にされど獣が最も得意とする力任せの一撃。自身のポテンシャルを最大限に活かした渾身の蹴りをマイへ放った。
その蹴りは周囲に張り巡らされた糸を引きちり、なおもスピードは落ちることは無く、その場の空気すらも切り裂いていく。
「フフ」
「ッ!」
その瞬間、瞬きすら許されない僅かばかりの時間の中で、マイの不気味な笑いをルイは聞き逃さなかった。このまま攻撃を続ければ確実にマイへと当たる。しかし戦士の勘が、獣の直感がこのまま進んではダメだと反射的に身体を動かし距離を取った。
(何に、今の…。アイツは動いてなかったし、あのまま行けば確実に私の攻撃は当たっていた。なのに、何でこんなに身体が震えているの…。)
「流石は銀狼族ですね。今の一瞬で反応するとは、あのままいけば貴方の足は切断されていましたよ」
「フン!何をしたか分からないけどまだ戦いは終わって無いわよ」
「いえ、もうおしまいです。」
そう言うと今まで感じられなかった糸が巻きつく感覚が全身を支配する。その力は銀狼族であるルイの体が動かなくなるほど。
(いつの間に!?糸が体に巻き付いて指一本すら動かない!どんだけ頑丈なのよこの糸は!)
「この糸はサフィーラ様から頂いた黒竜の鱗を素材として使っています。その強度は鉄の剣すら刃が立たずボロボロになる程です。いかに銀狼族とは言え千切ることはできないでしょう」
(黒竜…!なるほど、見えていた糸はフェイクで本命はこっち。わざと糸を見せる事で私がその糸を警戒している間に、本命の糸を私の体に巻きつけたのね…。)
「そう…。私の負けってこと。…殺せ。あんた達に捕まって、もて遊ばれるより死んだ方がマシよ!」
「殺しはしません。大丈夫ですよ、悪いようにはしませんから。なので今は少しだけ眠っていてください」
マイはルイに近づくと首を軽く叩き気絶させた。
「隊長様、この子は私が頂いてもよろしいでしょうか?」
「おう嬢ちゃん、運んでくれるならありがてぇ」
「ええ、では私はこれで」
マイは糸に巻かれ気絶したルイを担いで城の方へと歩いて行った。
「う、嘘だろ…。」
「そんな…ゴウ様もルイ様もやられるなんて…」
「何なんだ、この街の兵士の強さは…」
「もうダメだ…」
ゴウやルイが一方的にやられた姿を見て銀狼族たちは絶望を顔に浮かべ次々に地面へと膝を突く。
今まで雑魚だと思っていた人間に翻弄され自身の力は全く通じず、プライドが砕かれ下を向く。そんな銀狼族の間を一人の女が歩いていく。
「コイツも捕まえろ!」
「ぐはぁ!」
「何だコイツ!強すぎる!」
襲い掛かる兵士達を一撃で斬り伏せると銀狼族の先頭に立ち、その場に剣を突き刺した。
「諦めるな!!」
女が言葉を放つと下を向いていた銀狼族が女の方を向く。女の圧倒的オーラ故か、敵であるはずの兵士達も動きを止め、戦場が暫し静寂に包まれる。
「こんな事でお前たちは絶望するのか?捕まった私達の仲間は今この時にも酷い扱いを受けているだぞ。ここで膝を突けば仲間を、銀狼族の未来を失う!お前達はそれでもいいのか!?」
「「「お嬢…。」」」
女は凛としたよく通る声で、膝を突く仲間達に語りかける。その声を聞き一人、また一人と瞳に溜めた雫を払いながら、或は雫を地面に落としながらゆっくりと立ち上がっていく。
その瞳は力を無くし濁っていた先程までとは違い、力強く闘志に燃える戦士の瞳をしていた。
「前を向け!敵は下ではなく目の前にいる!そしてお前達にはこの私が付いている!今こそ狼の恐ろしさを見せてやれ!!」
「「「「おおおおぉぉぉぉ!!!!」」」」
女の声が合図となり銀狼族が一斉に動き出す。その動きは一人一人がバラバラではなく、隣の仲間を、捕らわれた仲間を必ず助けるという真の銀狼族の力。
「クッ!何だコイツら!さっきまでとは別モンだぞ!」
「気を抜くな!やられちまうぞ!」
「いけぇ!お嬢の邪魔をさせるな!」
「必ずお嬢が領主の首をとってくださるぞ!」
「誰かあの女を止めろ!」
「絶対領主様の元へ行かせるな!」
戦場は激しさを増し、先程までの静寂が嘘のように剣と剣が重なる音がそこら中で響き渡る。そんな中を女は堂々と城へ向け歩いて行く。兵士は止めようとするも銀狼族の力に押され、女の元まで辿り着く事が出来ずにいた。
(やばい!やばい!とんでもない奴が来ちまったよ!なんちゃって領主の俺とは違う圧倒的なオーラがあるもん!どうすんだよこれ!)
「フフ…さぁ、ご主人様。私達も向かいましょう!」
「え?向かうってあそこに?」
「もちろん、ご主人様の出番ですよ」
「冗談じゃない!見ただろ!
「【
「またコレかよ!!」
サフィーラとリキの身体を光が包み少しずつ空中へ浮いていく。そのまま空を進み、こちらへ向かって来る女の前に着地した。
ガシャンッ!!
「ぶへぇ!!」
「領主様、着地くらいちゃんとしてください」
「お前が顔面から落としたんだろ!」
「何の事ですか?」
「お前…!」
(絶対いつか痛い目見せてやる!)
リキは砂の付いた顔を赤くして、サフィーラを睨む。
「今、領主と言ったか?」
「へぇ?いやいやいや!言ってませんけど!?空耳じゃないですか!?」
「この方がこの街の領主、リキ様です。」
「サフィーラ…!」
「そうか、お前が領主…。」
(サフィーラの奴、わざと俺のこと領主って呼んだだろ!何で毎回毎回こんな目に遭うんだ!不運スキルでも付いてんのか?…だか今はもうやるしかない!出来るだけ強者感を出して偉そうに!舐められたら終わり!)
「そうだ私がこの街の領主リキだ。それで?お前の名前は?」
「私はエシル、銀狼族の族長エシルだ。私達の仲間達を返してもらいにきた」
(仲間達?何言ってんだコイツ?)
全然更新出来ていなくてすいません!面白い作品を見つけて読み専になってたとかじゃないんです!読み始めたら止まらなくなっちゃったとかじゃないです!
エシル「……」(ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!)
作者「……。」
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