第2話一夜にして汚部屋


「はぁ~~~~っ!? ロイド、お前もう一度言ってみろ!!」


 幼馴染のエリックは俺を冷たい目で見下した。


「奥さんに出て行かれて辛いだと!? その前にこれをみろ!!」


 エリックは、まるで舞台俳優のように大きく手を閃かせた。その先に広がる光景に心なしか呆れた目をしながら彼は叫ぶ。

 

「みろ!このゴミの部屋を!!ゴキブリの住処か!!?」

 

「俺のマンション!俺の部屋だよ!!失礼だな!!!」

 

「これが人間の住む部屋だと思っているのか?! フローリングには埃がたまりまくっている!窓には蜘蛛の巣、そして床には菓子袋やら酒瓶が転がっている!ソファや椅子の上には服が錯乱して座る事も出来ない有り様だ!これを見てお前のことをゴミ屋敷の住人だと言わずしてなんて言うんだ!!!」


 エリックの指さす方向には確かに、食べ終わったお菓子の袋や酒瓶、衣類などが散乱してる。でもそこまで言う?酷くない?傷心の俺を慰めにきたんじゃないのか?

 

「ロイド、俺がお前の家のルールに従わない理由はだ」

 

「?」

 

「……分かってない顔だな。いいか、俺が何時ものようにお前の部屋の玄関で靴を脱がないのはこの場所が危険地帯だからだ!!」


 ビシッと俺に指をさすエリック。

 えっ!?なに?

 

「このゴミだらけの部屋では靴を履いていないと本当に危険なんだ!!なんだその顔は!スリッパがあるじゃないかって言いたそうだな。アホか!スリッパ履いていても危険だから靴のままなんだろ!!靴がなければここでは歩くことも出来ないんだ!!!そのことを理解しろ!!!」


 あー成程ね……うんうん。なっとく。俺も一応靴ははいてるからね。それはしょうがない。というよりもエリックに「靴を履け!アホか!!」って来た早々に罵倒されたせいだけど。

 俺のマンションは妻の意見を取り入れて日本式のマナーを徹底している。玄関で靴を脱いで室内用スリッパに履き替えたりなど。そういったちょっとしたマナーは俺にも合ってた。

 

「離婚される理由が思い当たらないというが、俺はこの状況だけで十分だと思うぞ!たった一日でこんな状態する男の妻なんて馬鹿らしくてやってられないだろ!」


「本当に失礼だな。俺の奥さんは誰もが認める“できた嫁”だぞ!!」


「アホか!! どんなに“できた嫁”だって愛想尽かすわ!!」

 

「そ、そんなことない!俺の奥さんは綺麗好きの料理上手なんだから!!」

 

「綺麗好きは関係ないだろ。もっとも、一日でここまで汚部屋にするお前じゃあ百年の恋も冷める。よくもまあ、十年も結婚生活が続いたもんだ。感心する。俺がお前の奥さんなら三日で逃げる自信があるぜ」

 

 そういって肩を上げる動作をして笑っているエリックに何だかムカつく。俺は全然笑えないんだよ!だって奥さんの事大好きだし別れたくないもん!!


 大体、前提が間違っている。

 俺の奥さんは「仕方ないね」とへにゃって笑って許してくれる聖母みたいに優しい人なんだ!そんな奥さんとエリックなんかを一緒にするなんてそれこそあり得ない!!俺は心の中で反論しながらエリックを見返した。


 俺の視線に気付いたのか、エリックは溜息をついて呆れたように頭を掻いた。その様子から俺への哀れみの気持ちを感じ取れてムチャクチャ腹立たしい。何だよ一体!言いたいことがあるなら言えよ!!ムカムカしながらも我慢して黙っている俺を見たエリックがまた大きな溜息をつくとスマホで何処かに連絡をし始めた。


 その態度が余計に腹が立つ!言いたい事があるならはっきり言えよ!

 

「今、お前のに連絡を入れた。直ぐ来るだろうからちゃんと説明しろよ」


 はあ!!?

 保護者だって???

 誰だよそれ!!



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