第44話和食

(お、おいしい……え?お米ってこんなに美味しいかったの?)


 準備されていたのは和食。

 食べ慣れないものを提供されて一瞬どうしようかと迷った女性ではあったけれどロイドは喜々として「いただきます」と言うと女性を放り出して食べだした。勢いよく「食べる」と宣言した手前、「やっぱりいりません」とは言えず、椅子に座り恐る恐る食べ始めたのが真相だった。



 一口食べたらもう箸が止まらない。


 朝食は至って普通のもの。

 白ご飯、御味噌汁、卵焼き、白和え、漬物。


(なにかしら?お米って亀噛むほど甘く感じるわ。ロンドンにはアジア系のものが結構あるから私も中華をたまに食べにいく。その時に食べたお米とはちょっと違うわね。もちもちしてるわ)


 女性はお米の美味しさに感動した。

 そして、味噌汁。

 こちらは薄味で胃に優しい味つけ。中に入っている具材も消化にいいダイコンとニンジンと豆腐。色どりとして細ネギが入っていた。


(おいしい……。普段は殆ど朝食は食べないのに……。飲んだ次の日は頭は痛いし喉はカラカラだし胃が持たれて食べる気がしないのよね。でも、何でかしら?このスープは食欲をそそるわ)



 ほうれん草とニンジンの白和えはほんのりとした甘みがある。キュウリの柴漬けは、歯ごたえがいい上に絶妙な酸味がご飯との相性が抜群だった。


 最後の卵焼きはふっくらとしていてダシの味がしみ込んでいてこれもご飯が進む進む。あっという間に出された料理は全てたいらげてしまった。

 女性にとって初めての体験ばかりだ。

 今まで食べてきた食事は何だろうと思ってしまうくらいだ。

 女性は目の前で嬉しそうに微笑んでいるロイドを見つめる。

 ロイドは朝食の準備をしてくれた男にしか目に入らない様子だった。


(本当に楽しそうな顔をしているわ。まるで子供みたい)


 女性の目から見ても、無邪気さを感じる笑みだ。

 こんな顔は初めて見た。


 その後、朝食を用意してくれた少年が青年であり、ロイドの同居人であることを説明されたと同時にショタコンの文字が頭を過ったことは余談である。





 この数年後に、彼女は一般人の日本人男性と電撃結婚を果たす。

 人気女優には似つかわしくない男性だと週刊誌に取り上げられていたが、彼女は一切気にしなかった。夫にベタ惚れな人気女優に男性のファンは一気に減ったものの逆に女性のファンは急増した。その理由は、彼女のSNSが常に飯テロで溢れていた事も理由の一つだろう。


 サラリーマンの夫は愛する妻のために会社を辞め、彼女のマネージャー兼主夫となっていた。

 毎日、夫の料理を投稿する人気女優の私生活は大半の予想をはるかに上回るほど充実していた。それは演技にもかなり影響を受け、後にイギリスを代表する実力派女優として名を馳せた。


 


 





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